第52話 段階を踏んで

   そうしてSTEは無事に家に帰って来た。

篤:「あー、疲れた。早くベッドで寝たいよ。」

瑠偉:「一日で帰って来られてよかったねー。」

涼:「人生、何が起こるか分からないねー、ほんとに。」

碧央:「また、フェローのありがたみを強く感じたよね。」

大樹:「ああ。これからもいい歌を作って、いいパフォーマンスをして行かないと

  な。」

碧央:「うん。」

  ソファにぐったり座り込んでいた面々だったが、大樹の言葉によってまたやる気

  がみなぎる。

内海:「また明日から仕事だからね。今日はゆっくり休んで。」

メンバー:「はーい。」

  お開き、の雰囲気になった時、流星が無言で立ち上がり、

流星:「光輝、ちょっと俺の部屋に来て。」

  と、言ってすぐに自分の部屋に向かって歩き出した。

光輝:「うん。」

  光輝がその後を歩いて行った。

涼:「なんだ?2人して深刻な顔しちゃって。まさか、別れ話?」

大樹:「もしかして、今更告白だったりして?」

涼:「まっさかー。」

  涼と大樹は、あはははと大笑いした。瑠偉は苦笑い。みんなにバレてるじゃない

  か、と。だが、実際あの2人に何があったのか、心配でもあった。


 光輝:「あの、流星くん?どうしたの?」

  流星の部屋に入り、ドアを閉めると、光輝が不安そうに尋ねた。

流星:「光輝、俺は気づいたんだ。」

光輝:「何を?」

流星:「俺たちの時間は無限ではない。明日、どうなるかも分からない。」

光輝:「そうだね。明日も同じ明日が来るとは限らないよね。」

流星:「だから、大事な事を先延ばしにしてはいけない、と気づいたんだ。」

光輝:「なるほど。それで、大事な事って?」

流星:「それは・・・。」

  流星は突然、光輝を突き飛ばした。光輝はすっとんで、ベッドの上でバウンドし

  た。すかさず、その上に流星が乗っかって来た。

光輝:「うわー、ちょっと待って!流星くん!」

流星:「待てない!今しないと後悔するかもしれない!」

光輝:「いや、待って!ダメだって!いくらなんでも、段階ってもんがあるでし

  ょ!」

流星:「光輝!」

光輝:「やーだっ!」

  しばらくもみ合ったが、光輝があまりにジタバタするので、流星も諦めざるを得

  ず、光輝の上からどいた。光輝が涙目になって流星を睨んでいる。それを見た流

  星は、ハッとして、急に冷や汗をかいた。熱に浮かされていたのが、突然目が覚

  めたような、冷や水を浴びせられたような感覚。

流星:「こ、光輝、ごめん。その・・・焦り過ぎたよ。」

  流星が光輝の方に手を伸ばすと、光輝はその手をぴしゃりと叩いた。

流星:「あ・・・俺、嫌われた?ど、どうしよう、光輝、ほんとごめん!何やってん

  だろ、俺。光輝に嫌がられたら元も子もないのに。ただ、大切だからっていつま

  でも手を出さずにいたら、後で後悔するって思って、それで・・・。」

  しばし沈黙し、2人は見つめ合った。

光輝:「・・・もう、分かったよ。」

  光輝はお山座りになって、膝をぎゅっと抱いた。

流星:「光輝?」

光輝:「嫌いになんて、なってないよ。」

流星:「でも、怒った?」

光輝:「うーん、怒ってはいないよ。びっくりしただけ。でも、ああいうの、流星く

  んらしくない。ちょっと怖かったもん。だから、嫌だ。」

流星:「うん、ごめん。」

光輝:「僕も、同じことを思っていたよ。明日何が起こるか分からないから、後回し

  にしていちゃいけないって。だから、昨日は僕から・・・しようと思っていたん

  だ。」

  光輝の最後の言葉は、消え入りそうな程小さくなった。

流星:「え?何?」

  よく聞こえなかったので、流星が顔を近づけた。その時、光輝は流星に、キスを

  した。

光輝:「まずは、ここからでしょ?」

  流星は、一瞬面食らって目をパチパチさせたが、その後でふっと笑った。

流星:「そうだよな。」

  2人はふふふ、と笑い合った。そして、流星は光輝の肩に手をかけ、2人はもう

  一度口づけを交わした。


 碧央:「まぁた、ここにいるし。」

  碧央が呆れてそう言った。流星の部屋のドアに、瑠偉がへばりついていた。

碧央:「そんなに、あいつらの事が気になるわけ?」

  瑠偉は、そうっとドアから離れ、碧央の所へ行った。

瑠偉:「だってぇ、気になるよぅ。碧央くんは気にならないの?」

碧央:「別に、気にならないね。」

瑠偉:「碧央くんはクールだねえ。」

  そう言われて、碧央は顔を曇らせた。碧央は、昔からあまり人に関心がなく、何

  度も友達から「冷たい人」だと言われてきた。瑠偉には特別な関心があるのだか

  ら、今は「冷たい人」ではないと思っていたのに、その瑠偉からクールだと言わ

  れてしまった。胸に冷たいものが降りて来た。

瑠偉:「碧央くん、どうしたの?クールでかっこいいって意味だよ?」

  瑠偉は碧央の表情を見て不安になり、碧央の腰に手を回して、ぎゅっと引き寄せ

  た。そして顔を覗き込む。

碧央:「俺は冷たい人間か?」

瑠偉:「え?そんな事ないよ、全然。碧央くんは温かい人だよ。」

碧央:「でも、今クールだって言ったじゃないか。」

瑠偉:「冷たいんじゃなくて、涼しいんだよ。暑苦しくないの。」

碧央:「は?何それ。」

瑠偉:「もう、その言い方は冷たいよ。人の事を詮索するのはカッコ悪いし、暑苦し

  いよね。反省します。」

碧央:「いや、お前は下世話な興味じゃなくて、あいつらの事を心配しているんだよ

  な。」

瑠偉:「まあ、心配もしているけど・・・興味もあるんだよね。」

  瑠偉はそう言って、ペロッと舌を出した。

瑠偉:「まあ、後で光輝くんに聞けばいいや。行こう行こう。」

  瑠偉はそう言うと、今度は碧央の肩に手を置き、自分の部屋の方へ促した。

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