第53話 国を出るか、閉じこもるか

   翌朝、瑠偉はリビングに到着するなり、光輝を探した。夕べから、流星との事

  を聞こうとこの機を待ち構えていたのだ。

瑠偉:「あ、いた。光輝く・・・。」

  声を掛けようとして、思いとどまった。コーヒーを飲んでいた光輝の隣には、同

  じくコーヒーを飲んでいる流星がいて、ちょうど瑠偉が光輝に声を掛けようとし

  た時、光輝が流星の耳元に口を寄せ、何かを囁いたのだ。そして、2人はくすく

  すと笑う。

瑠偉:「ありゃ、聞くまでもないか。」

  そっと呟いた。

碧央:「瑠偉、どうしたんだ?」

瑠偉:「碧央くん、おはよう。あの2人、喧嘩でもしたかと思ったけど、問題ないみ

  たいだね。」

  瑠偉は目線で2人を示し、小声で言った。

碧央:「ああ・・・問題ないというより、進展したって感じだな。」

瑠偉:「えっ、そう?・・・本当だ。そっか、つまり・・・むふふ。」

  瑠偉が笑うと、碧央もふっと笑って瑠偉の頭に手を置いた。

碧央:「変な笑い方してぇ。・・・可愛いけど。」

瑠偉:「え?」

碧央:「何でもないよ。」

瑠偉:「えへへ。」

  そこへ、篤が現れた。

篤:「おう、瑠偉。今日も可愛いな。」

  そう言うと、篤は瑠偉の腕をさっと引っ張って、自分の腕の中に収めた。

瑠偉:「篤くん、おはよう。篤くんも相変わらずイケメンだね。」

篤:「そうだろう?よしよし。」

  篤が瑠偉の頭を撫でると、碧央が瑠偉の腕を引っ張って、篤から引きはがした。

碧央:「瑠偉、コーヒー淹れて。」

瑠偉:「はいはい。」

篤:「あ、俺にも淹れて!」

  めげない篤であった。


植木:「みんなに相談がある。」

  植木が現れて、そう言った。

流星:「何ですか?」

植木:「今回の事で、俺もいろいろ考えた。君たちが、思うように音楽を作って、世

  界に発信していくには、この日本を出た方がいいのではないかと思うんだ。どう

  だろう?」

大樹:「日本を出て、またアフリカとかに行くんですか?」

涼:「今度は永住ってこと?」

植木:「いや、どこかの国に永住すれば、やがてそこも日本と同じになってしまう。

  この際、島でも買ってしまおうかと。」

篤:「え!?島を買う?無人島ですか?」

流星:「そんなお金、あるんですか?」

植木:「そう、無人島だ。まあ、君たちならすぐに稼げる額なのだろうが、そうする

  と今までのようにチャリティーコンサートではなくなってしまう。だから、この

  STEタワーを売って金を作ろうと思うんだ。」

碧央:「俺は、どこにいてもSTEでいられるなら、いいですよ。」

瑠偉:「でも、テレビ出演が難しくなりますよね?リモート出演は出来るけど、他の

  出演者との交流が一切なくなりますよ?」

涼:「元々飲食店に行く機会もないけど・・・デリバリーとかも出来なくなるんです

  か?」

植木:「まあ・・・そうだな。うっかり、君たちがアフリカにいても問題なかったも

  のだから、大丈夫だと思ってしまったが、永住となるとやはり問題があるか。」

光輝:「僕は、やっぱり日本にいたいです。デリバリーとかの問題じゃなくて。僕た

  ちのフェローは世界中にいるけど、やっぱり日本には一番たくさんいて、僕たち

  を支えてくれています。僕たちは日本人なのに、遠く離れてしまっては、日本に

  いるフェローが悲しむのではないかと思うんです。」

植木:「うーん、確かにな。」

流星:「今回の騒動で、政府も僕たちをまた逮捕しようとは思わないんじゃないです

  か?」

内海:「あはは。誰も、もう政府にたてつくような歌は作らないようにしよう、とは

  言わないんだな。」

  部屋にいてうろうろしていた内海が、突然笑ってそう言った。

大樹:「そりゃあ、そうですよ。そんな事をしたら、俺たちの存在意義がなくなって

  しまう。」

涼:「そうですよ。ただのアイドルになってしまいますよ。そんな事になったら、賞

  味期限を切られた気がしてぞっとしますよ。」

植木:「賞味期限か、あははは。まあ、政府の事もそうなんだが、世界中から君たち

  目当てに人が殺到する事も問題なんだ。チケットの倍率があまりにも高くなって

  しまうし。」

内海:「普通、そうなればチケットの値段を上げるところなんだけどね。そうしたく

  はないだろ?」

光輝:「そうか、チケット代が高ければ、申し込みも減るし、それだけこっちも儲か

  るってわけか。」

植木:「普通なら、そうするが、俺たちはしない。だろ?」

  メンバーはみな、微笑みながら頷いた。

瑠偉:「そうしたら、オンラインライブがいいんじゃないですか?それなら、人数は

  無制限ですよね?」

植木:「常に、オンラインでやるって事か?観客を入れずに?」

瑠偉:「はい。」

大樹:「だが、そうすると歌番組の観覧とかに人が殺到するんじゃないか?それしか

  生でパフォーマンスを見られないとなると。」

瑠偉:「そっか。」

碧央:「じゃあ、もっともっと、たくさんコンサートをやればいいんじゃないです

  か?そうしたら、倍率は下がるでしょ?」

流星:「そうですよ、海外を回るというよりは、日本でたくさんコンサートをやる方

  がいいのかもしれませんよ。」

植木:「そうか、確かにたくさんコンサートをやるというのは、ありだが・・・疲れ

  るぞ?」

碧央:「あ・・・そうかな。」

涼:「いいじゃないか、移動がそれほどなければ、きつくないかもよ?それに、練習

  で散々疲れているんだからさ、本番をたくさんやっても同じ事だよ。」

瑠偉:「そうかなぁ。」

大樹:「回数をたくさんやるなら、1回の公演を短めにすればいいんじゃないか?そ

  うすれば疲れないよ。」

瑠偉:「そうだよね、いつもは20曲とかぶっ通しでやるから疲れるけど、10曲で一

  度休憩が入れば、楽だよね。次の10曲も同じものをやるわけだし。」

篤:「でもさ、日本でばかりやって、海外にあまり行かなくなったのでは、時代の流

  れに逆行していないか?俺たちはワールドワイドなスターなのに、また国内に閉

  じこもるのか?」

涼:「たまには、ヨーロッパとかアメリカとかにも行くべきだよね。」

光輝:「アフリカだって、中東だって、行くべきだよ。」

植木:「うーん、難しい問題だな。また少し考えてみよう。」

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