第26話 交渉決裂
碧央は、仲間の元に戻された。足には包帯が巻かれ、軍人2人に抱えられるよ
うにして檻の中に連れて来られた。
流星:「碧央!どうしたんだよ、足!」
碧央:「撃たれた。」
涼:「え!?大丈夫なのか?」
碧央:「分かんない。すげえ痛い。」
篤:「おい、瑠偉はどうした?あいつも撃たれたのか?!」
碧央:「いや、瑠偉は逃げた。今、火を起こしてSTEの文字を作ろうとしているん
だ。それで空から見つけてもらおうって。」
流星:「空から?どういうことだ?助けは呼べなかったのか?」
碧央:「それがさ、ここ、断崖絶壁に囲まれた小さな孤島なんだよ。無人島なの。」
メンバー:「何だって!」
篤:「そっか、でも、瑠偉は無事なんだな。良かった。」
大樹:「早く日本に戻って、ちゃんとした治療をしてもらわないと。ああ、瑠偉に望
みを託すしかねえのか。」
光輝:「瑠偉なら、きっとやってくれるよ。あの子はしっかりしているもの。」
涼:「そうだな。信じよう。」
碧央:「瑠偉・・・。」
碧央は顔を歪めた。足が痛いのか、瑠偉が心配なのか。メンバーはそれぞれ、思
いを馳せた。
一方、日本では、てんやわんやの大騒ぎだった。植木と内海が政府の対策本部
に呼ばれ、合流していた。
総理大臣:「アメリカの大統領とも話したが、ありゃダメだ。要求に応じればいいと
言いおった。話にならん。」
外務大臣:「総理、どうしましょう。とにかく犯人と交渉したいのですが、連絡手段
がありません。」
植木:「何も指定して来なかったのですか?」
外務大臣:「ええ。こちらが世界に向けて、パリ協定からの脱退や、気候変動枠組み
条約の締結国会議を欠席すること、核禁条約の批准は永遠にしないなどと、発表
する事がやつらの目的ですから、まずは発表しろということなのでしょう。」
内海:「早くしないと、24時間経ってしまいますよ。メンバーの身に何かあったら
どうするんですか。何とかしないと!」
外務大臣:「分かっています。だが、とても要求は呑めません。自衛隊やアメリカ
軍、韓国軍にも協力してもらって、行方を探していますから。」
内海:「でも、もし見つけられない内にタイムリミットになってしまったら!」
内海が激高してきたので、植木が内海の肩を抱いた。内海も我に返り、深呼吸を
して、黙った。
総理大臣:「STEが誘拐されたことは、まだ発表していないのですが、どうやら国民
の間ではSTEが消えたという噂が広まっているようです。」
植木:「それはそうでしょう。コンサート会場にいたファンの方たちが、SNS上で騒
いでいます。また、今夜出るはずだった番組もキャンセルになりましたし、いつ
までも隠せるとは思えません。」
外務大臣:「総理、とにかく会見を開きましょう。STEが誘拐された事を公表し、犯
人グループに対話を呼びかけようじゃありませんか。そうすれば、国際世論も味
方に付きますし、行方の情報も得られるかもしれません。」
総理大臣:「そうだな。確かに、情報を得られるかもしれない。よし、会見を開
く!」
というわけで、日本政府による緊急記者会見が開かれた。
総理大臣:「本日、日本時間の午後4時頃、アイドルグループSave The Earthのメン
バー7人全員が、マレーシアのコンサート会場から拉致されました。」
記者たちから、えっという驚きの声が上がった。
総理大臣:「拉致したのは、アメリカ第一主義を掲げる武装集団Grate Americaで
す。犯行声明が送られてきました。彼らの要求は―――。」
総理大臣の話は続いた。要求に対し、日本政府はそれに応じるわけには行かない
事、犯人グループとの対話の手段がない事など。
総理大臣:「Grate Americaよ、この会見を見たら、我々と対話をして欲しい。もし
STEのメンバーに危害を加えたら、君たちは全世界を敵に回すことになる。まず
はSTEを無事に返しなさい。そのうえで、話し合おうではないか。」
総理大臣はそう締めくくった。
そうして、GAの方でもドタバタがあり、GAは日本政府とテレビ電話を繋い
だ。日本サイドは、これによって相手の居場所が分かると思ったのだが、巧みに
隠されていてすぐには見つけられそうにもなかった。
司令官:「日本政府諸君、会見を見たが、なめてんのかコラ。我々の要求を呑めない
のなら、STEを返すつもりはない。前にも言った通り、24時間に1人ずつ殺して
いく。」
総理大臣:「待ってくれ!STEは無事なんだろうね?既に危害を加えているような
ら、こちらが要求を呑む必要性が無くなる。」
司令官:「そう来たか。仕方ない、見目麗しい彼らをここに連れて来よう。」
ということで、檻の中にいた6人は、カメラの前に連れて来られたのだった。
内海:「あ、碧央!足はどうしたんだ!?」
植木:「6人しかいないじゃないか!瑠偉は、瑠偉はどうした!?」
2人は画面を見て激高した。
流星:「社長、内海さん。すみません、こんなことになって。」
司令官:「黙れ!しゃべっていいとは言っていない。」
司令官がそう言ったので、流星は黙った。
総理大臣:「1人いないじゃないか。どうしたんだね?」
司令官:「1人は殺した。」
総理大臣:「何!まだ24時間経ってはいないじゃないか!約束が違うぞ!」
司令官:「逃げたからだ。しかし、これで本気だという事が分かっただろう。要求を
呑まなければ、また1人殺す。」
総理大臣:「いや、待ちなさい。君たちの要求のうち、締結国会議を欠席する事は、
事と次第によっては可能だ。STEを返してくれれば、それは約束しようじゃない
か。」
司令官:「ダメだ。それだけでは、こいつらを返すわけにはいかない。パリ協定から
の脱退は不可欠だ。そして、核禁条約の方もな。」
結局、話し合いは平行線を辿り、決裂した。
外務大臣:「総理、この際パリ協定からの脱退も一時的に宣言してしまってはどう
でしょうか?STEを取り戻した後、あれは方便だったと言っても、分かってもら
えるのではないですか?世界的に有名なSTEですから、彼らを助けるためだった
という事で。」
総理大臣:「うーむ。かなり恰好悪いが、人の命、いや、日本の宝であるSTEの命が
かかっているわけだしな。それもありかな。」
植木:「いえ、それはダメです。」
総理大臣:「え?・・・意外ですな。あなた方はそうしろとおっしゃるかと思いまし
たが。」
植木:「STEは地球環境を守るのが使命です。やっと世界がまとまって、地球温暖化
の問題に取り組み始めたのです。それに反対する勢力の言いなりになり、彼らを
助けるなんてことは、ありえません。」
植木はそう言いながらも、苦渋に満ちた顔をしていた。内海が、植木の肩に手を
置いた。
内海:「そうだな。やつらの言いなりには絶対になってはいけない。総理、とにかく
早く彼らの居場所を突き止め、救出し、GAを捕らえることを優先してくださ
い。」
総理大臣:「分かりました。全力を尽くします。おい、自衛隊と繋いでくれ!」
総理大臣が防衛大臣に言った。
内海:「瑠偉は生きているよ。」
植木:「ああ、俺もそう思う。」
画面に映ったメンバーたちは、無言ながらも目でサインを送っていた。瑠偉は生
きている、大丈夫だと。
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