第47話 問題の歌
STEは、アルバム作りを始めた。会議室などもあるが、基本リビングでそれぞ
れ紙に書いたりノートパソコンに打ち込んだりして作業していた。
何度も言うが、光輝はメンバーとの接触が多めである。なので、光輝が誰にく
っついていても、メンバーは気にしない。だが、ふと大樹が思いを留め、こっそ
り涼にこう言った。
大樹:「なあ、光輝と流星くんって、最近ギクシャクしていたんじゃなかったっ
け?」
涼:「え?」
そう言われて、涼は部屋の中を見回し、光輝を見つけた。すると、流星にべった
りくっついて、流星が打ち込んでいるパソコン画面を見ていた。時々言葉を交わ
しているようで、仕事をしているのだろうが、2人の表情は穏やかだった。
涼:「そういえば、そうだよな。仲直りしたのかな・・・って、おい、流星くんは光
輝の事を・・・。」
大樹:「ああ。」
涼:「じゃあ、もしかして、2人は両想いに?」
大樹と涼は改めて流星と光輝を見た。すると、2人は顔を見合わせて笑い合って
いた。
大樹:「2人の世界だな。」
涼:「へえ、光輝は篤くんだと思っていたけどな。」
大樹:「篤くんは、相変わらず瑠偉だもんな。瑠偉は相手にしてないけど。」
涼:「瑠偉は碧央だもんなぁ。たぶん、あれは本物だよ。みんな、一時期ギクシャク
してからラブラブになるんだなあ。」
大樹:「本当だな。しっかし、再びギクシャクして欲しくはないもんだ。グループ内
でくっついたの離れたのってされたんじゃ、困るよ。」
涼:「まあまあ、若いんだからいいじゃないの。」
涼はそう言って大樹の肩をポンポンと叩いた。
STEは、平和祈念コンサートを終えて帰国したが、それは植木が元々計画して
いた事だった。つまり、政府との交渉の結果、アフリカ滞在を辞めて帰国したと
いうわけではなかった。だから、政府が約束を全て守っていなかったのを不問に
して、帰国したのである。
STEの新たなアルバムが発売された。売上のほとんどを寄付に回すのは、今ま
でと同じ。STEには事務所の後輩というものがいない。植木は、芸能事務所を発
展させていこうとは考えていないのだった。もしアイドルとしてやって行けなく
なったら、STEメンバーを含めた事務所のスタッフ全員で、また新たな事を始め
ればいいと思っていた。やる事はただ1つ、地球を守る事。「Save The Earth」
の名でずっと続けていくつもりだった。
瑠偉:「さっすが、流星くん。こういう歌詞にするとは!」
そう、瑠偉が絶賛、感嘆したのは「Energy(エナジー)」という新曲。その歌
詞の一部が以下である。
― energy energy energy!
もっとだ もっとだ まだまだ足りねえ
クリーンenergy Come on!
今のままじゃ ゼロになんてできないぜ
企業努力次第? それじゃダメだ 間に合わねえ
どこに金を使うんだ? 使うとこはここだぜ
頭を使え! 悪いこたぁ言わねえ 使うとこはここだぜ!―
総理大臣:「最近のSTEは、図に乗っているよね。」
閣議が始まると、総理大臣はまずこう言った。
文部科学大臣:「は?」
総理大臣:「新曲のエナジー、聞いたか?あれはどう考えても、政府を批判している
じゃないか。」
文部科学大臣:「はあ。」
経済産業大臣:「総理のおっしゃる通りです。私も聞いて驚きましたよ。」
総理大臣:「アイドルのくせに、政治に口を出すとは小賢しい。」
防衛大臣:「全くです。核禁条約に関しても、暗に批准しろと言っているようなもの
です。その圧力がすごい。ファンを使ってくるのですから、始末が悪い。」
総理大臣:「ファンを使って来るとは?」
防衛大臣:「夏のコンサートツアーの辺りから、防衛相のホームページに、日本も今
すぐ核禁条約に批准しろという内容で、毎日1万件の苦情が寄せられているんで
す。」
経済産業大臣:「1万件も?毎日ですか。」
防衛大臣:「同じ人物が何回も書き込んでいるのだとは思いますがね。」
総理大臣:「それもこれも、あの植木とかいう社長が入れ知恵しているんだろうね。
彼さえいなければ、STEはもっと使えるんじゃないのかね。」
文部科学大臣:「いなければ?」
総理大臣:「彼を消してしまえば、STEはどうなる?」
防衛大臣:「他の芸能事務所に行くのではないでしょうか。そうしたら、環境問題だ
何だと言わずに、普通にアイドル活動をするのではないでしょうか。」
総理大臣:「そうすれば、またインバウンド効果が期待できるよね。」
文部科学大臣:「ですが、消すというのは・・・。」
総理大臣:「社会的に抹殺すればいいのだよ。人間、叩けば埃くらい出るもんだ。徹
底的に調べ上げて、逮捕しちゃえばいいんじゃないの?」
文部科学大臣:「な、なるほど。分かりました。調べさせます。」
総理大臣:「うん、そうしてくれ。」
1週間後の閣議。
総理大臣:「まだ、STEの社長が捕まったというニュースを聞かないけど?」
文部科学大臣:「は、それが、いくら調べても植木氏については何も出てきませんで
した。」
総理大臣:「そんな事はないだろう。過去まで遡ったのか?」
文部科学大臣:「はい、もちろんです。」
経済産業大臣:「あれだけ成功して、大きな額の金を動かしているんだ。何かあるで
しょうよ。」
文部科学大臣:「いえ、それが、何も。」
総理大臣:「本人になければ親とか、妻とか。」
文部科学大臣:「両親は既に他界しています。一応調べましたが、これと言って何も
出ませんでした。妻はいません。独身です。」
総理大臣:「隈なく調べた上で、ないというのだな?そんな奴がいるのか・・・。で
は仕方がない。なければ作るのみだ。脱税とか横領とか、適当に作りなさい。そ
して、芸能プロダクションにはSTEを引き取るように差し向けてさ。」
そんな総理の発言で、実際に植木は逮捕されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます