第8話 聖女と精霊の加護

 私…小園りぼん。

 何とか異世界でリハビリ生活を始めました。

 一日1回はなんかすっごいカッコいい王子のライさんがお部屋に見舞いに来てくれるとか私得でしかない。

 死ぬ前にカッコいい人に巡り会えてほんと良かった!!


 あのジェシカとか言う侍女の女はライさんに色目使ってて私とはあまり合わない。私のことが気に食わないのが目に見えてる。


 そんなに嫌いなら死んでやろうか?

 とある日花瓶を割ってかけらを手にしたらすっ飛んできて止められた。


「何してるんですか!?大丈夫ですか!?貴方様が死なれたら私が殿下に殺されますわ!」


「え?ライさんに殺されるんだ?いいなぁ…」


「貴方おかしいですよ!?」

 と青ざめながらジェシカに怒られていたら双子の兄カールがやってきた。


「あっ!大丈夫ですか?花瓶を割られたのですかぁ?大変だ!怪我は無いみたいで良かったです!」

 と言うとカールはささっと花瓶を魔術で掃除機みたいに袋に入れてしまった!!

 カールに詰め寄る。まだ体力無いけど


「カール!!よくも!!破片を突き刺して死ぬ予定だったのに!!」

 と睨みながら言うとカールは頰を染め


「あぁん!ダメですよ!聖女様に死なれちゃ僕困りますぅ…。でももうすぐ新しい聖女様の世話をしなくちゃいけないですけどね」


「新しい…聖女?」

 何それ?


「知らないんですかぁ?私達新しい聖女様のお世話をすることになってまして、貴方がこんなだから違う方をお呼びして国を救って貰うんですよ。役立たずの聖女様!」

 クスクスと笑うジェシカ。


 そうか…私は用無しってわけね?

 なんだかとっても死にたくなっちゃった!きっと新しい聖女は健康で美人な人が来て私からライさんを奪いーの、逆ハー楽しみーのしてこの世界を満喫するのだろう。

 捨てられた聖女の話とかよくラノベで呼んだ。うん。さっさと死にたいわ。


 程なくして新しいお付きの人が挨拶に来た。


「初めまして元聖女様。マリーナと申します。貴方様の世話を仰せつかりました。勝手に王宮で死なれては敵いませんから危険なものは取り払いましたわ」


「新しい聖女が来るんでしょ?」


「ええ!今夜…召喚されますわ。次は国の為になる人が来ることを期待します」

 わぁ、このつり目の女も性格悪そうだ。やっぱり死にたいな。


「殿下もきっと貴方なんか見捨てて新しい聖女様に付くでしょうね。そしていずれこの国に平和をもたらしたら結婚されるといいのですわ。殿下には相応しい方と一緒になってもらいたいですわ!」

 と言われた。遠回しにお前みたいなガリガリ女にライさんは無理だ。身の程知らずめ!と言われたも同じだ。死にたい。


 けど…ライさんは…私が新しい聖女のことを言うと



「いや、俺は!毎日毎日来るからね!!りぼんに会いにここに!!心配するな!りぼん!!」


「!!!」

 ライさん!こんな私のとこに毎日会いにきてくれるなんて、他の奴等とは大違いにいい人なのかも!例えいずれ捨てられても死ぬまでは一生ついてきます!!しかし…


「他の奴等が君を見捨てても俺は見捨てないから…安心して待っていてくれないか?」

 そう手を握り締め大丈夫だと安心させようとしてくれた。


 あ…ああ!イケメン王子の手が私のガリガリの骨みたいな手を優しく包んで!!

 そしてポタリと手に赤いものが垂れた。


 げっ!鼻血!!

 私はいい男の前で鼻血を出して恥ずかしくなった!!思わず側のタオルで拭いたけど。誤魔化しながら何とか笑った。やだ、も、もうほんと死にたいよ。こんな鼻血女なんか絶対呆れられたね。悲しくて泣きそう。


 *

 それからまた王宮は慌ただしくなったようだ。ついに今夜新しい聖女が来てライさんもそっちに行くのか。会いに来てくれるとは言ったけど。今の私にはライさんしか頼れる人いないもの。


 時々フワリと透明なものが視えた。


『………クスクス』

 何か笑っている?よくわからないけど人を笑うなんてもう死にたいよ。


 *

 次の日…ライさんは部屋の侍女を追い出すと変な女装したおっさんを連れてきた。

 あれ?どっかで見たような?

 ん?こいつ…まさか!!?

 見覚えがあるそいつは何度かうちに来て


「小園ー!学校に来てくれー!頼むから!!」

 と言う担任のハゲ森じゃん!!

 ハゲ森も驚いてこちらを見ていた。


 それからなんとかこのハゲの様子や状況も知った。向こうではもう3ヶ月も経っていることに驚きだ。これ帰っても相当時間経過してそう。

 そして私の家族はマスコミの餌食から逃れる為引っ越したと言うし…それもう私の帰る場所ないじゃん。帰ってもどこ行ってたとか聞かれそうだし、TVとかに映るの絶対やだよ!


 もうさっさと死にたいわ。

 ハゲ森も死にたいとか言ってるけどこっちのが死にたいから!そこは譲れんぞ!

 とハゲ森と睨み合う。


 *

「小園……一つだけ言っておく。私とお前はもう赤の他人も同然だ。私は教師をクビになったしお前と関わる筋合いもない。元の世界に戻ったら私は今度はお前に何かしら関与していたと見られて務所行き確定だ!」

 確かに…そうなるよね、消えた女子高生とおっさんがいきなり戻ってきたら。


「それに私がこの国を救う義理もないだろう?お前が元気になるまでは何とか私が浄化とやらをやってやろう。だが、元気になったら交代してもらう」

 とハゲ森が言うとライさんは


「えっ!?ヨネモリ先生はそれでいいのですか?」


「当たり前だ。私は男だ。聖女は女がやるのがいい。女装して国の各地を回ったらそれだけで笑われる対象だ。死にたくなる」


「いや別に女装をしなくてもいいですよ?普通に…」


「同じことだ。ハゲが世界を救っても笑われるだけさ。私は小園が元気になるまでの代理品だ。終わったらひっそりと王宮を出て野垂れ死ぬさ。元の世界でも酒を飲んだ後は死のうと思っていた。少し寿命が延びただけのハゲ親父だ。…娘や妻とも別居され、この前離婚届も届いていた。ハゲに生きる資格なし!」

 と言う。ライさんは


「そんなっ!!ヨネモリ先生!死なれては困ります!こちらで新しい生活をすればいいでしょう?」

 するとハゲ森は言った。


「無理だ…。この世界にはタバコも私の好きなブランドのビールもコーヒーもないんだ。生きていけない!」

 とメソメソ泣いて化粧がドロドロになり気持ち悪いおかまになった。吐きそうだ。


「おい、ふざけんなよ!このヘビースモーカー!!そんなだから毛が生えないんだよ!」

 ハゲ森がヘビースモーカーなのは生徒の間ではかなり噂だった。


「うるさい!お前に解るもんか!!通販で育毛シャンプーやらを買っても効果なし。植毛屋に電話する勇気も持てない。…とにかくさっさと元気になれ!小園!…そして精霊とやらのあの虫よ!さっさと私に加護をくれ!」

 どうやらハゲ森には透明なやつの姿もはっきり視えて会話をしているようだ。


 するとハゲ森の頭が光った!!!


 で、電球かよ!!流石におかしくなったがハゲ森は笑われるのがコンプレックスのようだから必死で耐えた。ライさんも耐えているようだ。


「よし、なんか加護とやらも貰ったし、浄化ができるようだ……瘴気とやらのある所に行けばこの頭が光り輝き勝手に浄化を始めるらしい。虫達がそう言っとる」

 その光景を思いついに堪えきれず


「ぶはっ!!」

 と笑ってしまった!!

 すぐ様ハゲ森は反応した。


「………やはり死にたい…何でこんな浄化方なのかは知らんが虫たちにも馬鹿にされとる。くそっ!小園さっさと元気になってくれ!私は死ぬから!!」


 ライさんは


「いやだから死ぬなっての!!…ヨネモリ先生のことは何とかします。こちらが勝手に呼んだのですから罪はありません」


 ライさん!カッコよ!!

 こんなハゲにも優しい!!

 惚れる!いやもう惚れてるのかも!だって王子様だしかっこいいし!カッコいいは正義!


「でもライさん…私…すぐに死にたい衝動に度々襲われるんです…」


「私もだ…」


 するとライさんは手を組み考え始めた。やだもう考えるポーズもいちいちカッコいい!!

 隣りの化粧ハゲのおっさんはただただ気持ち悪い。


「二人が元の世界に戻りたくないというならこちらの世界でも生きていけるよう俺は最善の環境を与えます。もう二人が死にたいと思わない世界に。それには今、病気で苦しんでる人のためにあの瘴気を何とかしないといけないんです、協力をお願いします」

 と言われて私はイケメンに浮かれていたし、自分のことばかりで反省した。元々国を救いたくて呼ばれたのだ。聖女にしか浄化できないから。ハゲ森は男だけどな。


 しかしハゲ森は無遠慮に


「協力はしてもいいがその瘴気とやらの原因は判明してるのかね?原因が判明しなければいくら浄化してもまた瘴気とやらが湧くんじゃないのか?ん?」


「ハゲ森ー!折角ライさんが私達によくしてくれるって言ってるのに何でそういうことを言うんだよ!!人々が救われればいいじゃない!」


「私は現実的な話をしとるんだ!!小園!お前はさっさと身体を治しなさい!そんな痩せて!!ダイエットもいい加減にしないと!!」


「ダイエットじゃねぇよ!ハゲ!」


「まぁまぁ落ち着いて。…ヨネモリ先生…原因は調査中なのです。ここ数ヶ月前に発生した瘴気ですから…調査中に病気になった者もいて中々うまく行かず…。ともかく浄化が必要でそこから痕跡を探す方針なのです」

 とライさんは言う。ハゲ森も


「仕方ありませんな…。さっさと終わらせて欲しいもんです」


「はい…。まずは近くの村から行ってみましょう。準備が整ったら明日にでも」

 私はライさんの袖を掴み言った。


「それって何日もかかるんですか?ライさんに会えないのは辛いです」

 と言うとハゲ森が


「小園!ちょっとイケメンに会えないくらいでメソメソするんじゃない!!仕事なんだから仕方ないだろ!!我々社畜は上には逆らえんのだ!!」


「シャチク!?」


「会社じゃねーんだよ!!つかいい雰囲気を壊すなよ!どっか行けよマジでハゲ森!!」


「えと…大丈夫ですよ。魔術師に転移魔法で移動できるから浄化したら直ぐに王宮に戻ってこれますから。りぼんにも会いに来れるよ」

 と優しく言われる。やはりカッコいいわ!王子様だわ!!


「魔法か…全くファンタジーだな!ふん!」

 ハゲ森は機嫌悪くいい、部屋に戻り寝たいと言い出したからライさんはまた明日なと言ってハゲ森について行った。


 しかし直ぐに戻ってきて


「りぼん!明日浄化が終わったらまた来るから死ぬなんて考えないでくれよ?王宮の奴等が何を言っても君の味方をするから!明日会おう!約束だ!小指にかけよう!」

 と言ってくれた!!

 きゅーーーん!!

 やだ!もう!これ!キタ!これ!


 絶対ライさん私のこと好きだよね!!?

 こんな心配してくれて嬉しいっ!!

 やっだもう!!

 ライさんが出て行って鏡の前に立ってみる。

 何か根暗そうな女がいる。


「髪伸ばしっぱなしだし、美容院行ってなかったな…」

 前髪とか切るか…。ハサミとかないかな?

 次の日ハサミは無いのか聞いたらお付きの女に


「また死ぬ気ですか!!?」

 と言われた。いや今回は違うと説明するのに時間がかかった。

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