第6話 野営訓練2

2日目早朝、とりあえず朝食の前に罠を確認し、兎が2羽だけで後は空振りだった。まぁ、この2羽は解体して干し肉行き、朝食は昨日の残りで十分。朝食後は、テントや焚き火等を片付けてから出発する。


そして、特に問題もなく行軍目的地に、斥候部隊として現地入り出来た。今回は狩りは無しで、夕飯は持参した非常食を頂く。当然、昨日獲れた兎はまだ乾燥が済んでないので、夕飯には使わなかった。まぁ、ちょっとお肉が無いのが可哀想だ、とエルと兄に耳打ちされたので、仕方なく兎肉を少し使って湖に罠をこっそり設置して、色々な作業が終わったら確認し、取れた魚を夕飯というか、食後の暇な時間用の間食に当てる。だが、カリキュラム通りに進んでいるとはいえ、今日の夜も私とエルは見張り番無しにされた……いい加減狩りがしたい。


3日目、この日は予定通りなら、本隊がこの野営地に来る日である。そのため、ある程度広い範囲を拠点地とし、自分達のテントを拠点の外周部に移動。そして、ある程度の整地、偵察を行う。それが終われば、ある程度の自由行動を認めるらしい。尚、その自由行動では、狩り、釣り、水浴び等が含まれている。

なので、偵察とテント設営を終え、ようやく狩りが出来るわけだが、小物を狩るのは本隊の学生の為に禁止らしい。ついでに、罠を使うのもダメという。学生が罠にかかってしまうからとか……面倒くさい。


「さて、大物しか狩っちゃダメらしいから、ちょっと裏技使おうか」

「サイ様?罠の使用は禁止されてますが?」

「罠ではないね。肉食動物の習性を利用するだけだよ」

「なるほど。必要な物は何ですか?」

「それはね……」


私は言いながら、自分の左手にナイフで傷をつけ、慌てて傷を見ようとするエルの左手にもナイフで軽く傷を負わせた。


「これで、血の匂いに釣られて獲物が来るって寸法だよ。まぁ、干し肉に血を着けて少し焼くのも良いし、風を起こして、奥に向けて血の匂いを送るのも良いね」

「……せめて、説明してから行動して下さい。気でも触れたかと心配しましたよ?」

「まぁまぁ。説明した所で、回復出来るのに絶対反対するでしょ?」

「……まぁ、しますね。必要性が無いので」

「だからだよ。いい加減狩りがしたいんだよ、僕は」


と、いうわけで、エルがうるさいからさっさと血を干し肉に塗りたくって、傷を光魔法で癒してからハンカチで血を拭い、血や干し肉の匂いを森の奥に送る。ただ、私は風属性の魔法は使えない。ただ、魔力を空気に乗せ、空気を動かすように魔力の塊を放っているだけだ。属性魔法というのは、自身や大気中の魔力を自身が扱える属性に変質させてから、イメージを持って、それを魔法として放ったりするもの、らしい。まぁ、他の学生は大体水浴びやら、釣りを楽しんでるし、狩りに出てるのは私達を含めて少数だし、更に奥に進んでいるのは僕達か騎士達しかいないからね。

さて、十分血の匂いを奥に送ったし、後は獲物がこっちに来るのを待つだけだが、エルに注意事項だけは伝えておかないとなぁ。


「じゃ、エルは僕が狩った獲物の処理と自衛だけはよろしくね?」

「え?」

「散々、我慢したから……良いよね?」

「いえ、あの……」

「僕より前に出たら、エルでも狩るからね?」

「……はい、分かりました」


よし、これでこっちの準備は終わり。さぁ、全力で狩るとしよう。僕達を中心に左右に約10mがスタートライン。そこから森の奥の方に扇状500mの範囲を狩場にしておこう。まぁ、肉食や雑食の獣以外に、魔物と呼ばれる魔力が有る?獣やら何やらが来る場合も有るだろうけど、獲物が居なくなるまでの処理はエルに任せれば良いだろう。

そうして決めてる間に、ちょうど決めた範囲に獲物が入って来た。足の速さ、数、嗅覚的には狼系かな?ひとまず、物理的な遠距離攻撃は禁止で、魔法と近距離戦だけにしよう。その方が、エルの作業効率が良いだろうしね。


「いいねいいねっ!あ、エルはしばらくはそこに居てね。僕が前進するから、それに合わせてゆっくり進んで解体してね!」

「わ、分かりました」


フフフ。いやぁ、誘われてると気づかず、バカ正直に私の所に向かって来る獲物達の反応を見て狩りを楽しむ。まぁ、人間程の知能が有るのはまだ見たことはないが、所詮は獣。肉食動物だろうが、魔物と呼ばれるものだろうが、大抵は力業。集団で連携して狩りをしようが、強大な身体能力、この世界では当たり前の魔法、己が存在の全てを使っての攻撃でも、最終的には人間には勝てないだろう。何故ならば、生きるだけに必死に研鑽する獣より、集団で生きる以外にも時間が使える人間には、それだけ己が技を研く時間が繁栄する時間が有るのだ。人間と同じように、また、人間よりも長寿でなければ……いや、短い時間でも人間よりも更に濃い修練と技の、技術の継承が出来れば、その存在は人間を越えるだろう。だが、だからこそ、人間狩りという至高の狩りは止められないし、止まらない。


「……ふむ。ちょっと考え事に集中し過ぎたかな?私の悪い癖だね」


目の前に広がるのは血の海。いや、それは私の後ろにも続いている。私の前に佇むデカイ塊を見れば、なるほど。これは……狩りが楽しくなって考え事に没頭し、やり過ぎてしまったかもしれない。とりあえず、デカイ塊や動かなくなった獲物達を処理しながら影にでも入れて、エルと合流するために引き返そう。





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