第46話 帰国
成田空港には大勢の人が詰めかけ、STEが現れるのを今か今かと待ち構えてい
た。7人のメンバーが姿を現した途端、大きな歓声とフラッシュが飛び交う。
フェロー:「お帰りなさーい!」
フェロー:「キャー!!」
報道陣も多数詰め掛け、各局のテレビ中継がなされた。ちょうど午後のワイドシ
ョー番組の時間帯で、この様子を中継したあるテレビ局では、次のような会話が
なされた。
キャスター:「STEがやっと帰ってきましたねー。」
芸能評論家:「いやー、帰ってきましたねー。フェローのみなさんも待ちに待ったと
言ったところでしょうね。」
キャスター:「彼らをご覧になって、いかがですか?先生。」
芸能評論家:「そうですね。まず、7人ともすごく日焼けしましたね。赤道付近の国
にずっといたからでしょうかね。」
キャスター:「そうですね、かっこいいですよね。あれじゃないですか、植樹作業な
どで日中外にいる事が多かったのではないでしょうか。」
芸能評論家:「そうでしょうね。それと、彼らが最近作った曲にも変化が感じられま
すね。」
キャスター:「と言いますと?」
芸能評論家:「初期の頃の、尖った感じが取れてきたように思われますね。アフリカ
で作った楽曲は、何かを攻撃する内容ではなく、地球のすばらしさを歌ったもの
が多いです。「Wonder(ワンダー、不思議)」とか「Source(ソース、起
源)」なんかがまさにそうですね。」
キャスター:「なるほど。」
男性タレント:「Sourceいいですよねー。僕らはこの大地から生まれたんだっていう
サビの部分がすごく素敵なんですよ。ダンスもエレガントな感じで、また新しい
STEを見た気がしますね。」
キャスター:「そうですよね。彼らは毎日のように動画を配信していました。テレビ
番組にもよく出演していましたね。」
男性タレント:「そうなんですよね。だから、ずっと遠くにいたという感覚は正直な
いですね。今や、そう簡単にコンサートに行ったり、握手会に参加したりという
事が難しくなっていますからね。何しろ人気がありすぎて、チケットの倍率が高
すぎるものですから。」
芸能評論家:「そうなんですよ。日本でイベントをしても、海外からフェロー達が押
しかけてきて、倍率が100倍くらいになってしまうんです。その事と、今回日本
を離れた事と、もしかしたら関係があるのかもしれませんね。」
キャスター:「そうなんですか?100倍とは驚きですね。そういうシステムを変えよ
うとして、ボランティアの旅に出たと?」
芸能評論家:「一部のフェローから、不満の声が上がっていたのは事実です。ただ、
どこへ向けていいのか分からない不満ですから、いっそコンサートや握手会を辞
めてしまえば、という手段に出たとしてもおかしくありませんよ。」
キャスター:「確かに。」
帰国したSTEは、やっと我が家であるSTEタワーに帰って来た。
涼:「あー、我が家だあ!」
篤:「やっぱ落ち着くなあ。」
光輝:「うんうん。そうだねー。」
メンバーは、共同リビングのソファに倒れ込むようにして座った。
植木:「みんな、お疲れさん。これからしばらくは、またアルバム作りに専念しても
らおうか。1か月後くらいに完成させて、その後2カ月くらいで発売というとこ
ろかな。」
流星:「はい、了解です。」
植木:「それで、楽曲を作る上でちょっと参考にしてもらいたい事があるんだが。」
流星:「何ですか?」
植木:「うん。ここのところ、世界でも日本でも、だいぶ脱炭素社会を目指そうとい
う意識が高まっているとは思うんだ。二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする、と
政府も宣言している。だが、これを見て欲しい。」
植木は切り取った新聞記事を広げた。
植木:「日本の二酸化炭素排出量の4割が、製造業によるものだ。物を作る際に大量
の電力を消費するそうで、ここを何とかしないと排出量ゼロにはとてもできない
のだ。今は二酸化炭素を排出しない発電方法などが開発されているが、企業がそ
ういったものを採用する場合、今までよりもコストがかかり、国際競争力が下が
る懸念がある。つまり、企業努力だけでは、なかなか脱炭素社会実現は難しいの
が現状だ。そこで、国によるエネルギー政策が必要だ、というのがこの記事に書
いてある。」
瑠偉:「エネルギー政策って、例えばどういう?」
植木:「まあ、要するに電力を安くしてほしいという事だろうな。今は、日本の発電
は火力発電の割合が高い。だが、これは二酸化炭素排出量が多いものだ。もっと
クリーンエネルギーの割合を多くし、そういった電力を製造業界が今以上のコス
トをかけずに手に入れることができるようになるという事が必要なんだ。」
瑠偉:「はあ。分かったような、分からないような?」
流星:「それを、俺たちの歌の歌詞に盛り込めということですか?」
植木:「そうなんだが、難しいだろうな。楽曲としてかっこよく、楽しくしなくては
ならないし、無理にとは言わないが、少し頭の片隅にでも入れておいてくれ。」
流星:「分かりました。考えてみます。」
流星が躊躇なくそう言ったので、瑠偉は羨望の眼差しを流星に向けた。つまり、
(流星くん、すごーい!)と目が訴えていた。
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