第11話 聖女を匿う

 王宮の天井から抜け出す王子の俺ライオネル。

 カールに付いていき何とか外へ出るとカールは魔道具を渡した。


「姿を隠せる魔道具だよ。これで街まで行きましょう」


「街か…やはり病院に入れられたのか?聖女は」


「僕が調べたら、かなりヤバイ闇病院だけどね。そこの医者は患者を平気で実験道具にする頭おかしい奴で入院したら最後戻ってこれないとか。普通は悪いことした貴族なんかが秘密裏にその医者によって解剖させられてホルマリン漬けだよ。王家も危ない医者隠してるねぇ」

 と言うから俺は驚く。それは違う。兄上のぼけがそんな所を知っている筈もない。


 きっとまた元老院の手の者が手引きしたのだ。


「そんなとこに…り…聖女が…」


「生きてればいいですね。元聖女様」

 俺はぐいとカールの襟首を掴んだ。


「案内しろ。それと滅多なことを言うな!」

 ただでさえ死にたいと普段から言ってるんだぞ!?これあっさり喜んで殺されちゃうかもしれないだろ!?


 俺が心配からそう言ってると


「そんなに元聖女が心配なんて…殿下…恋しちゃったの?あんなガリガリの女に。もう王様に庶民落ちまでされてる。完全に見捨てられたね」


 はぁ!?恋?何言ってるんだこいつは。

 俺は別に女に興味はない。りぼんがマジでガリガリだしあんな状態で誘拐されるとかないだろ!心配しない奴の方がおかしいって!!ていうか人としてどうなんだよ!

 腹黒カールはどうでも良さげに見えるが。


 まぁ、ジェシカとのデートを引き換えに了承したから仕方ない。


 姿を消す魔道具を使い、街の怪しい病院施設に急いだ。

 やっと到着してこっそり受付を抜けて部屋を調べ出すと何故か地下への階段を見つける。

 そっと降りて薄ら鍵が開いていたので中を覗くと何やら怪しい男がヤバイ道具を持ちりぼんに迫っていた!!


 俺は咄嗟に駆け寄り後ろからその男を殴り気絶させる。魔道具の姿消しは効果が切れたようだ。りぼんがいた。

 前髪を切り揃えていて、黒目がぱっちり見えていた。



「大丈夫ですか?り…聖女!」

 後ろにカールがいるから名前は呼べず、聖女と呼ぶ。カールは気絶した男をげしげしと蹴り上げ縛り始めた。


 りぼんが駆け寄り俺に抱きついた。震えながら泣いていた。


 …暖かい。生きてる!生きてた!


 可哀想に。怖い思いをしたろうな。ガリガリの身体をそっとさする。

 もう少しで殺されていた。泣いていると言うことは生きたいと願ったのか?一歩前進だな!偉いぞりぼん。


「ちょっとー!ラブラブしてる場合じゃないですよ?さっさとここを抜け出さないと!殿下何処か宛はあるのですか?王様にも知られないような所でなおかつその人が隠れられる所」

 とカールがジト目で見て言う。


 ラブラブとか勘違いするな!そんな場合じゃないだろ!


 ともかくカールは新しい姿消しの道具を渡した。こいつ何個持ってやがるんだ!!?


「別荘なんかはどうだ?」

 と提案すると却下された。


「流石に王様に直ぐにバレるから辞めといたら?仕方ないなぁ、ジェシカとのデート忘れないでよ?殿下!僕の知り合いの暗殺者さんのとこに行きましょう!」


「なんだよ、その物騒な知り合いは!!」


「大丈夫ですよー。意外と楽しい奴だから」

 と言い、俺たちは病院を抜出し今度は怪しい暗殺者の元へと急いだ。

 途中で息を切らすりぼんを背負ってやると


「あ、ありがとうライさん!お、重くない?」

 と聞かれた。もう軽すぎて涙出そうになるよ!!お願いだから早く太ってくれ!!


「心配ありません。羽のようですよ」

 と俺が言うとカールは


「天然のたらしだ!!うっわ、聖女睨んでるこわっ!でもちょっとゾクゾクする!いいねそれ!」

 とか言った。


 そしてその暗殺者という奴の所へと向かった。

 そこは意外にもちゃんとした邸宅だった。


「ここは俺の友達のバイゴッド子爵邸です!借金まだ返してないんだけど他と違ってまだ優しい方だから…」

 ここからも借りてるのか!!どんだけカールの家はヤバイんだよ!!


 訪ねるとカールの友達と言うダスティン・ジョナス・バイゴッド子爵が出てきた。カールと同じくらいの若さだった。両親が早くに亡くなりダスティンは幼い頃から頑張って継いだらしい。


「カールか…うん、帰れ」

 とカールの顔を見ただけで扉をバンと閉められた。


「ダースティィィンたーすーけーてーよー!!」

 扉の中からボソリとダスティンが


「うるせえ、死ね。消えろ。この死神。悪魔。そして金を返せこの野郎」

 とめちゃくちゃ悪態ついてるよ!


「おいどういうことだ。友達じゃなかったのか!?」

 と俺が言うとカールは


「え!親友だよ?僕たち!これはいつものダスティンのツンデレだから気にしなくていいんです」


「ふざけるな死ね。帰れ。お前の顔なんか見たくもない」

 おいほんとにツンデレなのかよ!ツンしかねぇ!


「ダースティィィン!ちょっとあの…王子来てるし聖女も来てるからあーけーてー」

 とカールが言うとバンとまた扉が開き俺とりぼんをジロジロ見た。

 そして


「何故ここにライオネル王子殿下が!それにその女性は本当に聖女か?偉く衰弱しているようだが」


 ダスティン子爵は青い髪に氷のように冷たい水色の瞳をしていた。性格もクールそうだ。

 そして裏稼業で暗殺をしているという優れた一族だがこういうことをしているので他の有力貴族にバレて没落していき何とか子爵としてやってきているのだ。表では澄まして裏ではえげつないことを淡々とやっているのだそうだ。


「おいカール!やはりヤバイ奴なんじゃないのか!?暗殺者の家に聖女を匿うとか!」


「ええ、うちはカール避けと他の暗殺者避けにいろいろと罠が仕掛けられているので無闇に動くと死にますよ」

 と言う!!何だとっ!?


「まぁ…それはいつでも死ねるかもしれないのね!?なんて素敵なお屋敷!」

 とりぼんが言うとダスティンは初めて目を見開き赤くなった。そして


「我輩の物騒極まりない屋敷を褒められたのは初めてだ…」

 と言った。そりゃそうだろうよ!!

 誰がこんな危ない家褒めるんだよ!!りぼんしか褒めないよ!!つかやっぱりダメだろここ!!危険すぎ!!


「聖女…ここはダメです。危険だ。貴方に死んで欲しくない!」

 と言うとダスティンはムッとして


「それなら完全に安全なお部屋がありますから聖女様はそこで療養してもらいます。大丈夫です。逃げ出さない限りは外の仕掛けが作動するだけなんで中の者には一切の被害はありません!」


「外の仕掛けって何なんだよ!!それじゃあ俺が見舞いに来た時にヤバイじゃないか!俺が死ぬじゃないか!!」


「大丈夫です。王子ならギリギリ気合でなんとか避けれると思います」

 いやいや無理だろ!!やっぱりカールの友達おかしいって!!


「ダスティン…殿下には超デレるよね!俺にはこんな扱いなのにー!!」

 と見るとカールはいつの間にか天井の網に捕まっていてその下の床がポカリと開いていてワニが口を開けて待っていたりした。

 いつの間にだよ!!


「仕掛けの地図を殿下だけにお渡ししておきましょう。けしてカールには見せないようにしてください!」

 と辛辣だ。


「ダスティンったらそんなに僕のこと好きなんだね!僕だけには見せないなんて!!ふふ!」

 スーパーポジティブだな!カール!


「うるせえ、死ね、金早く返せ」

 としかその後ダスティンはカールに対しては口にしなかった。


 その代わりりぼんには照れており優しく接していた。


「聖女殿…部屋の内装が気に食わなかったら言ってください。それに欲しいものも…。誰を暗殺して欲しいとかも遠慮なく!」

 と言う。暗殺はやめろ!


「ちょっと二人にしてくれないかダスティン子爵」

 と言うと氷の目でダスティンが俺を見た。


「殿下は聖女殿のなんなのです?国王は殿下に見合い話を勧めているしカールの妹のジェシカともデートの約束があるんでしょう?まさか…聖女をキープしておこうとか考えるクズ野郎なのですか?」

 と言われる。何でそこまで詳しいんだよ!!凄い情報収集だな!流石暗殺者だ!


「おい、酷いこと言うな!!王宮を抜け出すためにカールに協力してもらう代わりにジェシカとデートすることになったが、見合いは断るつもりだ!」


「えっ!!?ジェシカとデートするんですか!?ライさん!!」


「えっ…と…」

 りぼんが青ざめている。


「ライ…さん…で…殿下…どう言うことですか?愛称で呼ばせるなどと!二人はそう言う御関係なのですか?くそっ!調査不足だった!」

 とダスティンは無表情で悔しそうに言う。


「いや、違うよ!聖女とは何もないよ。いとこの妹みたいに思ってる!!」

 と言うとりぼんが暗くなり


「すみません…なんか死にたい…すっごく死にたい。妹とかないわ。妹って!やだ、私の勘違いとか恥ずかしすぎる!お願い死なせて!!」

 とまた死にたい病が出てきた!!


「不味い!聖女がまた!!とにかく大人しく…」

 と言うとダスティンはさっとりぼんの鼻に何か袋を当ててその匂いにりぼんはあっさり意識を失った。


「ちょっ!何だそれは!!」


「大丈夫です。よくある強力な眠り薬です。この間によく暗殺しちゃいますけど今は眠ってるだけです」

 とさらりと言うこいつ怖い!!

 しかし…ここならばもし兄上の手の者が来ても絶対に安心かもしれない!その点は!


「……判った。ひとまずここに聖女を預けよう。1日1回は兄上にバレないよう転移魔導石を置いておいて欲しい」


「了解しました殿下」

 とダスティンは頭を下げる。


「栄養あるものを食べさせてやってくれ。聖女はすぐに死にたいと言い出すから絶対に死なせないようになるべく優しくしてやって欲しい」


「了解しました。お父さん」


「いやお父さんじゃない」


「すみません…うち父が早くに亡くなったので、父がいたら口うるさい殿下みたいなのかと」


「俺口うるさいのか!!?…もういいわ!!カール!帰るぞ!!」

 とカールを見ると今度は何故か壁のガラスケースの中に閉じ込められバンバンと叩いていた。

 罠ヤベエなほんと。


 *

 カールのクソ野郎と共に殿下は王宮へと戻っていかれた。殿下は聖女殿を妹みたいなものと仰っていたが…聖女殿は殿下を好いているのが丸わかりであった。我輩の恋散るの早過ぎである。ジェシカの時も騙されたし。女には縁がないのかもしれない。我輩。

 そして殿下はかなりの天然ど阿呆だと感じた。


「とりあえずシェフに毒を盛らないよう伝えねば」

 と我輩は厨房へ赴くのであった。




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