第7話 野営訓練3

エルと無事に合流した私は、2人で持てるだけを持ち、それ以外は私の影に入れ、何事もなかったように野営地に帰ってきた。


「おかえ……り?」

「兄上どうかしましたか?」

「いや、確かにウサギ等の小さいのは狩ってはダメだと言われたが……少し大物過ぎないか?」

「?……ただの魔ボアですが?」

「つまり、普通のボアではなく、魔物化したボアを狩ってきたのか?」

「はい」

「……あまり奥にには行きすぎないように資料には書いてあるのだが……」

「僕の方の資料にはそんな事、書かれてませんし、言われてません」

「……小隊長役の私の落ち度だな。すまない」

「いえ。とりあえず、皆で食べる量だけ捌いて、後は騎士達に渡せば良いですか?」

「そうだな。いや、ボア肉はそうして、お前の侍女兼従者が持っている肉は小隊の保存食にしよう」

「侍女?……エルからは従者とだけ聞いてますが?」

「あー……いや、まぁ、従者も侍女もあまり変わりはないというか、だな……すまん!忘れてくれ」

「はぁ……分かりました?」


この時、サイの兄でありアンサス家長男のアル・アンサスは心の中で叫んだ。


(何で誰もサイにエルの事をきちんと説明、というか、一番はエルに詳しく説明し、サイに伝えさせる。という事をしなかったのか!)


まぁ、それは仕方ない。サイもエルも、当然ながら、私も一応はまだまだ子供なのだから。といっても、 サイはまだ学園に入る年齢ではないから、まだ分かるというもの。しかし、普通に学園に入る年齢であるエルには伝えていない、という事は問題でしかないと思われるのも確かである。それに、他の貴族は分からないが、私の家は恋愛主義というか純愛主義みたいな所がある。多分、サイとエルが親愛を育めたら婚約、という事なのだろう。 ん?そういえば、何か忘れているような?……あ!


「そういえばサイ、演習が終わった後にあるイベントを覚えているか?」

「イベント?……何か有りましたか?」

「はぁ……演習が終わったら試験。その後に王城で年終わりに向けた晩餐会だよ。北方等の冬は特に寒く厳しい領主貴族のために王城での晩餐会は早いんだ。その後は東西南北の太公主体の晩餐会、それから自領に戻って冬休みだ」

「……さらっと試験を飛ばしましたね?」

「だって、きちんと授業を受けて、予習復習をしていればそうそう落ちないだろ。まぁ、事前に先生から合格もらえれば先に進んだり、空き時間が出来て自分の趣味やクラブ活動に励んだり出来るが……クラブ活動は2、3年生からだからなぁ」

「つまり、1年生の間はどう頑張っても授業を真面目に受けてかないといけないんですね……」

「と言っても、冬休み明けたら進級して2年生になってるだろ?」

「?進級試験やら卒業試験、卒業式は?」

「演習終わった後の試験がそれ。ついでに冬休み入る前の終業式で卒業式だよ。生徒目録に書いてあっただろ?」

「あー……今思い出しました。というか、よく覚えてますね」

「そういうのは、熟読暗記するからな。色々と覚えておいて損はないぞ?」

「一理ありますね。今度からそうします」

「おう。というか、会話しながら器用に捌くな」

「慣れですよ、慣れ。数をこなせば誰だってある程度は出来ますよ。では……捌いたボア肉を騎士達に渡して来ますね」

「おう。……慣れ、ねぇ。俺には無理だな」


アルから離れ、同じく作業を終えたエルを連れて(勝手に着いてきた)、サイは自分達の小隊が所属する騎士達の方に魔ボアの肉を持って行く。


「お疲れさん。今回の獲物は?」

「魔ボアですね」

「って事は奥の方まで行ったな?」

「僕は小隊訓練の生徒資料なんて持ってませんし、注意事項も聞いてないですから」

「あ、あー、それはすまない。って違う!元々は君が本隊で他の同級生達と一緒に行動しなかったのが原因だろう?」

「僕が貰った資料には、自分のペースで、目的地に目標日数以内で到達。準備や持ち物は、供与品も含めて各自で用意。グループ、個人等で行動は好きに。とだけ書いて有りましたから。別に、緊急時以外も騎士の方々や引率する教師の指示に従えとか、同級生達と同じ早さで行軍しろ、とか言われてませんし」

「わかった、わかった。君達2人、というよりは、君の事は後で、私を含めた大隊長達、副師団長、師団長と学園側で話し合わせてもらうよ」

「はぁ。というより大隊長殿だったのですね」

「まぁ、訓練開始時に君は今の学生小隊に入ってはいなかったから、知らなくて当然だろう。ちなみに、軍隊行動の経験は?」

「領軍と一緒に狩りをした位ですよ。まぁ、まだ人間を相手に戦った事はないですが」

「出来れば、君のその年齢で人間を殺すのには、慣れて欲しくはないがね」

「平民ならそうですが、三男とはいえ貴族ですから。綺麗事だけでは生きていけませんよ」

「……それもそうか?いや、でも、まだ子供……いや、すまない」

「はぁ。では……これで」


大隊長と分かれ、騎士達に肉を渡し、私とエルは自分達のテントまで戻る。しかし、しくじった。身体強化は出来るが、先に騎士達から荷車を貰っておけば肉のぶら下がった棒を担いで行く必要性はなかったな。








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