第54話 辞める勇気

   結局、1年毎にコンサートツアーの場所や活動内容を変えていく事になった。

  1年間日本でたくさんコンサートをやったら、次の1年間はコンサートはやらず

  にテレビ番組出演や動画配信に重点を置く。そして次の1年はワールドツアーば

  かりやる、というように。ロックバンドなどは、そのようにしている場合もあ

  る。アイドルというと、それこそ賞味期限を気にしてか、やれるだけたくさんコ

  ンサートをし、出られるだけテレビに出て、新しい曲もどんどん出す。だが、

  STEはそのようなアイドル手法を辞めたのだ。

   しかし、コンサートの回数は、ロックバンドの比ではない。やはりアイドルな

  のである。例えば日本公演では、1つのホールで1日2回公演を5日間、中2日で

  都道府県を移動して、また5日間、そうやって日本の都道府県を1年で回れるだ

  け回る。つまり、ほぼ全ての都道府県を回るのだ。

大樹:「同じ場所に1週間いると、リハーサルは最初の1回でいいし、意外と楽だ

  な。」

光輝:「昼間は観光したりも出来るしね。」

瑠偉:「平日だし、割と2人くらいで歩いていてもバレないよね。」

涼:「いろんな温泉にも浸かれるしな。」

  割と、過ごしやすかった。ただ、1年間新しい曲を出さないと、飽きられてしま

  うのではないかという懸念もあり、コンサートをこなしながら、新しい曲も作

  り、振り付けも作って行った。なので、コンサートの序盤と終盤では、歌う曲が

  違ったりする。オンライン配信もしているので、フェローは見に行ったコンサー

  ト以外のコンサートも、オンラインで視聴したりするのだった。

植木:「うん、収益は上々だ。今度はどこに寄付しようか。」

内海:「毎年やっていた平和祈念コンサートを辞めたんだから、まずは核兵器廃絶運

  動へ寄付じゃないか?」

植木:「そうだな。」

瑠偉:「食糧支援機構にも寄付したいな。微々たるお金じゃどうにもならないけど、

  まとまったお金なら、世界中の飢餓に苦しむ人たちを助けられるんじゃないかと

  思って。」

内海:「いいね。」

植木:「オーケー、その方向で。」

  植木は親指を立てた。


   秋になり、毎年恒例のノーベル賞のノミネート発表の時期がやって来た。いつ

  も何となく期待しているSTE関係者だが、やはり音楽の賞とは違って、こちらに

  は今までアイドルが選ばれる兆しはなかった。だが、今年はとうとうSTEがノー

  ベル平和賞にノミネートされたのだ。

植木:「おめでとう!とうとうやったぞ。」

内海:「いや、まだ賞をいただけると決まったわけではないからね。」

植木:「ノミネートされただけでもすごいじゃないか!」

流星:「え?本当に?ノーベル賞ですか?」

植木:「そうだ。」

流星:「うわ、信じられない。」

  流星は両手を口に当てて、固まった。

光輝:「冗談で狙っているなんて言った事あったけど、本当にノミネートされるなん

  てね。」

  固まった流星にぶら下がるようにして、光輝が流星の肩に手をかけた。

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