第16話 転機

 植木:「実はさ、ベトナムとカンボジアにいる友人たちから、ライブをしに来てく

  れないかと打診があったんだ。冬休みに行ってくれないかな?」

  植木が少し下手(したて)に出ている。

流星:「俺はもちろんいいですよ。みんなも行くよな?」

  メンバーはみな頷いた。

流星:「難民キャンプでやるんですか?それとも都市のライブ会場で?」

植木:「うん、もちろん前者だ。」

瑠偉:「俺たちって、いつも先進国の人に向けた、挑戦的な歌を作ってるじゃない?

  でも、困っている人たちの前で歌うなら、もっとこう、励ますような歌を歌った

  方がいいんじゃないかな?」

大樹:「そうだな。今後もこういう活動が増えるなら、作っておいた方がいいよ

  な。」

光輝:「あとさ、外国に行ったら、その国の言葉で歌ってあげたら、子供なんかも喜

  んでくれるんじゃないかな?」

流星:「OK、OK。確かに光輝の言う通りだ。今までの曲も、せめて英語に翻訳し

  て歌うとか、した方がいいよな。」

  というわけで、新しく曲を作り、歌詞は、英語とベトナム語、カンボジア語をつ

  けることにした。

碧央:「そんなに、覚えられるかな・・・。」

植木:「大丈夫だ、まだ2カ月もある。」

涼:「うわ、2カ月で作詞作曲、振り付けして、英語とベトナム語とカンボジア語の

  歌詞を覚えるの?!」

流星:「できる、できる!俺たちならできる!」

メンバー:「よっしゃー!」

  若干、無理に自分たちを鼓舞している感はあるが、忙しいのに慣れて来たメンバ

  ーたちであった。

   新しい曲の歌詞は以下である。


― 僕たちはつながっている

  この地球という1つの星の上で、一緒に生きている

  辛い事も悲しい事も みんなで分け合おう

  楽しい事も嬉しい事も みんなで分け合おう

  空も 水も 空気も みんなで分け合おう


  僕の為に笑ってよ

  君の為に笑うよ

  また、会いに行くよ

  だから 待っていてね


「Meet Again(ミート・アゲイン~また会おう~)」


   少しスローな曲で、歌詞も少なめ。慣れない外国語で歌うので、ラップもな

  し。覚えやすくした。ダンスはばっちりつけた。ダンスは万国共通の言語であ

  る、とSTEのメンバーは今回強く感じたのだった。


   練習に明け暮れる毎日。

大樹:「ダメダメ!コーラスが合ってない!」

  歌の練習をしていると、大樹先生がとても厳しい。

大樹:「スローな曲は、ハーモニーが合ってないと最悪だ。俺たちはプロなんだか

  ら、妥協できないぞ。」

涼:「ごもっとも。で、誰と誰が合ってないって?」

大樹:「涼と碧央がハモるところ。2人で壁に向かって練習!」

涼、碧央:「はーい。」

  2人はレッスン場の端っこに行って、壁に向かって特訓した。

   一方、振り付けに関しては、涼先生が厳しい。

涼:「合ってない!篤くん、ここの時、腕の角度が合ってないよ。」

篤:「腕の角度?!わ、分かった。気を付ける。」

涼:「鏡見てー。そんで、本番は鏡がないんだから、鏡で確認したら、後は見なくても同じように出来るようにねー。行くよー、はいワンツースリーフォー、あー、流星くん、ここ、ワンテンポ遅れてるよー!」

流星:「はい、すみません!」


   レッスンを終え、みんなクタクタになって家に帰る。碧央と瑠偉がお互いを支

  えるようにして、肩を組んで歩いていると、光輝が後ろから2人の肩をガシッと

  抱いた。

光輝:「いいなあ、2人で一緒に帰ってさあ。楽しそう。ねえ、家でいつも何してる

  の?」

瑠偉:「え?家で?・・・歌の練習と、振り付けの復習と、学校の勉強。」

光輝:「ふ・・・はは。僕と同じだ。」


   2カ月間の製作、練習、練習、練習を重ね、STEはベトナムへ飛んだ。ベトナ

  ム語で歌うと、子供たちが目を輝かせて聴いてくれた。挨拶などもベトナム語で

  頑張った。新聞やテレビの取材も入った。次にカンボジアへも入り、同様にライ

  ブを披露した。新曲は、英語バージョンをネット上で売り出した。今回、英語で

  ミュージックビデオも作成し、ネット上に公開した。

   すると、アジア各国でのアクセス数が激増した。日本での知名度よりも、アジ

  アでの知名度の方が上回った。日本に帰国してからも、アジアからのライブのお

  誘いが絶えなかった。

   そこで、週末を利用してアジアツアーを行う事にした。韓国、台湾、タイ、フ

  ィリピン、インドネシアと、次々に行った。今まで作った歌で、英語に翻訳した

  ものもあったが、それでは間に合わず、日本語のまま披露した歌もあったが、フ

  ァンたちは日本語の歌もサビくらいは覚えてくれていて、一緒に歌ってくれるの

  だった。

涼:「俺、めっちゃ感動したよー。一緒に歌ってくれるなんて!フェローのみんなが

  さぁ。」

大樹:「フェローのみんな?ああ、なるほど。ファンは仲間だもんな。フェロー

  だ。」

篤:「フェロー、愛してるよー!」

大樹:「ここで言ってどうするよ。」

  楽屋である。

光輝:「僕も感動したー!フェロー、アイラブユー!」

  そうして、各国のライブは、フェローによってネット上に拡散された。すると、

  アジアにとどまらず、ヨーロッパやアメリカにもフェローの輪が広がっていっ

  た。

フェロー:「とにかくダンスがすごいんです!」

フェロー:「歌が上手い!ハーモニーが素敵!」

フェロー:「顔が可愛い!」

フェロー:「歌詞が素晴らしいんです!彼らは地球を救うと思います!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る