第8話 初披露
STEのメンバーは、次の週末にも被災地を訪れた。お揃いの服も買ってもらっ
て、その上に例のTシャツを着る。そろそろもう1枚Tシャツを用意した方が良
さそうである。
職員:「ああ、どうも。こちらへどうぞ。」
避難所になっている中学校の体育館に行くと、ステージの方へ通された。
メンバー:「こんにちはー!」
挨拶も忘れない。だが、みんな内心はヒヤヒヤのドキドキである。彼らが登場す
ると、避難している人たちが、拍手をして迎えてくれて、みんなちょっとホッと
したのだった。
流星:「さあ、頑張ろう。もしどっかでミスっても、そのまま続けような。」
流星が小さい声でみんなに言った。みんな、小さく頷いた。
そして、音楽が流れ、歌とダンスを披露した。何度も何度も、ぴったり揃うま
で練習したダンス。大方上手く行った。ただ、避難している人たちは、ほとんど
がお年寄り。後は妊婦さんや小さい子どもとそのお母さんくらい。大歓声という
わけには行かなかった。だが、みなさんニコニコして拍手をしてくれた。
碧央:「俺、けっこう今満足なんだけど。」
パフォーマンスを終えて、まず碧央がそう言った。
光輝:「僕も。」
光輝もそう言って、ニコッと笑った。すると、
職員:「ありがとうございました。あの、出来ればまた来週にでも、別の避難所でお
願いできませんか?」
と、言われた。
植木:「はい、喜んで。」
帰りの車の中で、SNSをチェックすると、いくつかSTEの動画が出ていた。み
んなは「わーぉ!」と言って興奮した。
篤:「俺、ちょっとミスっちゃったんだよなー。」
涼:「こうやって残っていっちゃうんだよね。怖いねー。」
碧央:「なんか、まるで芸能人みたいじゃない?」
光輝:「そうだよねー、芸能人になった気分だよねー。」
植木と内海はこっそり笑った。だから、もうアイドルだって言ってるのに。
翌週、前回とは別の避難所へ行くと、
女子:「キャー!来たー!」
おばちゃん:「待ってたわよー!」
思った以上に歓待された。メンバーはびっくり。
篤:「俺たちさ、そろそろメイクとかした方がよくないか?」
篤がこっそりそう言って笑った。
今回もShoutを披露した。たくさんの中学生くらいの女子たちが見に来てい
て、動画などを撮られた。更に、自己紹介も求められた。実はこの1週間、その
練習もしていたのだ。
流星:「せーの!」
メンバー:「こんにちは!Save The Earthです!」
揃って言えた。実は、この1週間の間に、芸名論争があった。
植木:「君たちのニックネームは、マーク先生がつけてくれたやつでいいんじゃない
か?」
流星:「ああ、あのムーンとかウッドとかですか?」
篤:「えー、俺ファイヤーなんて嫌だよ。」
瑠偉:「ファイヤー篤ってのは?かっこいいじゃん。」
篤:「プロレスラーみたいじゃん!」
涼:「俺なんてウォーターだよ。かっこ悪いよ。」
光輝:「僕も、ゴールドなんて嫌だー!碧央はクレイだからいいよね。かっこいい
よ。」
碧央:「うん。クレイでいい。」
瑠偉:「僕もサンでいい。」
植木:「まあ、今後海外向けには英語名の方がいいと思うんだけどな。でも、君たち
が嫌なら、本名でもいいけど。」
議論は紛糾したが、結局、
流星:「ムーンこと、月島流星、18歳です。」
篤:「ファイヤーこと、不知火篤、18歳です。」
涼:「ウォーターこと、水沢涼、17歳です。」
大樹:「ウッドこと、木崎大樹、17歳です。」
光輝:「ゴールドこと、金森光輝、16歳です。」
碧央:「クレイこと、土橋碧央、16歳です。」
瑠偉:「サンこと、日野瑠偉、15歳です。」
と、自己紹介したのだった。
パフォーマンスをすると、やはり間奏のところでおぉー!となって、歌い終わ
ると拍手喝采を浴びた。そして、その後に周辺の住宅のゴミの片付けを手伝っ
た。だいぶ町も片付いてきたので、この町に来るのはこれを最後にする事にし
た。
篤:「あー!何これ、ファイヤー篤かっこいい、だって。やっぱりプロレスラーみた
いだよー。」
帰りの車で、SNSをチェックしていた篤が嘆いた。みんなが笑う。そしてそれぞ
れチェックする。
碧央:「・・・ボランティア戦隊曜日レンジャー?名前がダサすぎ・・・だって。」
光輝:「こっちには、いい子ちゃんぶってる奴らって書いてある。僕たちの写真付き
で。」
植木:「世の中には、いろんな事を言う人がいる。良い事でも、必ず批判されるん
だ。気にするな。」
流星:「そうだよ。こんなにたくさん、かっこよかったとか、手伝ってくれて助かっ
たとか、いい事いっぱい書いてあるぞ。」
碧央:「うん、そうだよね。」
内海:「世の中の声は、批判する方が大きくなりがちだ。批判する内容を見たら、必
ずその後に肯定している投稿も見るように。バランスを取るんだよ。」
運転しながら、内海が諭した。
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