2.満月
一人泣き続ける少女をよそに呆然と夜が来るのを待つ。
満月は月に一度、それも天気が優れていないと綺麗に見ることが出来ない。そして今日は快晴。絶好の月見日和なのだ。
俺は天体望遠鏡の準備を入念にする。少しでも長く観察するために。
準備を済ませて少ししてから、ふと気になり少女の顔を見る。
もう泣き声は止まっており、目を真っ赤にしながら体育座りをしていた。
「あの……一つ良いですか?」
少女は突然俺に話しかけてきた。
軽い暇潰しにはなるだろうと考え、特に何も考えず了承の返事だけ返した。
「満月を見るのって……そんなに大切なんですか?」
その言葉に、一瞬激情に駆られる。が、なんとか自分自身を制止させる。
当たり前だ。自殺を止める理由が満月を見るだなんて、世間的に見れば余りに馬鹿らしいだろう。
それが止められた当の本人であれば尚更意味が分からなく感じるかもしれない。
だが……
「大切だ。少なくとも、俺にとっては」
「顔……怖いです」
よほど怖かったのか、少女は少し身動ぎをしていた。
怖がられることは慣れているから別に良い。そんなことよりも、満月を見ることの重要性が少しでも理解して貰いたい。
「そろそろ、だな。」
夕日が沈んでいくのを見ながら、俺は小さくそう呟く。
時刻は六時半を回っており、校内からも下校を促すアナウンスが響いてくる。少女はというと、先ほどから夕日をずっと眺めている。
俺はそんな少女を横目に見ながら鞄からタッパーを取り出した。
「何ですか……それ」
「月見団子」
月見をする際は団子を食べる。古来より日本伝統の風習だ。
俺も満月を見るときは欠かさず持ってきて食べるようにしている。大半は天体観測に夢中になり、残るのだが。
「食いたかったら勝手に取ってけ」
「え?嫌、私は別に……」
そこで少女のお腹がギューと鳴る。少女は恥ずかしそうにこちらを見つめてきた。
俺はタッパーを少女の横に置き、望遠鏡を覗き込んだ。
「……ありがとうございます」
少女は小さくお礼を言って、タッパーを開けて月見団子を取り出した。
俺はその様子を気にも留めずに天体を見る。もう夕日は沈み、辺りは暗くなっていた。
「お!」
思わず叫んでしまう。丸く綺麗な月が見えたからだ。
それだけでは無く、周りの星もとても綺麗に輝いている。
本当に綺麗だ。鮮やかに光輝く星々はいつ見ても飽きない。
だが、やはり何と言っても月だ。
俺は一度天体望遠鏡から目を離して裸眼のまま月を見つめる。
月は雲などの邪魔が一切なく、暗闇の中を美しい異彩を放っている。
「月が……綺麗だな」
「……本当ですね」
少女もいつの間にか月をじっと見つめていた。
鮮やかな月の光は幻想的な輝きを演出してくれる。この輝きばかりは他の星とは比べ物にならないほど美しい。
「……だが、この光は太陽のお陰なんだよな」
「?」
少女は俺の呟きに疑問を感じたのか首を傾げながらこちらを見てきた。
俺は少女の目を見ながら、感じたことを話した。
「結局、この美しさも太陽っていう存在があるからこそだ。無ければただ暗闇をさ迷うだけ。だが、太陽の光があれば月の夜を照らす輝きになるんだ」
「……」
「あー、だからよ。お前もいつか会えるんじゃないか?お前を輝かせてくれる太陽に」
俺としたことが、余計なアドバイスをしてしまった。それも変な例え話を交えて。
満月を見れて思わず浮かれてしまっていたのだ。
「……ありがとう、ございます」
少女は頬を赤らめながらお礼を言ってきた。
納得したのなら、良いか。
「あの!私、一年の
「二年。
俺はそれだけ言うと、また望遠鏡を覗き込んだ。
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