第45話 胸の痛み

   流星が、シャワーを浴びて出て来た。部屋では光輝が待っていた。

光輝:「大丈夫?痛くなかった?」

流星:「ああ。背中は水で流しただけだから。」

光輝:「じゃあ、座って。」

  流星はベッドに座り、光輝の方へ背中を向けた。

光輝:「うわ。」

  背中のやけどを見て、光輝は顔をしかめた。まずはタオルでそっと拭き、それか

  ら薬を塗った。その上にラップを乗せ、包帯を巻く。包帯を巻くとき、胸の前で

  包帯を右手から左手に持ち替えるので、いちいち後ろから抱き着くような格好に

  なる。

光輝:「ねえ、どうしてこんな無茶したの?」

流星:「え?そりゃあ、光輝に怪我させたくなかったから。」

光輝:「でも、流星くんが怪我したらダメじゃん。」

流星:「さっきも言ったけど、俺が多少怪我しても損失はほとんどない。でもお前が

  怪我して踊れなくなると、STEとしても損失が大きいだろ。」

光輝:「そんな事ないよ。もし、流星くんが頭に怪我していたら、僕たちにとって相

  当の損失だよ。」

  流星の頭脳がないと、大変困る。英語をしゃべってくれる人がいなくなるだけで

  も辛い。

流星:「ああ・・・まあ、そうかな?」

  流星にも自覚はある。

光輝:「だから、STEの損失がどうとかっていうのは、関係ないでしょ。」

  光輝は包帯の終わりをテープで留めた。

光輝:「ねえ、流星くんは、僕の事が好き、なんだよね?」

流星:「え・・・。」

  光輝は、両手を流星の前へ持って行き、背中から抱きしめた。

光輝:「こうすると、胸がぎゅっとなる?」

  流星はちらっと振り返ろうとしたが、そう聞かれて、動きを止めた。

光輝:「瑠偉がね。」

流星:「え?瑠偉?」

光輝:「うん。瑠偉が言ってたんだ。近くにいると、胸がぎゅっとしたりキュンとし

  たりするのが恋、なんだって。」

流星:「・・・。」

光輝:「僕、今すごく、ぎゅっとなってる。」

流星:「光輝?」

光輝:「流星くんは?」

  流星はごくりと唾を飲み込んだ。

流星:「ああ、ぎゅっとしてるよ。痛いくらいに。」

  そう言って、流星は目の前にある光輝の手に自分の手を重ねた。そうしてしばら

  くの間、2人ともじっとしていた。ただ、お互いの呼吸の音だけが聞こえる。

   流星が体を動かしたので、光輝は手を放した。流星は体を反転させ、光輝と向

  き合った。

流星:「ずっと前から、光輝の事を考えると、胸が痛い。」

光輝:「痛いの?」

  光輝は流星の心臓の辺りに触れた。そして、そのまま腕を背中に回し、今度は前

  から抱きついた。

光輝:「こうしたら、痛いの治るかな?」

流星:「もっと痛くなるよ。でも、幸せな痛みだ。」

  流星は、腕を光輝の背中に回し、ぎゅっうと抱きしめた。

流星:「光輝、好きだよ。」

光輝:「僕も、流星くんの事が好きだよ。本当だ、痛いけど、幸せな痛みだね。」

  2人は、更にぎゅうっと力を込めて抱きしめ合った。恐らく、流星は背中も相当

  痛かったに違いない。


   流星の部屋の外では、瑠偉がジーっとドアを見つめていた。

碧央:「お前、こんなところにいたのか。何してるんだ?」

  瑠偉がいつの間にかいなくなったので、碧央は探しに来たのだ。

瑠偉:「しっ!」

  瑠偉が人差し指を口に当てた。碧央が首を傾げると、瑠偉は碧央の腕を引っ張っ

  て、少し離れたところへ連れて行った。

瑠偉:「今、光輝くんが中にいるだろ?どうなったかなと思って。」

碧央:「どうなったか?ああ。」

  マダガスカルの出発前夜の誤解を解くため、瑠偉は光輝が流星の事で悩んでいる

  話を碧央にしていた。

碧央:「だからって、そんなに見張ってなくても・・・。あ、お前まさか。」

  碧央は目を吊り上げた。

瑠偉:「え?なんで怒るの?」

碧央:「まさか、流星くんを取られたくないとか、思っているんじゃないだろう

  な。」

瑠偉:「はあ?何言ってんの?」

碧央:「だってお前、流星くんの事が好きだろ。」

瑠偉:「ああ、好きだよ!すっごく好きだよ!」

  瑠偉はムキになって言った。

碧央:「くーっ、お前は、もう!」

瑠偉:「ふん!」

  瑠偉がぷいっと顔を背け、スタスタと歩いて行くので、

碧央:「ちょ、ちょっと待て、瑠偉!」

  碧央は瑠偉の腕を掴んだ。だが、瑠偉は碧央を睨みつける。

碧央:「あ・・・そんなに怒るなよ。な、俺の部屋に来いよ。」

瑠偉:「やだ。」

碧央:「るいぃ、瑠偉ちゃーん。」

  碧央が瑠偉の腕を両手でぶんぶん振っているところへ、光輝が流星の部屋から出

  て来た。

光輝:「何やってんの?お前ら。」

瑠偉:「あ、光輝くん!あの・・・どうだった?」

  瑠偉が遠慮がちに聞く。すると、光輝はボッと顔を赤くした。それを見た碧央と

  瑠偉は顔を見合わせた。

瑠偉:「もしかして・・・2人は?」

光輝:「いや、別に。ただ、ちょっと、その。ああ、もう恥ずかしいよぅ!」

  光輝は顔を両手で隠した。

瑠偉:「わーい、おめでとう!光輝くん。」

  瑠偉は光輝の背中をバンバン叩いた。碧央はその様子を見て、ふふふっと笑っ

  た。

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