第34話 危険その1

   報道番組の出演を終え、通用口から外へ出ると、そこは黒山の人だかり。

フェロー:「ゴールド!」

フェロー:「クレイ!」

  などなど、口々にSTEメンバーの名を呼ぶフェローたち。ちなみに、日本では本

  名の方で呼ばれる事の多い彼らだが、国外ではニックネームで呼ばれる。

   名を呼ばれると、そちらへ振り向いて手を振る彼ら。その度に歓声奇声が上が

  る。

フェロー:「キャー!!」

  そして、STEは車に乗り込み、ホテルへ向かった。

内海:「みんな、お疲れさん。英語頑張ったね。」

  マネージャーの内海がみんなをねぎらった。

篤:「緊張したっすよ。内容がセンシティブだし。」

碧央:「俺たちの言いたい事、ちゃんと伝わったかな。」

流星:「伝わったと思うよ。みんな、ちゃんとしゃべれてたよ。」

  流星が親指を立てた。

涼:「流星くんにそう言ってもらえると、安心するよね。」

  和やかな雰囲気になり、みんな笑っていた。

   だが、ホテルに到着すると、思った以上に多くの警備員に誘導され、戸惑っ

  た。黒いスーツのボディーガードたち。1人のメンバーにつき2人ずつのガード

  が付き、車からホテルのエントランスまでギチギチになって歩いた。そこにはフ

  ェローはいないのに。

光輝:「何、この物々しい雰囲気は。」

瑠偉:「却って目立つよね。」

  瑠偉がそう言って苦笑した。ロビーに全員入り、一安心と思った時、

男:「手を上げろ!」

  いきなり男が叫んだ。ロビーに元々いたようで、銃を構え、STEのメンバーに照

  準を合わせている。すると、ガードマンたちが一斉に銃を抜いた。

碧央:「待って!待ってください!ガードマンの方たち、どうか銃を床に置いてくだ

  さい!」

  碧央が叫んだ。そして、ガードマンたちの前に出た。

瑠偉:「碧央くん!」

  さっと、瑠偉が碧央と一緒にガードマンの前へ出て、更に碧央を背中に隠すよう

  にした。

碧央:「早く!銃を置け!」

  碧央が更に叫んだので、静まり返ったロビー。そして、ゆっくりとガードマンた

  ちが銃を床に置いた。

碧央:「ほら、もう誰もあなたを撃ちませんよ。安心でしょう?だから、あなたも銃

  を置いてください。何か僕たちに話があるのでしょう?それなら、銃を持たずに

  話し合いましょうよ。」

  碧央がそう言って、瑠偉を横へ追いやり、ゆっくりと男の方へ歩いて行った。

男:「いや、ダメだ。俺は、これをしないと。俺は・・・。」

  男は明らかに動揺していた。碧央はまっすぐ男の顔を見て、ゆっくりと進んだ。

  瑠偉は迷った。自分が動く事によって、男を刺激して発砲させてしまうかもしれ

  ない。だが、碧央が撃たれたらどうしよう、自分が守りたい、と。

   男は、自分の目の前に来て、うっすら微笑む碧央の顔を見て、涙を浮かべた。

  そして、次の瞬間、自分のこめかみに向けて発砲した。

瑠偉:「碧央くん!」

  銃声がした瞬間、瑠偉は走っていって碧央を捕まえ、碧央の頭を自分の肩口に付

  け、碧央が男を見ないようにした。次の瞬間、ガードマンたちが動き出し、STE

  のメンバーは部屋へ急いだのだった。

   その晩はみな一様に無口だった。惨劇を目の前で見てしまった碧央の事を、特

  にみんなは心配した。だが、碧央は翌朝にはケロッとしていた。碧央にとって、

  これも銃を無くすべきだという事実を明確にする出来事の1つだった。やるべき

  事が分かっている者は強い。


   この事件は、ホテル従業員が撮影していた動画と共にニュースで流れた。男

  は、Gunメーカーの元社員で、何かGunメーカーに弱みを握られていたのではな

  いかと報道されていたが、真相は明らかにされなかった。今のSTEの活動を一番

  快く思っていないのは、Gunメーカーなのである。今の所、娘に勝手に銃を捨て

  られた父親などが新たに銃を購入してくれるのだが、あまりに銃のない社会を訴

  えられると、この先アメリカでも銃規制が厳しくなり、メーカーの存続が危ぶま

  れる事態になるのではないか、と危惧しているのである。

流星:「人を使って俺たちを殺しに来るなんて、悪質もいいところだな。」

涼:「いかにも大企業がやりそうな事だよ。」

大樹:「きっとさ、あの人が俺たちに向かって銃を向けたら、ガードマンたちに打ち

  殺されると思ってたんだろうな。俺たちを実際に殺すというよりは、警告という

  か、俺たちを怖がらせるのが目的だったんじゃないかな。」

光輝:「ひどいね。あの人が可哀そうだよ。」

篤:「あの人、どうして碧央を撃たずに自分を撃ったんだろう。」

涼:「碧央の顔が神々しくて、撃てなかったんじゃないのか?バチが当たりそうだな

  もんな。」

瑠偉:「そんなの・・・分かんないじゃん、相手が悪かったら、撃たれてるよ。ねえ

  碧央くん、あんなの危ないじゃないか!もし本当に撃たれてたらどうするんだ

  よ!また撃たれたいのか?」

碧央:「あんな痛いの、もう嫌だよ。」

  碧央が気楽に笑ってそう言ったので、瑠偉は青筋を立てた。

瑠偉:「俺が!どれだけ心配したか分かってんのか!?もし撃たれて、今度は命まで

  奪われたらどうすんだよ!もう、碧央くんが撃たれるのなんて、まっぴらなんだ

  よ!」

  なんと、瑠偉が碧央の胸倉を掴んで、襲い掛からんばかりの様子で詰め寄った。

  周りで見ていたメンバーは驚き、焦った。

篤:「ま、まあ、瑠偉、落ち着けよ。」

光輝:「瑠偉、分かったから、ね。」

  みんなに手を振りほどかれて、瑠偉は不満げ。そのまま自分の部屋に戻ってしま

  った。

   ここは、全室スイートルームの高級ホテルである。各寝室にはリビングが付い

  ている。寝室は2人ずつで、同じ階にスタッフの部屋も含めた5部屋を取ってあ

  るのだが、いつも7人で何となく過ごしているSTEは、こういう時にも1つの部屋

  に集まっているのだった。今回、ジャンケンによって流星が1人部屋になってい

  たのだが、その流星の部屋の続きの間(リビング)に、全員集まっていたのだっ

  た。

光輝:「瑠偉、ずいぶん怒ってるね。」

涼:「まあ、前回の件があるからな。」

篤:「そうだよな。碧央が足を撃たれた事、ずいぶん気にしてたもんな。」

碧央:「え、そうなの?」

光輝:「そりゃそうでしょうよ。自分だけ逃げたって事、気にしていたんじゃないの

  かな。だから、ずっと碧央に気を遣っていたじゃないか。毎日お見舞いに行った

  り、退院してからは甲斐甲斐しく世話していたし。」

碧央:「あ・・・ああ、そういう事か。」

大樹:「何?そういう事って?」

碧央:「いや、何でもない。」

  碧央はそう言うと、思わずニヤけた口元を手で隠した。なるほど、みんなはこう

  いう風に誤解していたのか。

流星:「碧央、瑠偉にちゃんと謝った方がいいんじゃないか?」

碧央:「え?ああ、そうだね。うん、じゃあ行ってくる。」

  碧央は瑠偉の部屋に向かった。

   瑠偉は大樹と同室だった。碧央は光輝と同室。ここは、瑠偉と一緒がいいなど

  とわがままは言えない。瑠偉と大樹の部屋の前へ行き、ドアをノックした。

碧央:「瑠偉、俺。開けて。」

  少し待つと、瑠偉がドアを開けた。愛しい顔がドアの隙間から覗いて、思わずニ

  ヤける碧央。だが、瑠偉はまだ怒っているようで、にこりともしない。碧央は部

  屋に入り、ドアを閉めた。瑠偉はぷいっとそっぽを向く。

碧央:「瑠偉、怒るなよ。」

  そう言うと、碧央は瑠偉の首に両腕をかけた。そして首を傾け、下から目を覗き

  込む。

瑠偉:「俺が、守れない状況は嫌だ。碧央くんが撃たれるなら、俺が盾になる。」

碧央:「お前が撃たれるのは嫌だよ。」

瑠偉:「碧央くんはもう、1回撃たれてるからダメなの。次は俺でいいの。」

碧央:「どっちも撃たれたくねえよ。でも、そう簡単に世界から銃は無くならないだ

  ろうし、俺たち、思っていた以上に危険な事をしているのかもな。」

瑠偉:「危険な事?」

碧央:「ああいう歌を、アメリカで歌う事。」

瑠偉:「うん、そうかもね。」

碧央:「瑠偉、心配かけてごめん。」

  碧央はそう言うと、瑠偉にそっとキスをした。すると、瑠偉は碧央の腰に腕を回

  した。そして、もう一度キスをしようとしたところで、ガチャっとドアが開い

  た。

   大樹が戻って来たのである。この部屋のカードキーを持っているので、自分で

  勝手に入ってくるのである。

大樹:「あれ、何してんの、碧央?」

碧央:「いや、ちょっとブリッジの練習でもしようかと思ってね。」

  碧央はのけぞって、ソファの背もたれに手をついていた。その腰を、瑠偉が持っ

  ているという状況。

大樹:「ああ、碧央はちょっと硬いからな。やった方がいいよ。」

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