第6話 再び聖女召喚
「え?」
俺は耳を疑った。毎度お馴染みライオネル王子だ!
ここは兄王スチュアート・バージル・ダウディングの執務室だ。
俺と同じ金髪蒼目の2つ上の兄は言った。
「や…だからさ…ちょっと聖女の回復を待ってるとこの国滅んじゃうかなー?って思ってね?代わりの聖女をもう一度異世界から召喚しようかなーって、かなーって…ねっ?」
「いや、ねっ?じゃないですよ!!なんなんですか?そんなひょいひょいひょいひょい聖女を召喚できると思ってるんですか!!?アシュトンだって召喚の為に結構な魔力を使っているんですよ?寿命の10分の1くらいの魔力は削ってるはずです!高度な召喚の呪文を唱え続けてやっと召喚したのです!!」
「いやー、だってえ?あんな死にかけた娘の看病してるうちにも民達はどんどん病気になってくし死人もまだ出るよ?国滅んじゃうよ?先代まで続いたこの国を俺の代で絶やしていいのかって、元老院の皆様も口を酸っぱくしてさぁ…。俺の身にもなってくれよぉ。ライオネル!」
元老院のジジイ共!やはり兄上に何か吹き込んだな!?
「ですが!聖女がもう一人増えるなど!前代未聞のこと!それにり…彼女は?先に召喚した聖女はどうなりますか!?」
「それは良くなるまで別の者に任せてごっそり新しい召喚聖女に付けばいいじゃなぁーい!?」
ふざけんなーーーっ!!?
バキィっ!
と思わず脳内で兄上のボケたにこにこ顔を殴っちゃうシーンが浮かんだ!
大体そんなことをしたらりぼんに失礼だろうがっ!
『要するに私は用無しってことですよね。聖女として活躍できないから見捨てられて…すみません、ちょっと死んでくるので毒を用意してくれませんか?』
とか言うよ!?絶対あの娘は言うよ!?本気で次の聖女なんか召喚しちゃったらちょっとそこまで散歩してくる感覚で死んじゃうよ!?
なんかそういう娘だから!!
「頼むよう、ともかく王宮に今の聖女ずっとひっそり看病させといて、用意した聖女宮は新しい役立つ召喚聖女に使ってもらうことにしようよ?ねっ!」
ねっ!じゃねーよ!!可愛くウインクしてんじゃねーよ!!兄上!!もっとよく考えてくれよ!!
しかし…俺の願いも突っ込みも虚しく第二の聖女召喚の準備が着々と進められていくことになり、にわかに慌ただしくなり始める。
それにりぼんが気付かないわけが無い。
従者のカールやジェシカ、騎士のパーシヴァルに神官長ダーレン、魔術師アシュトン…それに俺までごっそり新しい聖女側につかなくてはならい。
りぼんに説明すると死にそうになるかも。この頃はようやく吐かずにスープを飲める量とほんの少しの流動食を口にしてくれた。俺はホッとしていたんだ。この調子で彼女が回復できればと。それをお前はもう役立たずで次の聖女に期待することになったとかショックなことを告げたら…。
想像するだけで胃が痛い。
すると魔術師のアシュトンも同様に死にそうな顔をしていた。
「アシュトン…大丈夫か?君顔色悪いぞ?」
「殿下…こそ…大丈夫ですか?」
二人して青い顔になって震えている。
「また聖女召喚の代償で自分の寿命が縮まると思うとなんかお腹痛くて…さっきから下していて止まらない…うっ!!」
とアシュトンは腹を抑えてトイレに走った。
次に護衛騎士のパーシヴァルと会って話した。
「聖女様が新しく召喚されると聞いた。まぁ、この国の現状を考えれば仕方ないことだと思う。今度は健康な押し倒せそうな聖女を望むが…いや、なんでもありません!」
お前は何で直ぐ押し倒したいんだよ!?ケダモノめ!
次にカールとジェシカに会った。
「まぁ僕等は新しい聖女様に付ければそれでいいかなって。もうゲロ吐かれなくてもすみますし…(役に立つ聖女様と結婚できれば今の聖女なんて用無し…)」
とカールが呟きジェシカも
「新しい聖女様のお世話を致しますわ!任せてくださいませ!殿下♡」
とか言っている。
お前ら…切るね。あっさりりぼん見捨てるよね!清々しいくらい見捨てるよね!
それから神官長ダーレンに会った。
ダーレンは物陰でなんか一人で●●ってた。
何してんだ。こいつ。相変わらず。
「は!!で、殿下!!ち、違うんです!!」
まず息子をしまってから言え!!
「何だ?どうした?」
「こ、これはそ、その!新しい聖女様が慈悲深くお優しく物凄い巨乳で私の●●を優しく…と想像していたらついっ!…くっ!」
とか恍惚な顔で気持ち悪いので俺は
「…そうか…でも…あのな、神官長には悪いと思うが、これまで通り今の聖女の所にも時々顔だしてヒーリングをかけてやってほしい。見捨てないでやって欲しい。俺もこれまで通り毎日一度は今の聖女の様子を見に行くから」
と言うと神官長は
「…殿下はお優しいのですね。国の役に立てない者をいつまでもこの王宮に置いておけるとは限りません…。今の聖女には何らかの処置が施されるのも時間の問題でしょう?」
と神官長は●●りながら真剣な顔で言う。
いや、だからしまえよ。
しかし、神官長の言う通りこのままずっと王宮に置くということはないだろう。用無しになった聖女はどこかへいづれ送られるだろう。元の世界ではないだろうし、勝手に死にたければ死ねばいいとさえ思う者も出てくるだろうな。
そう考えると心が痛くなった。
*
「 あっ…ライさん!」
りぼんが俺が部屋に入ると布団を正していた。
「元気ですか?辛くないですか?」
「ちょっと熱が出て、このまま天国行けるかな?って思ったんだけどなんか生きちゃってます」
「うん、全力で生きて欲しいな!!頼むから!!」
と言うと照れて
「ど、努力します…」
と言う。そして
「そう言えば先ほど、違うお付きの人達が挨拶に来ました。何か新しい聖女が召喚されるとか聞きましたよ」
げっ!!!誰だよ!!
何でりぼんに説明してんだよっ!お前らは鬼か悪魔なのか!!?もはや震えが止まらない。
りぼんは笑顔で
「元々私は聖女って柄じゃないし、こんなに弱ってたらそりゃ人々なんて救えませんからいいんですよ…。ライさんも新しい聖女様の所に行くんでしょう?私のことは気にしないでください。…私はどこかでひっそり死…」
「いや、俺は!毎日毎日来るからね!!りぼんに会いにここに!!心配するな!りぼん!!」
「!!!」
りぼんは驚いた顔をした。お願いだ!毎日様子を見に来るから死体になっていませんように!!
「他の奴等が君を見捨てても俺は見捨てないから…安心して待っていてくれないか?」
そう手を握り締め大丈夫だと安心させようとした時ポタリと手に赤いものが垂れた。
「りぼんんんんんーー!!」
りぼんから鼻血がぼたぼた垂れている!!
んぎゃー!!
誰かああー!死んじゃうよ!!
りぼんは
「す、すみません」
と恥ずかしそうに置いてあったタオルを血塗れにしながらも笑っていた。悲しげに。
*
そうしてやってきた、2回目の聖女の召喚日。
アシュトンが詠唱を始めまた以前のように床が光り輝き出した!!
来るぞ!!
白く視界が染まった後、徐々に光りがおさまり…俺は固まった!!
いや、全員石のようにその者を見ていた。
「うぃ??」
そこには小太りでパンツ一丁ですね毛ボーボー胸毛ボーボーで腹が前にデンと突き出て何かを手にして、たらこ唇と垂れ目の赤ら顔の酔ってる禿頭のおじさんがいた。
もう一度言おう。おじさんだ。まごうことなきおじさんだ。
その場の者は全員白目になった。
「いや、ただの酔っ払いのおっさんじゃねぇかーーーー!!!」
と俺は叫んだ。
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