第10話 消えたりぼんの行方

 浄化が終わり村の病人達に御礼を言われ、神官長のダーレンはグヒグヒ言いながら若い女性の健康状態を確認して老人が来ると目が死んでいた。


「もしまた黒い霧が発生するようなことがあれば知らせてください!」

 と俺は一応念押しして落ち込んで川に飛び込もうとしていたおっさんをパーシヴァルが腹を殴って気絶したのをいいことにその額に村の子達と一緒になってうん●マークを描くカールと共に王宮に戻ることにした。魔術師のアシュトンはまだ落ち込んでいる。精霊に選ばれず闘いにも参加できなかったからな。


「アシュトン…変身魔術の研究もあるし…次までに精霊が気にいるよう面白いことを考えればいいじゃないか!精霊達を大爆笑させれたらきっとお前も精霊の加護を貰えるさ!カールも選ばれなかったしお前だけじゃないだろう?」

 と俺が励ますとカールは


「あ、俺は別に基本闘いとか埃つぼいのはやりたくないのでむしろ視えなくて良かったです」

 と言っている!アシュトンは更に落ち込んで


「…………精霊達を笑わせれるよう…頑張ります…」

 と呟いて王宮に戻る。それぞれ解散して俺はりぼんが死んでないか急いだのと今日の報告を兄上より先に話してやろうとして急いだ。


 なっ…何で兄上より先にと思ったのかこの時の俺は知る由もなかった。


 回廊の上を目指しまるで幽閉されるように隔離された部屋を目指す。元の部屋は豪華であったけど、今のとこは高い塔の上にあり鍵も嵌められている。自殺防止に窓には鉄格子が嵌められ刃物や花瓶も隠されてまるで囚人のように酷い環境だ。兄上ももっと配慮してほしいけど、どの道病人と同じだしとこちらに移されたのだ。


 扉を開けて


「りぼん!帰ったよ!今日は中々面白いもの…が…」


 そこには誰もいなかった。

 え?

 まさかどこかで倒れて!?床やベッドの下やクローゼットを調べたけどパンツしか落ちていない!!


「どういうことなんだ!?」

 りぼんは一体どこへ行ったんだ!?

 血痕は無かったから自殺はない。窓も鉄格子がはまっている。飛び降り無し!


 俺はこの部屋で世話をしていたお付きの者達を探したが見当たらない!!

 どういうことだ!?侍女毎誘拐か!?

 青ざめて酷く焦り俺は兄上の所に行った!


「兄上!!聖女がいない!彼女はどこだ!?」


「おかえりー。ライオネル。お疲れ様ー。どうだった?ルッカ村は?浄化できた?聖女なら一緒に戻ったんだろ?」


「違う!ヨネモリ先生の方ではなく元聖女の方です!!どこへやったのです!?それとも誘拐ですか!!?警備は何をしているんです!?」

 すると兄上はキョトンとして


「どうしたの?ライオネル…。何をそんなに焦っているの?判らないや。あの元聖女の女性は病人だからね。病院に移ってもらったまでさ。王宮には必要ないし聖女ならあのおっさんが一応いるし。役立たずは王宮に必要ない」


「な、そ…そんな…」

 愕然とする俺に兄上は更に


「ライオネル…君にお見合い話が来ているよ?隣国の王女様さ。もう結婚して身を固めてもいいだろう。結婚はいいよ?妻が可愛くて仕方ない!!………あの元聖女は庶民落ちさせる。捨ておけ!」

 と最後は厳しい兄上。


「元老院のジジイ達に何か言われたのですか?だから俺がいない隙にこんなことを!見合いだってそうだ!いきなりこんな…聖女はどこですか!毎日会いに行くと約束した!!彼女はそれを生きがいにしているはずだ!!俺が行かないと死んでしまう!!兄上!場所を教えてください!!」


 すると兄上は怖い顔で


「口説い!私は言っただろ?捨ておけと!聞こえなかったのか!?ライオネル!あれはただの出来損ないの庶民の女!お前とは釣り合わん!お前の身分はなんだ?第二王子だろう?相応しい相手と相応しい婚姻をする運命なのだ!諦めろ!」


「兄上…スチュアート兄上の…流され大馬王!!涼しい顔して足臭い臭いくせに!!嫁自慢もいつもうざいし弟の俺に干渉しすぎも気持ち悪いんだよ!このブラコンが!!」

 と俺は一気に王に対し不敬なことを言いった!


「ライオネル…」


「王に不敬なことを言ったぞ!俺を牢に入れるか?処刑するか?俺も庶民に落として王宮から追放しろ!」


「んんー?何かよく聞こえなかったなー。最近耳が悪いのかなー?」

 とすっとぼけて兄上は衛兵を呼び、俺を部屋まで運び外から鍵をかけられた!!


「おおい!出せ!!王子の命だぞ!?」


「すみません。王子の命でも王の命には逆らえません!!私にも家族がいますので!!辛抱を!ライオネル王子!!」


「そんな…」

 閉じ込められた俺はりぼんの行方が心配だ。

 今頃自殺を謀ってるんじゃないか?りぼんはすぐに死にたがる!次にあった時は死んでるとか嫌だぞ!!?りぼん!!


 いつの間にか俺はりぼんのことばかり考えている。何でだ?そうか心配だからだ。死なれたら困る!折角食べるようになってきたのに!回復すればりぼんだって聖女の力を発揮してくれる!


 生きる意味も…誰かの役に立つことが素晴らしいとこれから教えるはずだったのに!!


 それに約束したのに!!


 俺は窓を開けて飛び出そうとしたらズラリと兵士がいたから早々に諦めた。兄上…用意周到だな。普段はボケているから元老院のジジイ達に指図されたのだろう。


 くそっ!

 何とかここを抜け出さないと!!


「強行突破しかないな」

 そして俺は扉を蹴破ろうとしたが…


「何してんすか?王子」

 カールが天井から頭を出していた!!


「うわっ!!お前こそ何をしている!!?」


「ちょっと抜け穴をね。いつもジェシカが使ってるし…おっと、秘密だったなこれ」

 待て、ジェシカが使ってるだと?あいつは何やってるんだ!人の寝顔みて何やってたんだよ!!


「ともかく、噂になってる元聖女の行方知りたいですか?」


「当たり前だろ!」


「なら…連れてく代わりにジェシカと結婚を…とは言いませんが側妃くらいに考えてやってくれませんか?ふふふふ」

 この腹黒!!双子達の実家が借金まみれなのは知っていたがジェシカが俺に惚れているのをいいことにこいつ!!

 しかしカールは断れば教えないだろう。


「考えるだけならな!今はそれでいいだろう!」


「えー?それじゃ僕がジェシカに往復ビンタされる!困る!うちの妹はキレたら怖いんだ。じゃあ今度ジェシカをデートに誘ってやってよ!それが条件だよ!」


「………………………解った」

 そして俺はカールと共に抜出し王宮が気付くのは朝のようだった。


 *


 私は気付いたら知らない天井を見ていた。


「何ここ??」

 そして自分がベッドにくくりつけられ動けないことを知った!!

 何いいいい!?どういうこと??

 精神患者ばりに縛られてるじゃん!


 するとコツコツと誰か入ってきた。

 眼鏡をクイっとさせた白髪のイケメンであったが表情はなんかラリってる奴みたいだった。


「おお!貴方が異世界から来たという元聖女!役立たずで王に捨てられた哀れな存在!!ようこそ!あたしの病院へ!!あたしは闇医者ルイス・アルバート・ミッチェル先生だよぉ?げへへへ!!貴方死にたい願望が強いって聞いてるよぉ?…あたしがサクサクと解剖して殺してあげるわぁ!!うっははは!ひひひひ!ギャハハ!!」

 と言う。こいつ!マッドサイエンティストだ!!よく見たら薄暗い部屋の中の棚には気持ちの悪いホルマリン漬けみたいなのが並んでるっ!!


 いやああああああ!!

 ふいにライさんの顔が浮かぶ。

 必ず会いに帰ると約束してくれたから大人しく待っていたのに!あのお付きのメイドの入れた茶を飲んだら眠くなって目が覚めたらここだ!


 確かに自殺願望はあるけど!こいつに解剖され殺されるために生きてたんじゃない!解剖されるならライさんがいい!!このマッドサイエンティストもイケメンだけど、私はイケメンなら誰でもいいわけじゃない!!タイプでないイケメンは割とどうでもいい!!


 ライさん!!ライさん!!

 せめて貴方の顔を見て死にたい!!貴方の腕の中で死にたいよ!!


 サイエンティストは笑いながら怪しい器具を持っている。


「な、何よそれ!?」

 と言うとサイエンティストは笑い


「頭蓋骨切断用のノコギリだよぉ?」

 と恐ろしいことを言って迫る!!

 いやああああ!死ぬってそんなの!


 ライさんに会えないまま殺されるのは嫌だ!死にたいけど他人に殺されるのは嫌だから!!


「やだやだ!来るな!!ライさん!ライさん!!助けてーーー!!!」


 と叫ぶと同時にサラリとした金髪がサイエンティストの後頭部を後ろから殴りあっさりと気絶した。


「大丈夫ですか?り…聖女!」

 後ろにカールがいて、サイエンティストをげしげしと蹴ってから縛り上げている所で…。


 私はライさんの顔を見るとホッとしたと同時に飛び付いて泣いた。

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