第51話 助けてくれるのは

   その歌は、STEが初期の頃に出したアルバムの中に収められている「We are

  fellow(僕たちは仲間だ)」だった。よく、コンサートの最後にフェローと一緒

  に歌う歌である。

担当官B「あ!これを見てください。」

  担当官の1人が、スマホをSTEのみんなの方に向けた。それは、ニュース映像だ

  った。今、この留置場の周辺にはたくさんの人が集まって、We are fellowを歌っ

  ている。その人の輪がどんどん広がって行く様子が映し出されていた。

   STEのメンバーはその映像を見て息をのんだ。

光輝:「みんな・・・。」

涼:「うそ、だろ・・・。」

瑠偉:「俺、涙出そう。」

流星:「俺は出た。ううっ。」

  泣き出した流星の背中を、光輝が微笑みながら撫でた。

アナウンサー:「STEのファンたちが、次々にやってきます。あ、横断幕を掲げてい

  る人もいますね。えー、私たちはSTEに騙されてなどいない、と書かれていま

  す。」

  ニュース映像を改めて見ると、フェローたちは横断幕や画用紙を掲げている。

  STEを解放して、などと書かれていた。

大樹:「騙されてなどいない、か。俺たちが詐欺罪で捕まったから。」

光輝:「ありがたいね。」

碧央:「俺たち、ここから逃げる必要なんてなさそうだな。フェローを信じていれ

  ば、きっと出られるよ。」

瑠偉:「うん、そうだね。」

  そして、ニュースは植木社長を映し出した。STEメンバーと入れ違いに釈放され

  た植木は、STEタワーの前で記者に囲まれている。

植木:「私や会社がどうなっても構いませんが、STEのメンバーだけは守りたい。彼

  らは一生懸命にやってきました。この地球を守るために、そして、フェローの想

  いに応えるために。」

  更に、ニュースでは外国のメディア映像を流した。

アナウンサー:「海外でも、STE逮捕のニュースが大きく取り上げられています。そ

  して、続々と各国首脳や国連、NGO関係者からSTEの解放を求める声明が出さ

  れています。これは、日本政府がどう対応するのかが注目されます。」

篤:「何か、集まってくれたフェローのみんなの為に出来る事はないかな。」

光輝:「お礼を言いたいよね。今すぐに。」

担当官A:「では、ここから配信しますか?」

流星:「え?いいんですか?」

担当官A:「どうぞ。僕のスマホを使いましょう。」

流星:「でも、そんな事をしてあなたは大丈夫ですか?後でお咎めを受けるので

  は?」

担当官A:「いいんです。実は僕もフェローですから。」

  担当官がそう言うと、光輝はその担当官に抱き着いた。

光輝:「ありがとうございます!」

担当官A:「わあ、いやあ、役得だな。さあ、それでは早速やりましょう。」

  STEメンバーは、ササっと1分くらいで打ち合わせをし、スマホに向かって並ん

  だ。

STE:「こんにちは!Save The Earthです。」

流星:「僕たちの為に行動してくれたみなさん、祈ってくれたみなさん、気にかけて

  くれたみなさん、本当にありがとうございます。僕たちは見ての通り、無事で

  す。」

篤:「集まってくれたみなさんの為に、僕たちがここからパフォーマンスを披露しま

  す。外には聞こえないかもしれないけど、心は一つ!」

涼:「それでは、energyとWe are fellowの2曲、歌います。」

  もう1人の担当官のスマホから曲を流してもらい、STEは歌いながらダンスを披

  露した。外にいるフェローたちにもすぐにこの情報が伝わり、皆スマホで配信を

  見た。そして、歌が終わると外からの大きな歓声がSTEの耳に届いた。


   海外のニュースでも、このSTEのパフォーマンスと集まったフェローたちの映

  像が流れた。ツイッター上でも、たくさんの人が日本政府を非難した。中には著

  名人のツイートもあった。

官房長官:「総理、このままではまずいのでは?」

  総理大臣室で官房長官がそう切り出した時、外務大臣が入って来た。

外務大臣:「失礼します。各国大使館から抗議の電話が殺到しています。いかがいた

  しましょう?」

総理大臣:「うーむ。忌々しいSTEめ。これではまるで私が悪者ではないか。」

外務大臣:「やはり、すぐに釈放した方がよろしいのでは?」

総理大臣:「だが、周りに言われてほいほいと釈放したのでは、政府の威信が保てな

  いではないか。」

官房長官:「ですが、結局罪状もでっち上げですから、そう長くは拘留しておけませ

  ん。」

総理大臣:「何か、やつらの弱みはないのか?何か悪い事の1つや2つ、しているだ

  ろう。」

官房長官:「いえ、調べさせましたが、何も出ませんでした。」

総理大臣:「政治家なら、必ず何か出るのだがな。」

  総理大臣は腕組みをして目をつぶった。そして、そのまま天井を仰いだ。

総理大臣:「記者会見を開く。手配してくれ。」

官房長官:「はい。」


   そうして、総理大臣の記者会見が行われた。

総理大臣:「たった今、STEを解放するよう警視庁に通達致しました。多くの方にご

  心配をおかけしました。日本国を代表して、陳謝いたします。」

  総理大臣はそう言って頭を下げた。

記者:「詐欺罪という事でしたが、疑いは晴れたのですか?」

総理大臣:「はい。この度は、警視庁の早合点と申しますか、勇み足と申しますか、

  大変遺憾ではありますが、合法的な措置であったという事ですので、どうか皆様

  にはご承知おきくださいますよう。」

  それから、記者からのいくつもの質問を浴びた総理大臣だったが、ろくに答えず

  早々に立ち去ってしまったのであった。

内海:「なーにが勇み足だよ。政府が無理やり逮捕させたくせに。」

  STEを迎えに行くために車を運転していた内海が、ラジオで会見の様子を聞いて

  そう独り言ちた。

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