第12話 王子は侍女とデートさせられる

「うふふふ!殿下!今日は約束通り私とデートですね!よろしくお願いしますう!!」


 とカールの双子の妹ジェシカ・エセル・ノースだ。というかカールとほとんど同じ顔だ。違うのは身長と声と体型か。多分性格が腹黒いのも似てる。

 栗色髪は肩までのフワフワの髪で犬を彷彿とさせる。薄桃の瞳は一見すると可愛らしく見えるがその奥の腹黒さが時折ギラギラと熱を持っていて油断ならない。


 彼等双子は金の執着が酷い。

 今までも夜会で沢山の女性たちから媚薬を盛られそうになって若干の女性嫌いとなった俺は何となくそういう打算的な女が近寄って来るのが判る。


 ジェシカにもそういう匂いはする。

 このデート…油断してはいけないな…。こいつが何か仕掛けて来るかもしれない!カールの妹だしな!


 と気を引き締めていると


「やだあ!キリッとしてる殿下素敵ですうううう!!女性は皆殿下にイチコロですうう(王子だしな)」

 ボソリと本音が漏れてるよ!!

 今日のジェシカはいつものメイド服ではなく薄緑のワンピースを着ていた。街歩きに適しているのだろう。


「ジェシカ達の伯爵家はかなりの借金をしているんだそうだな」


「はい!兄さんが聖女様と結婚できたら良かったのですが…今や元聖女は王様に捨てられ代わりにおっさんの聖女様が来られたので流石に兄さんもやる気を無くしたので私と王子の仲を応援してくれているのです!!」


「はは、君は随分と本音を言うのだね…」

 むしろガッツリ過ぎるな!!


「当然ですわ!!だって王様が殿下にお見合い話を持ってこられたでしょう?隣国の王女様とか。まごまごしてられませんものぉ!」

 と馬車の中でジェシカはニコリと微笑んでみせた。


「そうか…だが俺が王女や君を選ばないこともある。そもそも俺は結婚に今興味がないんだよ」

 と言うとジェシカは


「まぁ…それはもしやあのガリガリ娘のことを考えているのですかぁ?ライオネル殿下。いけませんわぁ!あの女はもう聖女としては失格。王様も手放す程使えない。回復を待っていたらこの国の方が先に滅ぶと仰いましたよね!?


 それならばまだあのおっさんの方が使えましてよ!ルッカ村では浄化作業は一応完了したのでしょう?」


「……君達は…聖女をまるで道具か何かのように言うんだな。いくら異世界から来たとは言え同じ人間じゃないか!」


「この世界では身分の無いものは奴隷以下のホームレスと同じですわ!いいですか?殿下!貴方は王子!あの娘はホームレスです!!ゴミですわ!!」


 パシン!!


 俺は気付いたらジェシカの頰を叩いていた。


「………すまない…」


「………いいえ!いいのですぅ!む、むしろもっと…叩いて欲しいですけどおお」

 とジェシカもなんか変なスイッチが入ったようだ。流石双子。


 街に着いてジェシカはニコリとなんでも無いかのように笑っている。気まずい。さっき頰を叩いてしまったし。


「殿下!とにかくお店に入りましょう!私欲しい宝石がありますの!!」

 いきなり図々しいおねだりが始まった。しかし宝石店は閉まっている。


「ちょっとー!!なんなのよぉ!折角街に来たのに休み!?」


「いや、どこも店じまいだな。やはり瘴気を怖れている。王都はまだ瘴気に侵されていないとは言え、あまり外を出歩くと病気になると思っている民が大半だ。こんな時にデートする奴もいないだろう」


「私達がいるじゃないですかぁ!」

 ジェシカは諦めなかった。

 そしてアイスクリーム屋を発見し、俺をグイグイと引っ張って行く。


 アイスクリーム屋のオヤジさんは俺を見ると


「王弟殿下!!ライオネル様っ!!何故こんな所に!!?」


「街の様子を見に来たんだ…。どの店もやはり瘴気に警戒しているみたいだね」


「ええ…まぁ…近くのルッカ村は浄化されたと聞きましたが…あ、もしやその方が聖女様?」

 とジェシカを見たオヤジさん。

 ジェシカは


「やだー!おじさん!違いますよぉ~!私は…殿下の…こ」


「ただの侍女だ」


「そうですか…まぁ…残念だったな嬢ちゃん」

 とオヤジさんはジェシカのアイスをおまけした。


「どう言う意味よ!失礼ねっ!!」

 俺もアイスを受け取った。

 りぼんはアイスを食べれるだろうか?でも待って帰るのはできないな。溶けてしまう。

 転移魔道具もここにはないし。


 アイスを食べているとジェシカに子供がドンとぶつかりジェシカの服にアイスがべチャリと落ちた。


「あーっ!!!」

 汚されたことにジェシカは怒り怖い笑顔で


「ぼく?おうちどこにあるの?お姉さんに教えてくれる?この服とても高かったんだよ?」


「ひ!ご、ごめんなさい!!」

 と子供は怯えるがジェシカは逃げようとする子供を捕まえて足をつかみ宙ぶらりんにして子供はぼたぼたと何かを落としたと思うと沢山の財布だった。


 スリだった。


「ふん!この私からお金を取ろうとするなんて!憲兵に突き出してやるわ!」


「うえええん!!」

 と子供は泣き出した。


「よしよし、大丈夫か?見逃してあげるからもうこんな悪いことはしてはだめだよ」

 と言い子供を逃した。ジェシカは


「殿下はとてもお優しいのですね!!でもまたやりますよ!あの子供は!」

 ジェシカは子供が落としたお金を拾い、ちゃっかり懐に入れていた。お前こそ泥棒だ。


「殿下ぁ!服が汚れちゃいましたわぁ!新しい服を買ってくださいませぇ」


「は…はは」

 この女。要領がいい。

 何故かとても疲れて開いている洋服屋に入って店主に


「すまん、この人の服が汚れたので適当なものを見繕ってやってくれ」

 と言うとジェシカは目を輝かせて


「まぁ!流石殿下ですわ!!ではお言葉に甘えまして!ちょっと貴方!そっちの服にあっちの服、その服もあら宝飾品もついでに!靴もいるわね!!」

 となんかすっごい買い出した!!

 おいいいいい!

 おまっ、いい加減にしろよ!!どんだけ散財させる気だよ!王子だからってお前俺を財布だと思ってないか?


 しかし結局ジェシカは長い時間あれもこれもと選び続けていた。女の買い物は長いと言うが…めちゃくちゃ長かった!!3時間くらいはいた!!

 俺はすっかり飽きてその辺の椅子に座って居眠りしてたわ!!


 目を覚ました頃ジェシカは着飾り、しかも目一杯の荷物を抱えており恐怖した。


「そんな荷物ではもうどこへも行けないからもう帰ろうか…」


「あらまだランチもカフェも行っておりませんわ!!うふふ!ほら殿下早くぅ!」

 とジェシカはピュイっと指笛を吹くとなんとカールが木の影から現れてジェシカの荷物を受け取っていた!!


 こ、こいつら!!

 そしてボソボソ言い合っている。嫌な予感しかせず、俺は逃げようとしたが直ぐにジェシカに捕まり俺はランチやらカフェやら土産物屋に引きづられていき、その度になんやかや買わされた。


 カールは荷物を魔道具の袋に収納してニヒニヒしていた。何軒目かの土産物屋でジェシカが選んでいる最中、蒼いリボンに金の模様の入ったものが目について俺はそれをこっそりと買った。そして後悔した。りぼんは名前がコンプレックスだったのに!


 ていうか俺は何故りぼんの土産を買っているんだ!?いや、折角街に来たしな。何も無しというのはな。りぼんは病床で動けないから。

 だが、自分のセンスの無さに絶望した。こんなの渡せるか!


「殿下ー!次はこれを!!」

 とジェシカに呼ばれ慌てて買ったリボンを服のポケットに入れた。


 *

 そして夕方…たんまり買わされた俺…。ニコニコ顔のジェシカ。付けてきているニコニコ顔のカール。

 こいつらの一族から金を貸してやった人達の気持ちがよく判った。


「じゃあ…今日はもう疲れたから帰ろう…」

 と言うとジェシカは


「ふふふ、ありがとうございます!殿下!最後に私を王弟妃か側妃にしてもらえませんか?」

 とジェシカは俺に擦り寄り首に手を回す。

 酷く香水臭い。

 そして耳元で物騒なことを呟いた。


「………スチュアート王の暗殺ならば…私がダスティンに頼んだらいとも簡単に玉座はライオネル殿下のものですわ!スチュアート王にはまだお子がおられませんもの…。このまま隣国の王女の元へ婿入りとなってしまっても良いのですかぁ?ダスティンなら私の言うことは何でも聞いてくれますわぁ!」

 と言ったからジェシカを突き飛ばした。


「きゃっ!」


「兄上は確かにぼやっとしたり流されたりしているが俺のたった一人の兄だ。不穏な事を口にするな!」

 ジェシカは


「申し訳ありませんわ…殿下…。でも…私は殿下が王になられた方がいいと思っただけですの…」

 そう言うとさっさと馬車に乗り込んだ。

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