第25話 告白

 碧央:「俺、1つだけやり残したことがある。このままじゃ、後悔する。死にきれ

  ない。」

瑠偉:「碧央くん?」

碧央:「俺、お前の事が・・・好きなんだ。」

瑠偉:「え?それ、どういう・・・?」

碧央:「友情とか、そういうんじゃない。マジで、惚れてるんだ、お前に。」

瑠偉:「え・・・。うそっ。うそー!」

  瑠偉は後ろにひっくり返った。

碧央:「驚きすぎだろ。俺、けっこう分かり安く態度に出してただろ?他のメンバー

  よりもボディタッチ多めだったし、ふざけてほっぺにチューした事だってある

  し。」

瑠偉:「そ、それは、フェローサービスだと思ってたよ。だって、ステージの上と

  か、カメラが回っている時だけだったじゃん。それ以外の時は、全然そういう事

  しないから。」

   ここで説明しておこう。男性アイドルグループのファン心理の1つに、「どっ

  かの女に取られるくらいなら、メンバー同士でくっついて欲しい」というのがあ

  る。特に、顔の美しいメンバー同士が仲良くしているのを見るのは、とても嬉し

  いものなのである。よって、碧央と瑠偉が密着すると、大きな歓声が上がる。彼

  らがファンサービスとして、イチャイチャするのはごく自然な事なのである。

碧央:「それはまあ、フェローサービスにかこつけてたっていうか。」

瑠偉:「分かりにくいよ!」

  そこで、碧央が黙って瑠偉を見た。

瑠偉:「昔・・・高校生の時、碧央くんがうちに来るかって言ってくれたでしょ。あ

  の時に思ったんだ。俺、この人の為なら死ねるって。今でもそう。だから、好き

  なんてレベルじゃない。これはもう、愛だよ。俺は、碧央くんを愛してるよ。」

碧央:「大げさだなぁ。だいたい、うちに来るかって言ったのは、下心があったから

  だし。」

  碧央はそう言いながら、瑠偉に顔を近づけていった。瑠偉は全く動かない。

碧央:「瑠偉、キスしていい?」

瑠偉:「碧央くんが望むなら、どうぞ。」

  瑠偉が穏やかにそう言った。だが、碧央は動きを止めた。そして、離れた。

碧央:「なーんだ、俺、振られたのか。俺が望むならって・・・。そりゃあ、俺の為

  に死ねるくらいなんだから、キスくらい出来るだろうけどさ・・・。」

  最後はごにょごにょと濁しながらそう言った。すると、瑠偉は碧央の首をがしっ

  と掴んだ。碧央が振り向くと、瑠偉は顔を近づけ、唇を重ねた。

   今まで、寸止めなら何十回、いや、もしかしたら何百回とやってきた。ファン

  サービスにかこつけて。だが、本当に唇を重ねたのは、これが初めてだった。

碧央:「瑠偉・・・。」

瑠偉:「碧央くんを振る人なんて、この世界にいるの?」

碧央:「俺を振ることができるのは、お前だけだ。」

瑠偉:「愛してるって言ったでしょ。」

  そうして、もう一度キスをした。

瑠偉:「よし!俄然やる気出た。こうなったら、絶対に死ねないな。」

碧央:「あれ、俺の為に死ねるとか言ってなかったか?」

  碧央が笑って言うと、

瑠偉:「碧央くんの為なら死ねるよ。」

碧央:「お前に死なれたら俺が困るんだよ。たとえ俺が死んでも、お前は生きろ。」

瑠偉:「俺、永遠に片想いだと思っていたから、どっかに自滅願望があったんだと思

  う。でも、両想いだと分かったからには、死ぬわけには行かないぜ。メンバー全

  員、生きてこの島から出る!そうと決まったら、サクサクッと火文字作ろう!」

  瑠偉は、いつも少し達観したところがあって、年下のくせにやけに大人びて見え

  る時があったが、今はすっかりはしゃいで、まるで子供のようだ。碧央は微笑ん

  だ。

碧央:「よし!作ろう!」

  2人はSTEの文字を作っていた場所に戻り、作業を続けた。

瑠偉:「これさ、たぶん火を起こして、次々に移していくのが大変だよね。何か燃え

  やすい物を加えたら早いと思うんだけど。」

  そう言って、ズボンのポケットに手を入れた瑠偉は、指先に触れた物にハッとし

  た。

瑠偉:「これだ!マイク!」

  イヤホンとヘッドマイクがポケットに入っていた。上着は既に脱ぎ捨てていたの

  で、ズボンのポケットに入っていて良かった。

碧央:「マイク?」

瑠偉:「そう。この中身をそれぞれに入れれば、きっと良く燃えるでしょ。」

  瑠偉はそう言うと、石を探し、ヘッドマイクを叩いて壊した。暗いので、何がど

  れだかよく分からないが、適当に部品をそれぞれの組まれた木の上に落とした。

軍人:「いたぞ!」

碧央:「やばい!瑠偉、逃げるぞ!」

軍人:「止まれ!止まらないと撃つぞ!」

  碧央と瑠偉は、手を繋いで走り出した。

   ―パンパン!

瑠偉:「あ!碧央くん!」

  手が離れ、碧央が倒れた。勢いで数歩先まで走って行った瑠偉は、戻って来た。

碧央:「うわっ・・・ぐっ・・・足を撃たれたみたいだ。瑠偉、お前は行け!」

瑠偉:「嫌だよ!」

  そう言って、瑠偉は碧央を起こそうとした。

碧央:「2人とも捕まっちまうよ。そうしたら、あそこに戻されて終わりだ。お前は逃げて、助けを呼べ!火を起こせ!早く!」

  碧央に手を払われて、瑠偉は一瞬迷ったが、

瑠偉:「分かった。絶対に火文字、成功させるから!」

  瑠偉は走り出した。

瑠偉:「大丈夫、みんなもいるし、あいつらだって俺たちのパフォーマンスを見て喜

  んでたし、碧央くんを死なせたりはしない。大丈夫だ、大丈夫。」

  瑠偉は自分に何度もそう言い聞かせ、走り続けた。

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