第7話 聖女とおっさん聖女

「んだあ?ここは…どこでしゅかぁ?」

 おっさんはベロベロに酔って見回した。

 そして…


「なるほろ!夢でしゅね?ヒュヒュー」

 とバタンと床に寝転がりガァーとイビキをかき寝てしまった。

 兄上はそれを見て


「アシュトンくーん?何?これ?またこれ失敗かなぁ?」

 とにこにこしながら言う。

 あしはビクリとして


「す、すみません!!自分その…お腹が…いえ、体調が万全では無かったのでこのような事になったのかと思われます!!」


「えー………。そうなんだ…。体調の問題なんだ?ふーん…。それは…仕方ないねぇ」

 何とかの苦し紛れの言い訳でアシュトンはほっとした。


 …のも束の間。


「……ってそんなわけあるかっ!!流石に温厚な王様もきれるよ?どう見ても男だよ?前は衰弱した聖女!!お前の召喚はことごとく失敗しているっ!!」

 アシュトンは震えた。

 兄上そのくらいで。

 しかし兄上は散々アシュトンを説教してアシュトンはすっかり落ち込んだ。いや、いつも落ち込んでいるな。


「兄上…アシュトンはそれでも寿命を代償に唯一聖女召喚をしてくれているんですよ?」


「そうだねぇ?結果はダメだけど…」


「ふぐうううう」

 アシュトンは腹を抑え涙目だ。


「アシュトン…トイレ行っていいぞ」


「すいません!!殿下!!」

 とアシュトンはトイレへとダッシュした。


「逃げた…」

 と兄上は呟き、寝ているおっさんを見ると、


「あれはどうする?魔力があると思うか?もうさっさと送還して他の聖女を呼ばせた方がいいのではないかな?」


「兄上!流石に一晩に何回も召喚できませんよ!アシュトンの寿命も魔力も消耗してます!それに・召喚は出来ても送還方法はありません。現状」


「じゃああのおっさんの面倒見させるの?今ならまだ間に合うしどっかに捨てて来ない?」


「さ、流石にそれはおっさんも可哀想でしょう?とりあえずは王宮に泊めましょう」

 と言うと兄上の目が死んだようになった。


「判ったよ…おっさんに何の魔力も無かったら捨ててこい」

 と言った。

 おっさんんん!!

 大口開けて寝ているおっさん…。

 彼を部屋に運ぶようにいい寝かせた。


 *

 次の日おっさんを召喚してしまったアシュトンは早速噂になっていた。アシュトンまた引きこもりそうだな。


「アシュトン様…ポンコツらしいわ」


「いくら高度な召喚魔術を使えてもおっさん召喚とかないわよねぇ」


「ほんと…おっさんはないわよね」.


 侍女達はヒソヒソと笑っているが事態は深刻であった。


 あの時アシュトンにトイレから戻って部屋に運ぶ前におっさんの魔力量を測って貰った。


「…………魔力ありますよ…。でも…凄くその弱いですね。何ででしょう?」


「やはり捨てろ!!」

 と兄上は言っていたが何とか諫めて部屋に寝かしておいた。今頃起きているのか?


 俺はおっさんの部屋に行った。

 既にカールやジェシカにパーシヴァル、ダーレンが来ていた。


 ダーレンは部屋から出てぐったりしていた。


「何が悲しくておっさんの…うげえっ」

 と口を抑えて、カールも


「何が悲しくておっさんの世話を…おえっ」

 と口を抑えて、ジェシカは


「あのクソ親父!人のことジロジロ見てんじゃないわよ!!」

 と言っている。


 おっさんの部屋に入るとポツンとおっさんは聖女の服を着ていた。黒髪ロングのカツラを被り腹が出ている。


 俺を見ると


「今度はえらくイケメンだな。人にこんな女装をさせどういうつもりか知らんがそう言う趣味はないんだ!それにここは何処だ!?君達は何者かね?これは誘拐だね?何の犯罪組織だ!?ふざけた外人共め!」

 と怒りを表す。

 当然だ、目が覚めたら女装させられ訳の判らない所にいるのだから。


「あの…すみません、ちょっとこちらの手違いで貴方をこちらに召喚してしまいまして…」

 するとおっさんはギロリと睨んだ!


「何だと?手違い??ふ、ふざけるな!!」


「お怒りはごもっともです!」


「やっと死ねると思ったのに!!あんたら、私の臓器を売って金にして海にでも捨てる気なんだろ?やるならさっさとやってくれ!覚悟は出来ているから!!もう私には何もない!!例えお前らが悪い奴等でも最後に私の臓器如きで救われるならやってくれ!!一思いに!」

 と泣き叫び出した!!


 ええええー!!

 な、何?臓器って!!何で俺たちがそんな恐ろしいことをする人間に見えてるんだ?

 ていうかこのおっさんのいた世界はどうなってるんだ!?臓器を売って金にするなんて恐ろしい世界なのかっ!?

 怖い!

 怖すぎるよ!


 するとおっさんはポツリと話し出した。


「私は米森宗二郎。阿佐ヶ谷高校3年B組担任だった男だ。年は44。…3ヶ月前に小園りぼんという女生徒が行方不明になり教師としての責任能力の無さを責められクビになった。…小園は学校で密かに虐めに遭っていたらしい。そして不登校になっていた。


 財布もスマホも家に置いてあり強盗や誘拐なのか判らない。だが、床に血痕の跡と剃刀が落ちていたらしい。自殺なら死体は残るが無かった。何らかの事件に巻き込まれたと連日報道がされ、小園一家は憔悴し、引っ越した。


 私の所にも当然マスコミが押し寄せたり変な奴に付けられたりもう疲れて酒を買って飲んで寝たらここにいた。もう死にたい。頼むから殺してくれ!!」


 とおっさんは言い、えええええええーー!!りぼんの知り合いかよ!!タンニンが何か知らんがりぼんの名前が出た以上はそうだろう。判らない単語もたくさんあった。スマホ、マスコミ、コウコウ…。


 そしてこのおっさんが死にたいと感じているのはりぼんが俺たちのこのウィンガルド王国に飛ばされたから巻き込まれて死にたくなっていることが何となく判った!!


「よく判らないですが、そのコソノとか言う人のせいでおじさんは死にたいの?バカだねぇ。他人なんてほっとけばいいのに」

 とりぼんの名前を知らないカールが言う。


「そういうわけにはいかんだろ!私は元担任だし責められて当然だ。PTAからも散々苦情がきた。こんな男を教師として置いておけない!子供達の悪い見本だと…。そんなのもう死ぬしかない!私から教師を奪われたら何も残らないのだ!!」


「ん?教師?貴方は先生だと言うのですか?」

 ようやくこの男はどうやらりぼんの先生らしいと判った。


「そうだ。3年B組の担任教師で科目は社会科歴史を担当しているな。外人だから単語がわからんかったのか?すまんな。担任とはクラスの…Bクラスの教室の担当を任された先生のことだ」


 なるほど。Bクラスという、どうやら学問を教える歴史の先生ということだな。

 これは…早急にりぼんに会わせねばならない!

 りぼんは名前を知られたくないから侍従達とは離さないとならない!


「…ええと…ヨネモリ先生でよろしいですか?」


「ああ…」

 女装姿のヨネモリ先生はぐったりしている。


「その…とにかくちょっと付いてきてください。ああ、お前達は来なくていい!待機していてほしい。聖女とヨネモリ先生を引き合わせてみる」


「えっ!?何でですか?」


「カール、ジェシカ詮索するな。ここにいろ。ちょっと大事な話をする必要があるんだ」

 と言うとジェシカはコロリと


「判りましたぁ♡殿下!ジェシカは待っておりますわ!カール兄さんもここにいろよ?」


「え…うん…」

 ともかくおっさんを連れてりぼんの部屋の侍女達も追い出して周囲を人払いしておいた。


 ヨネモリ先生を連れて行くと一瞬ポカンとしたりぼんは急に驚いた声を出し、ヨネモリ先生も驚いていた!!


「ぎゃーーーーっ!!!ハゲ森!!!」


「誰がハゲ森だ!!お前!小園!!何故ここにいる!?お前もこの組織に誘拐されていたのか!?」


「はぁ!?何言ってんの?やだもう!私のときめき生活に何でこのハゲが出てくるんだよ!悪夢だわ…」


「何っ!?お前まさか売春でもしとるんかっ!?」


「してねぇわ!このハゲーーーー!!」


「すいません!ちょっと二人とも落ち着きましょう!!話をさせていただきたい!」

 するとりぼんは大人しくなり


「判りました!このハゲ…信じられないけどね、ここは日本じゃないよ。異世界だよ」

 とりぼんが言うと


「ふざけたことを。海外か?」

 と信じられないヨネモリ先生は言う。順を追って説明した。静かに聞いていたがヨネモリ先生は


「そんなバカな!どっかのマフィアが城を買い取ったとしか…」

 と部屋を眺め回していた。しかし…


「おかしい…いくらマフィアでもスマホもないし時計すらない。現代の物が一つもないとは!」


「だから言ってんだろ?ハゲ?ここ異世界なんだよ!中世ヨーロッパ並みの世界なんだよ!ラノベとかにもあんだろーがよ!」


「ラノベだと?アニメや漫画じゃないんだぞ!?先生をバカにするな!!…だが小園の言うことももっともだな。私には先ほど見て見ぬフリをしていたがなんか変な虫っぽいのが視える」


「おお!それはきっと精霊というものですよ!我々には精霊は視えませんが異世界から召喚された聖女には精霊が視えるという説があります」

 と説明するとおっさんは


「なんか私のことを『このハゲー!』『女装キモ』と言って笑っとるぞ!バカにしやがって!」

 とおっさんは怒ってりぼんもニヤリと笑った。


「りぼんにも精霊が視えるのですか?」


「私はまだ体力戻ってないから時々透明なのが視えます…」


「そうか…信じられんが異世界だと言うことは信じてやろう。だが、私を女装させたのはどういうことだっ!!?」

 と俺はおっさんに怒鳴られとりあえず服は後から用意すると言っておいた。


「大体小園!お前は名前如きで虐められたからと引きこもってどうする!!しかも自殺なんか図りくだらない!」


「何だと?私の気持ちなんて担任に解るか!名前なんて一生ついて回るのに!ああ、ほんと死にたい!!」


「やかましい!私を見ろ!生徒達からも同僚の教師からも影でハゲハゲと言われて傷つかないとでも思っとるのか!?私こそ死にたいわ!!こんなハゲ!!カツラなんかかぶっても『あれズラだぜ』と笑われる!!死にたいわ!ほんと死にたい!!お前の失踪のせいでクビになったし死にたい!!」

 何か二人とも死にたいと言いまくり終わらない。


「いや、だから君達が浄化してくれないとこの国の人々全員死んじゃいますからああああああ!」

 とついに俺は叫んだ。


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