第57話 束縛
テレビ出演などに重点を置く年は、共演者や友達と会えるのが楽しい。そし
て、女性のみならず、最近は男友達からも人気の高い碧央は、番組の後に度々飲
みに行っては、相変わらず潰れる。
瑠偉:「あーあ。やっぱり俺たち、無人島に引っ越す?」
男友達にタクシーで送られてきた碧央が、リビングのソファに横になり、氷嚢を
頭に乗せられている。瑠偉が床に膝をつき、碧央の顔の傍に肘をつき、頬杖をつ
いてそう言った。
碧央:「・・・ごめん。」
碧央はそう言うと、肘をついて起き上がり、ソファに座った状態で氷嚢をおでこ
に乗せた。瑠偉は碧央の隣に腰かけ、腕組みをした。碧央は横目でちらっと瑠偉
を見た。怒っているようにしか見えない。
瑠偉:「・・・あのさ、碧央くんはお酒に弱いんだから、飲み方に気を付けないと。
ただの友達とか、いっそ女の人ならまだ心配ないけど、この間みたいな事があっ
たらさ。」
碧央:「はい。気を付けます。いや、気を付けているんだけどさあ。なんでだろうな
あ、いつの間にか酔っぱらってて。」
瑠偉:「多分さ、相手が碧央くんを潰そうと思って飲ませているんだよ。俺たちメン
バーと飲む時はさ、みんな碧央くんが飲み過ぎないようにさりげなく気を付けて
いるけど、他のお友達はそうじゃないんでしょ。」
断定的で、ちょっと棘のある言い方だった。碧央は苦笑い。
碧央:「そっか、そうだな。もう、飲みに行かないよ。」
瑠偉:「え?・・・いや、行くなとは言ってないよ。」
碧央:「なんだよ、行くなって言ってるようなもんじゃん。」
碧央はちょっと笑って言った。
瑠偉:「うーん、そりゃ、飲みに行かない方がいいとは思うけど、それだと碧央くん
の息抜きが無くなっちゃうし。」
瑠偉が戸惑いを見せる。
碧央:「お前だって、ほとんど飲みに行かないじゃん。お前は酒に強いのに。」
瑠偉:「俺は、メンバー以外に親しい友達もいないし。」
碧央:「じゃあ、俺も他の友達と付き合うのを辞めるよ。」
瑠偉:「そんなの、ダメだよ。」
碧央:「なんでだよ。お前、もっと俺の事縛れよ。」
瑠偉:「え?・・・縛られたいの?」
碧央:「おう。」
瑠偉:「なんで?もしかして、縛られている方が愛情感じるタイプ?」
碧央:「タイプかどうか知んないけど、俺はお前にもっと縛られたい。」
瑠偉:「なんだ。縛りたいのを我慢してたのに。」
瑠偉は拍子抜けした。だが、同時に懸念も生じる。
瑠偉:「碧央くん、もしかして俺の事も、もっと縛りたいとか?」
碧央:「ああ、縛りたいね。」
碧央はおでこに乗せていた氷嚢を外し、真正面から瑠偉の顔を見た。
瑠偉:「さっきも言ったけど、俺には親しい友達もいないし、これ以上縛り付ける必
要なんてないでしょ?」
碧央:「メンバー以外には、だろ?メンバー内にはいるだろ。篤くんとか。」
瑠偉:「篤くん?」
碧央:「お前は、篤くんと仲良くしすぎだ。」
瑠偉:「そんな事・・・。」
否定しようとした瑠偉は、ストックホルムでの事が頭をよぎり、言葉を失くし
た。
実はノーベル賞授賞式の翌日、碧央は篤が光輝に話しているのを聞いてしまっ
たのだ。
篤:「夕べ瑠偉がさあ、部屋を訪ねてきたと思ったら、俺の胸に飛び込んできてさ、
泣きじゃくるんだよー。参ったよなあ、夜中だぜ。せっかく1人部屋だったの
に。」
と、嬉しそうに話していたのだ。
碧央:「瑠偉、俺は友達と飲みに行くのを辞める。だから、お前は篤くんに抱きつい
たりするな。どうだ?俺の願い、聞いてくれるか?」
瑠偉:「碧央くん・・・分かった。でも、心配しなくても、俺が惚れているのは碧央
くんだけだよ。」
2人はしばし、無言で見つめあった。すると、カシャッとシャッター音が鳴っ
た。
涼:「いやあ、絵になるねえ。ほら、この写真見ろよ。」
涼がいつの間にかリビングに来ていて、今撮った写真を碧央と瑠偉に見せた。
瑠偉:「涼くん、その写真ちょうだい。」
涼:「いいよ、送るな。いやあ、この写真、ポストカードにして売った方がいいんじ
ゃないか?」
涼は瑠偉に写真を送信すると、冷蔵庫から水を出し、コップに注いで飲んだ。そ
して、別のコップにも水を注ぎ、碧央のところへ持って来た。
涼:「ほれ、飲みな。」
碧央:「あ、ありがとう。」
碧央はコップを受け取った。
涼:「じゃ、お休み。」
涼は片手を上げてそう言い、部屋に戻って行った。瑠偉は、送られてきた写真を
見てニヤニヤしている。
碧央:「何ニヤついてんだ?」
瑠偉:「これ、スマホの待ち受けにしようっと。」
碧央:「どれどれ?」
碧央は、自分の写真をあまり見ない。だが、珍しくこの写真は見ようとした。瑠
偉が写真を見せると、
碧央:「ふーん。じゃあ、俺にも送って。俺も待ち受けにするから。」
と言った。
瑠偉:「え、珍しいね。自分の写真を待ち受けにするなんて。」
碧央:「自分の写真じゃねーよ。お前の、いや、お前と俺の写真だろ。」
そう言ってそっぽを向いた碧央に、瑠偉は思わず微笑んだ。その写真には、真剣
に見つめ合う2人が写っていた。
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