第17話 おっさん聖女とギャル聖女
おっさん聖女ことヨネモリ先生は相変わらず引きこもって酒を飲んでいたがとうとう3番目の聖女であるユッキーナ様が召喚されたことを知らされ、りぼんと同じように兄上はおっさんを早めに王宮から追い出そうとしていた。
おっさんはそれを侍女から聞きあっさり承諾した。
「ようやくお役御免というわけだな?私はもう聖女ではないしどこへとも去る覚悟は出来ている。最後に知り合いの元生徒の小園に挨拶したい」
と言っていた。
「待ってください!流石にそれは!ヨネモリ先生も何処か安全なところへ…」
「いや、いいんだよ…私のすることなどこの異世界の地に置いてないよ。元の世界とは文化も違うし一人で仕事を探そうにも文字も読めない。バイトすらできんよ。私は人に迷惑をかけてまで生きようとは思わない。旅をしてもしあの蜂の巣を見つけたらなんとか一人で浄化をしてみるよ。その際に人に笑われてももういいんだ」
と力なく笑った所にアシュトンがユッキーナ様を連れて来た。
「「ん!!?」」
ヨネモリ先生とユッキーナ様は同時に声を上げた。
「な、何しとるんだ!?お前は…」
「何でここにいんだよ!クソジジイ!!」
え?何?また知り合いのパターンですか!?何ですか?今度は?
「また元生徒さんとかですか?」
「いや違う、別れた妻の娘だ。つまり私の娘だ。月に一回は会って小遣いを渡しとったんだ」
「ええ!?ヨネモリ先生の娘さん!!?」
「聖女の娘!!娘も聖女!!?」
とアシュトンはこんがらがっている。
「こんなアバズレを聖女として召喚したのかね…」
「おい、このハゲ!娘にアバズレはないっしょ!?」
「やかましい!ギャルだかなんだか知らんが取っ替え引っ替え男とチャラチャラしよって!何故こんな娘に…」
「はん、ママもあんたみたいなハゲに愛想が尽きたからイケメンダンディなおじさんと上手くいってんし!再婚もうすぐだったのにこっちにあーし呼ばれたからママのウェディングドレス見損ねたけどー、あーしはこのアシュトンと結婚するしいーか!」
とアシュトンの腕を取る。
「なっ!何いい!!あんた!黒髪の魔術師!!貴様、この娘と付き合っとるのか?いや優樹菜!!お前が強引に迫ったな!?なんてことだ!」
「つかジジイがあーしの前の聖女とかウケる。何、女装したんだって?バカす!!そして引くわ!」
「くっ!優樹菜!!お前も聖女として呼ばれたらちゃんと役割を果たせ!!男とイチャイチャするのがお前の仕事じゃない!!この国の人々は瘴気と言うものに侵され病気にかかっているんだぞ!?」
「だからアシュトンと結婚したらやるっていってんじゃん!つかクソジジイはさっさと去れば?」
「さっきから親に向かってクソジジイだのハゲだの言いやがって!!このクソ娘!!」
「あんたもうあーしの父親じゃねーし!父親面すんなし!どうせ生徒にもハゲ森とか言われてんだろ!!」
「……………」
ヨネモリ先生は言い返せない。実際呼ばれていたしな、りぼんにも。
「ふん!こんな世界で会いたくなかったわ!さっさとここから出て行ってよね!…そういえばもう一人いるんだっけ?その子は?」
「あの子は追い出されたよ。王様に。…元の世界では私の生徒…お前もメディアで聞いたことはあるだろう。小園…」
「まさか…小園って…あの?ウッソ!TV見た…。苦しくもジジイのクビの原因の生徒かよ!ウケる!行方不明になったって聞いてたけどまさかこの世界にいたってワケ?ま?くくく!!」
「やめなさい!笑うことでもないだろう!小園は小園で可哀想な子なんだ!死のうとしてこちらに呼ばれたが助けられて生きている。最初こっちで会った時痩せこけていた。今は回復する為療養してるみたいだ」
「でもそいつが使えないからあーしやジジイも呼ばれたってわけっしょ?」
「…お前がいい娘だったら同じ年頃だし友達にでもなってくれると助かるが…無理だな。お前はそんなだし…」
親子はまだまだ会話している。本当は仲が良いのか?
「無理っしょ?TVで散々報道されてっけど見たところ隠キャっしょ?あーしとは趣味合わなさそー!てことであーしはアシュトンと結婚してパパッと浄化して国を救うモノホンの聖女やっちゃうしー!!ジジイは地道に旅にでもどこにでも行けしー!」
と言う。実の親に…。さっきから見ていたがこのユッキーナ様は親に対して尊敬すらもない。信じられなかった。もちろんこの国でも親子で殺し合いをしたりと言う血みどろな貴族などもいる。だが、それとも違う。
奥様とは離縁なさったようだが、ヨネモリ先生はりぼんを我々がこちらに呼んだせいで職を失い離縁し、娘には月に一度会い、金を渡すだけとか…なんか辛いぞ!これは俺でも死にたくなるって!!
おっさんにも優しくしてやれよ!!もっと!!
と思っているとアシュトンがなんとユッキーナ様の頰をパチンと叩いたーーー!!
「びゃっ!!?」
驚いてユッキーナ様がアシュトンの少し怒った顔を見ていた。
「え!?どったのアシュトン??」
流石に青ざめたユッキーナ様。
「………貴方は…ご自分の親に対して何てことを!!自分は尊敬した父は既に他界しております!魔術を代々伝え教えてくれた父に自分は誇りと敬意を持っています!もう二度と会うことはありませんが!…ユッキーナ様をここまで育ててくれたのでしょう?何故、親子なのに分かり合えないのか!!ううっ!」
つか、何でお前がそこで泣くの?
無関係だよね?俺もおっさんが可哀想と思ったけど泣くううう!?
「アシュトンくんだったな…君はほんとに真面目で良い奴だな!こんな可愛げのない娘には勿体ない!!無理矢理娘に迫られたんだろう?」
するとアシュトンは赤くなり固まる。
その様子を見てやはりなとヨネモリ先生はため息をつく。
「王子…貴方にも世話になったし娘が迷惑をかけるかもしれんがよろしく頼むよ。後、小園には会えるのかね?」
「そ、…それが…ちょっと問題がありまして…」
「ん?問題?」
………どうしよう…。今はあの子爵家に転移できない…。ダスティンが転移魔道具をワニの所に置いておくというなら尚更ヨネモリ先生を連れて行けない。
正面から子爵家に入ってもあの罠だらけの仕掛けを回潜れるかどうかだ。
前に貰った仕掛けのある所は変更されているに違いない。
危険だ。
それにりぼんはダスティンと結婚するのだろうか?彼女の本心を聞いていない。というか聞きにいけないが…。
悩んでいるとヨネモリ先生は俺を連れてバルコニーに出る。
「何か悩んでいるなら話してくれ王子。楽になるぞ?私で良ければな」
とツルッパゲの頭が光った。
俺はヨネモリ先生に相談してみた。
すると
「なるほどな…。嫉妬か。そのダスティンとか言う子爵はよほど小園をあんたに渡したくないのだろうな…」
「やはりそんな勘違いを…俺は別にりぼんのことは妹のように思っているだけです。1日1回会うという約束を守れなくなりましたが。先生はりぼんは納得していると思いますか?確かにダスティンならりぼんを幸せにできるでしょうし」
「ふむ…。監禁されとるようなものだろう?果たして小園の意思がどうであろうとその強固な部屋からは自力では出れないだろう?それに王子…。本当に小園が結婚を望んでいるなんて判らない。こっちの世界じゃ年齢的に結婚できる年なんだろうがな。王子は小園が結婚しても良いのかね?あんた酷く辛そうだな。小園のことを好きなんではないか?」
俺はビクリとした。
「そんな…妹のようなもので」
と笑うと
「妹の為に幸せを思うなら悩んだりしないだろう?会いたいんじゃないかね?」
あ…会いたい?
そりゃ確かに強制的に会えなくされた。
………会いたいのか?俺は…。
「正直判りません…俺はあまりこれまで女性に興味はなくて…言い寄られても皆、権力と容姿にしか興味はないのだろうと思い…」
「ふむ…まぁ容姿については小園の態度であんたは好かれとるな。小園は地味だが、髪を切りそろえていたそうだな?最初はボサボサだったろう?女性が身綺麗にするのは十中八九男に良く見られたいせいだろう。きっとお前のせいだろう。生きたいと思えたのもな」
「………俺は…義務で…」
しかし先生はポツリと
「青春だな…」
と言った。なんだ?セイシュンとは?
「いや、今は若者の間ではアオハルと言うのか。私も高校教師だった頃は教室で騒いでる生徒達が良く言っていた単語だ。ほらあの若い侍女の娘さん…ジェシカとか言ったかな?そんな年頃の娘さんは学校へ行って友達と騒いでいる年なのに働いているからついジロジロ見てしまったよ。気持ち悪いという顔をされたがな」
おっさんはまぁそうだよな、と言い遠くを見ていた。
「小園には私は挨拶できそうにないな。このまま旅立つよ。明日にでも。娘の優樹菜とも最後に会えて良かったよ。あんなのでもどうかあのアシュトンくんと幸せになってほしい」
「旅の資金や護衛を一人つけます!」
「ありがとうな、王子…。自分の気持ちをよく考えて…な?」
「はい…誠に申し訳ない」
俺は頭を下げた。
*
それから翌朝旅支度と護衛を一人伴ったヨネモリ先生はユッキーナ様に再度
「結婚してもアシュトンくんに迷惑をかけるんじゃないぞ!?ていうかお前が浮気するなよ?母さんみたいにな!」
「は?しねーし!………さっさと行けば?」
「あの…お元気で…。自分はまた会える日を楽しみにしております!い、いつかそのぉ…子供の顔を見にいらしてください!」
アシュトンはそう言った。
ヨネモリ先生は涙ぐみユッキーナ様にはキモと言われていたが気にせず
「参ったな…死ねんじゃないか!孫の顔を見るまでは…」
とアシュトンと握手してユッキーナ様の頭を撫でて
「じゃあな優樹菜…。幸せになりなさい」
と言って去った。
ユッキーナ様は何も言えなかった。
ただ静かに父の背中をいつまでも見ていた。
再会される頃にはわだかまりが溶けているといいのだが。
そして俺は…りぼんを取り戻すことを考え始めた。
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