第18話 王子の恋愛相談の結論
私…イーデン・ヴァージル・クィントンは伯爵家次男坊でありまして、第二王子で未だに未婚恋人婚約者無しのヘタレ野郎王弟殿下ライオネル・ハリスン・ダウディング様のお付きの従者です。
ライオネル様より5歳上です。顔は地味ですし髪も瞳も茶色の七三分けで眼鏡をしております。一応結婚はしております。子供も一人。2歳の可愛い娘がおります。娘めちゃくちゃ可愛いですよね!いつも頬ずりしまくってます。
私のことはさておき、王子です。
最初の聖女さまが召喚されてから王子はその外見のガリガリさに大層心配されていました。まぁ、今にも死にそうでしたしね。
彼女と毎日会うという約束をしていたらしく、私もお部屋まで毎日王子の後から付き添いお部屋の前でお待ちしておることが多くなりました。
部屋から出ると王子は
「もっと…栄養を…このままではまた死ぬぞ!?どうにかしなければ!明るい話題を探そう」
とかブツブツ言ってました。
しかしその後第二の聖女のおじさんが召喚され第一の聖女様は王宮から出されることになりました。第一の聖女様を心配していた王子は執事カールの手引によりとある所に聖女様を匿われているらしいです。私にも居場所は教えてくれませんし、自室に転移魔道具を置いて自分以外の転移ができなくしてあります。
まぁ兄王のスチュアート様にバレたくはないのでしょう。
そして第三の聖女様が召喚された後、数日…王子は明らかに悩んでいました。
「王子?どうなさいましたか?」
「え?何が?」
と王子は考えるポーズを取って悩ましげに美麗な顔を歪めています。というか思い切り悩んでるの丸わかりですしもはや声かけないといけない空気でしたよね?
「ええと、何か悩みでも?」
「ええ?参ったな?判っちゃうかな?流石イーデンだ。妻子ある男は違うよね」
誰でも見りゃ判りますよ王子。普段は貴方が突っ込み役というのに突っ込んでもらいたい事態が起きているのですか?
「……………イーデンは確か今の奥さんとはれ、恋愛結婚だったな」
何ということか!王子の口から恋愛とか出てくるとは!まさかの!!
「はい…。幼馴染で最初は妹のように仲良くしておりましたが段々とお互い成長するに連れ意識しましてね。イレインの見合い話が持ち上がった頃どうにもいたたまれなくなり私から告白し恋仲になり婚約しあっさり結婚して可愛い、それはそれは目に入れても痛くないくらいの可愛い娘をもうけまして。これがまた仕事から帰るとめっちゃ可愛くてね、イレインももちろん可愛いですが、やはりあの可愛らしい娘のお出迎えとか見たらもうたまりませんな!!」
「いや、長いよ!娘自慢長過ぎるよ!!過保護過ぎ!!ヨネモリ先生と真逆!!」
ヨネモリ先生とは第二の聖女のおじさんのことだ。あの人は護衛と共に旅立ったようだ。
そして第三の聖女ユッキーナ様の実の父親らしい。
「ヨネモリ先生様は本当は娘さまを…ユッキーナ様のことちゃんと愛しておられますよ。娘ですからね。私も父親ですが、娘を嫌いな父親などおりません…。照れ隠しでしょうね。年齢もありますし」
「そうか…まぁ俺もそんな気はするよ。あの二人…仲良くないように見えるが本心では違うのかもな」
「……話は逸れましたが王子一体何を悩んでるのでしょう?」
「いや、別に…イーデンはその…今の奥さんを妹みたいと思っていたのだろう?何故意識したんだ!どこで恋に変わったのだ?」
「えーと…まぁ私の場合は初めてイレインが夜会デビューしてドレスを着飾っていたのを見た時からでしょうか。…あれ?何か可愛い?いや可愛いよね?これあの…夜会で男に声かけられちゃうよね?ダンスとか申し込まれちゃうよね?あれ、どうしよう!!
みたいな感じでございましたねぇ」
「成る程…ふーんドレスかぁ…。そう言えば聖女はいつも寝巻きだな。そろそろ少しは回復して歩けるようになったろうな。ドレスは生地も重いし、まだ普通のワンピースか。………あいつが贈るのだろうか…」
王子はこの頃、聖女の匿い先に行っていないというか行けないようです。何故?
「王子も贈ればいいじゃないですか。気になるなら」
「くっ!それができるなら!…というか俺は別に聖女の婚約者でもないし、匿い先の奴が…聖女に惚れてて結婚したいようだし!!?」
とついに苛立ち始めた。
あーーーー…王子…これあれですよね?恋愛相談でしょ?恋しちゃってますよね?
「王子…匿い先の方がどなたか知りませんがその方のせいで王子は聖女に会いに行けないと?まぁ今は聖女ではなく庶民でしょうが」
「……俺は王子と言う身分だから庶民と会うことすら許されん。そこを突いてくるんだ…。それに罠もあるし」
「罠?なんですか?」
「転移したらワニと戦う羽目になる!!」
な!ワニの所にその匿い者が転移魔道具を置いたのか!?
ぶふーーーー!!!!
「おい、イーデン…何にやけてる?笑ったろ?今?」
「いえ、別に!」
キリっとした。
「元聖女様のご意志も判らず仕舞いですし、一度話し合いをして確認されるのが良いでしょう。ワニと戦うのを臆しているのですか?ワニは目潰しが1番の弱点と鼻孔を強打するのも有効です。もし噛まれたら口の中の口蓋弁を引っ張りましょう。まぁ、最悪腕を喰いちぎられてもなんとか撃退はできるでしょう」
「喰いちぎられたくはない!!」
「ワニは獲物に噛みつかれたらデスロールという回転を仕掛けてきて獲物を弱らせて殺します。デスロールには気を付けてください!」
と私はアドバイスした。
「何だよデスロールって!!くそ!なんで聖女のとこに行くのにこんな試練が!」
「まぁ仕方ないですが、とりあえず愛の為なら王子なら大丈夫ですよ!きっと辿り着けます!」
「なっ!あ、あ…愛とか…そんなんじゃないよ!」
と王子は顔を真っ赤にしていた。
出ているよ!顔に出ていますよ!!
「ただ…会えなくなるのは心配というか…。もやもやするというか」
いやそれ恋!だから恋!恋しちゃってる!!
ライオネル王子は昔から女性にあまり関心が無かった。
その美貌故にモテはやされたり言い寄られたり媚薬盛られそうになったり、既成事実を作り王妃や側妃を狙う令嬢は沢山いた。正直王子はうんざりしているだろう。
美形とは罪ですね。
「イーデン…俺は…なんなのだろうか?」
「王弟殿下であります」
「それは判っている!!そうじゃなくて、男として…何というか何もできんというか…、いや…約束一つ守れぬ王子とかね?」
ああ、1日1回会うとか言うのまだ守ろうとしていたんですね。もう会ってないけど。
「王子………失礼な発言をお許しくださいますか?」
と私は前置きして言った。
「好きな女ならさっさと取り戻して来いよ。このグズが!」
と。
「いや……イーデン…凄い言ったよね。俺王子だけど…いや…す…好きな女か…。やはり好きなのか?俺は…」
王子は胸を押さえて苦しそうだ。
「ではプレゼントを持って、ワニと戦う準備もして行ってこられたらどうです?浄化ならユッキーナ様に何とかお任せして」
「お前は俺に王子を辞めろと言いたいのか?」
「それは出来ないでしょう。今も国民は瘴気に侵されており病人は増え続けております。幸い王子は精霊の加護を受けられました。聖女様を守りながら手助けすることができます」
「ヨネモリ先生のように俺も元聖女と旅立てと?」
「元聖女様がまだ貴方に気があるのならです。聖女はこの世界に3人も召喚されたのですよ?各々聖女が浄化を続けていけば国も救われましょう…。閉じ込めていたら何も出来ませんがね」
と私が言うと王子はようやく顔を上げて決意した。真剣な顔をして…
「ワニと戦うよ…」
と王子が言った。私はそれを聞き
「ぶふーーーー!!!!」
と吹き出した。
「やっぱり我慢してたな!!?イーデン!!」
*
イーデンに相談し霧が晴れたようにスッキリした。
俺は…会いたい!とにかく会いたい!会って確かめる!ワニと戦ってまでりぼんに会って何がしたいかは判らないが…!
ダスティンにこのままりぼんを渡して本当にいいのか?このまま会えなくなってもいいのか?
『1日1回会いにくる』
の約束を破ったまま、どこの誰とも知らぬ女性と結婚させられ国の手助けをする。そんな人生…。
「嫌に決まってんだろうが!」
俺は全身に鎧を纏い盾を持ち剣を持ち更にりぼんに贈るワンピースの入った箱を持ち廊下を歩きジロジロ家臣達に見られて自室に入って転移魔道具の前に立った。
「ダスティン!俺はきっと罠をかわしてりぼんに会いに行く!!」
そして転移魔道具を使った!!
*
バシャン!
と冷たい水の中に落ちた。何とかプレゼントは濡れていない。魔法で濡れないコーティングしといたからな!
俺にも生活用の基礎魔術程度なら使えるしな。
攻撃魔法は大して使えない。アシュトンに比べたら蟻くらいのものだ。
「さあ!来いよワニ!!」
と身構えた。
地下は少し広くぷくぷくとワニが吐く息の泡が見えた。俺は盾を魔法で水面に浮かべてその上に立った。
影が水面から見えていきなりグワっとワニが襲ってきたから俺は魔法で盾ごと水面を滑り移動して避けた。そしたら後ろから2匹目が顔を出していたから剣で鼻先をぶっ叩くとワニは暴れて俺はまた水面を移動した。
しかし移動した先で下からワニが盾を突き上げ態勢が崩れた!水の中に落ちた所をワニがやってきて鎧の足に噛み付いた!!
くっ!!少しの痛みだが貫通は完全ではない。完全に顎の力で噛み砕かれる前にと俺は水中でワニの目を目掛けて指で目潰しした!!
ワニは足を離し俺は水中から出て盾にまた乗り出口を探した。ワニはそれ以上は襲って来ない。
地下を見廻し梯子を見つけた。
俺はともかく上へと登った。そして一息ついた。
「喰いちぎられなくて良かった」
少し噛まれた右脚は負傷したがワニに噛まれてこの程度なら助かった方だ。
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