第9話 受験

   秋も深まり、流星と篤の大学の推薦が決まった。そろそろ、瑠偉の高校進学の

  事も考えなくてはならない。

   瑠偉は、それでも毎日練習に来た。だが、勉強道具も持ってきた。

碧央:「あれ、瑠偉、宿題か?」

瑠偉:「うん。来週テストがあって、その日に提出なんだ。」

光輝:「お前、テスト前なのにここに来ていていいのか?って、僕も来てるけど。あ

  はは。」

瑠偉:「碧央くん、ここ教えて。」

碧央:「ん?どれどれ?あ、英語?あー、英語なら流星くんに教えてもらった方がい

  いよ。」

  碧央は流星に水を向けた。

流星:「なになに?」

瑠偉:「流星くん、これ、分からないんだけど、教えて。」

  瑠偉が問題集を持って流星のところへいくと、流星はさっと目を通し、ぱぱっと

  教えてくれた。一同、尊敬のまなざし。

瑠偉:「じゃあ、じゃあ、こっちのも教えて。」

  瑠偉は、今度は数学の問題集を持って流星のところへ行った。

流星:「どれどれ?・・・ああ、俺文系なんだよねー。篤は?」

篤:「は?俺は、サッカーで高校入った口だから、ダメダメ。」

  篤は手でバッテンを作った。

大樹:「瑠偉、見せてみな。・・・ああ、これはこうやって・・・。」

  大樹が、解き方を瑠偉に教えてあげた。

碧央:「大樹くんって、理数系なんだ?だから機械に強いんだね。」

  一同、納得の頷き。

流星:「そろそろさ、2曲目を作り始めたらどうかな。俺、作詞の方を始めておこう

  か。」

篤:「あれだな、瑠偉は受験だから、ボランティアには同行しないかもしれないよ

  な。そうしたら、瑠偉が1人で歌うところを無くしておいた方がいいのかも

  よ。」

大樹:「いや、メインボーカルは瑠偉だよ。今、俺たちの中で一番歌が上手いのは、

  瑠偉だ。」

篤:「え?そうなの?・・・まあ、そうだな。」

流星:「若い時からヴォイストレーニングを始めると、上手くなるのかな。」

光輝:「元々音楽の才能があったんじゃない?ギターも独学で弾けちゃうくらいだ

  し。」

碧央:「才能もあるだろうけど、こいつはすごく努力してんだよ。真面目だもん。」

  これまた、一同納得の頷き。

瑠偉:「え、そんな事ないよ。ないない。」

  瑠偉は小さくなって言った。

涼:「さあ、次の歌はどんな内容にする?」

流星:「そうだな、1曲目はいろいろ取り入れた気がするから、今度はもっと問題を

  絞って行きたいな。ゴミを減らす事なのか、水を大事にする事なのか、森を守ろ

  うって事なのか。」

瑠偉:「僕思うんだけど・・・前に家庭科でマイ箸入れを作ったんだ。割り箸を使わ

  ずに、マイ箸を持ち歩こうっていう事で。木を伐りすぎるのが地球の環境に良く

  ないんでしょ?ところがさ、最近海洋プラスチック問題が目立ってきたらさ、ビ

  ニール袋はダメで、紙袋ならいい、みたいなさ。プラスチックコップじゃなくて

  紙コップにしようとか?なんか、プラスチックがダメなら紙をたくさん使おうっ

  てなっちゃってるじゃん。でも、紙をたくさん使ったら、やっぱり木がたくさん

  伐採されちゃうでしょ?紙もプラスチックも、使い捨てを無くそうとしなきゃ

  さ。」

流星:「なるほど、なるほど。瑠偉の言いたいことはわかるよ。今、ビニール製の買

  い物袋は有料にしなければならないけど、紙袋は無料で配布してもいいんだよ

  な。店舗によっては有料にしているけれど。確かに、割り箸の話はどっか行っち

  ゃったよなー。よし、その切り口でいこう。」

  メンバーは、割り箸を突破口にして、2曲目の作成にとりかかった。


   新曲の作成を年上のメンバーたちに任せて、瑠偉は少しの間レッスンをお休み

  し、2学期最後のテスト勉強を頑張った。芸能科のある私立高校を目指してお

  り、推薦を取るためには2学期最後の成績が重要だった。何とかテスト勉強を頑

  張って、その規定の水準をクリアすることができた。


   一方、デビュー曲の「Shout」は、ウェブ上で売り出した。まあ、それはあま

  り売れていない。けれども、ダンスの動画を配信したら、そちらのアクセス数は

  徐々に伸びて行った。被災地での活躍も、地方局で少し取り上げられた。けれど

  も、まだまだ収入が得られるような状態ではなかった。

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