幾多の星、地球の片隅で。

黒崎柚月

1.ある日

暗闇で金色に光る星々。取ってみようと手を伸ばしても、届くはずもない。

ただ、幼かった俺にとってその景色がとても美しく、儚く感じた。

その景色を永遠のモノにしたくて。

精一杯の手を伸ばして取ろうとした。


不可能だって、分かっていても。







校内に終礼のチャイムが鳴り響く。

生徒達の喧騒が俺の耳に入ってくる。俺は机に顔を伏せたままその騒がしさがなくなるまで眠り時間を貪る。幸いにもこの学校には俺に話しかけるような物好きはいないので、俺は安心して熟睡することができるのだ。


みなと、お前また寝てんのかよ」


前言撤回。この男だけは別だ。

学校でも距離を置かれ、誰も近寄ろうとはしてこない俺に唯一話しかけてくる幼馴染。


「何の用だよ、遠野とおの


俺はゆっくりと面を上げ、呆れた口調でそう伝える。ずっと伏せていたので入ってくる光が眩しい。

光の中、ぼんやりと男の姿が視界で捉えることが出来た。

遠野健二とおのけんじ。高身長で、遊ばせた毛先に茶色がかった髪型。やけに自信満々な明るい目つきはコイツの性格を表しているようだ。

どうやら楽しそうに笑みを浮かべながらこっちの様子を伺って来ていたようだ。


「そろそろ光に慣れてきた?」


「お前のノリには一生慣れない」


「ひっど!」


遠野はやけに楽しそうに俺に話しかけてくる。

俺としてもノリは面倒くさいがコイツと喋ること自体は楽しく、自然と口角が上がる。

会話上手。ということもあるのだろうが、話をしていて飽きないのだ。


「そういやさ、今日だろ?」


「満月のことか?」


「そうそう!お前楽しみにしてたもんなぁー!」


そう言って遠野は感慨深そうに何かを呟きながら頷き続ける。一体何の事だか理解することが出来ない。

今日を心待ちにしていたのは確かなのだが、この男が感慨深くなる意味が分からない。

そもそも満月は月に一回あるのだ。別にそこまで喜ぶほどのことでもない。


「いやさ、お前ってばいつも何かを憎むような顔してるからさ。でも、天体見てる時だけはちっちゃい頃みたいに純粋で楽しそうな笑顔になるからさ」


遠野はニカっと笑みを浮かべる。

そうだ。遠野は良い奴なのだ。遠野がいたお陰で、今俺はここにいることが出来ている。

全く。俺なんかには出来過ぎた親友だ。


「ありがとな」


「……おう!じゃ、俺は生徒会の仕事しに戻るな!お前もさっさと帰れよー!」


そう言い残して足早に帰っていった。


「まさか。帰るわけねぇじゃん」


そう小さく呟き、俺は鞄から天体望遠鏡を取り出し、代わりに他の荷物を乱雑に突っ込みいつも通り屋上へと足を運んだ。

この学校の屋上はとても綺麗な夜空を見ることが出来るのだ。おまけにここに誰かが来ることは基本ない。俺のお気に入りの場所だ。

が、今日に限って先客がいたようだ。それも、手すりの向こう側に居る。


「おい、そんな所にいたら死ぬぞ?」


俺はソイツに声をかけてみる。本来であれは関わり合いになりたくはないのだが、こんな所、こんな時間に落ちて死んでしまったりする奴が出でもしてみれば、俺は今日の満月を見れなくなってしまう。いや、最悪今後この場所すら来れなくなってしまう。


先客の元にゆっくりと歩み寄る。

黒く長い髪にセーラー服の少女だ。

少女はこちらに冷めきった顔を向けてきた。


「死んでも良いです」


少女は冷たく笑いながらそれだけ言い放った。

まぁ、そんなところにいるくらいだし。そりゃあそうだ。


「だかまぁ、お前が良くても俺が困るんだ。だからさ、一旦こっちに来てくれ」


「何故です?」


「もうすぐ満月が見れるからな」


俺が時計を見ながら手招きをすると、少女は少しこちらを睨み付けて来た。

そして、少女は外側を見つめて飛び降りようとした。しかし、間一髪の所で俺が腕を掴んだので少女を無事に引き上げることが出来た。


「意味が分かりません。何で止めるんですか?」


「言ったろ、もうすぐ満月が見れるからって」


「だから、意味が分かりません……」


それだけ言うと、少女は泣き崩れてしまった。

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