第3話 結成当時
光輝:「どのくらい経ったかな?」
両膝を抱えたまま、光輝がポツンと言った。
篤:「分かんねえよ。時計持ってねえし。」
流星:「ステージに出るところだったもんな。時計どころか財布もスマホも何も持っ
てないよ。」
みんなはため息をついた。誰一人、ポケットに何かを入れている者はいなかっ
た。激しいダンスを踊るわけだし、途中で素早く衣装を替えるので、いちいちポ
ケットに所持品を入れているわけがない。イヤホンとヘッドマイクは装着してい
たが、既に遠く離れてしまっているので、通信不可能だ。
涼:「でも、みんな一緒で良かった。俺独りだったら不安なんてもんじゃなかった
よ。」
涼が少し微笑んで言った。
光輝:「そうだよね。もしドッキリだったとしても、7人で騙されるならいいよ
ね。」
STEは、グループ結成当時に誓い合った約束事がある。それは、決してお互いを
騙さない事。誰に、どんなにお願いされようと、メンバー内でドッキリを仕掛け
るのもNG。そうしないと、お互いを信頼できないから。言い合いをしたり、時
には取っ組み合いの喧嘩をした事もあるが、騙したり、欺いたりした事はない。
みな、それだけは胸を張って言えた。だから、お互いを信じ合っていた。
碧央:「最近忙しかったから、こうやって7人で集まって話すのって、久しぶりだよ
ね。」
大樹:「そうだな。」
流星:「結成当時はよく話し合ったよなあ。口喧嘩はしょっちゅうだったし。はは
は。」
瑠偉:「でも、最後はいつも仲直りしてたじゃん。俺、ハラハラしてたけど、最後に
ハグし合ってるのを見て、いつも安心してたんだよ。」
篤:「へえ、瑠偉、ハラハラしてたんだ。」
瑠偉:「まだ子供だったからね。」
碧央:「結成当時かあ、懐かしいなあ。」
7人の頭の中は、7年前へと飛んだ。
7年前、STEを作った立役者は、社長の植木直哉(うえき なおや)である。
植木は学生時代、青年海外協力隊に参加し、帰国して大学を卒業すると、NPO
法人に就職。様々なボランティア活動をした。当時はオゾン層の破壊や砂漠の拡
大、エルニーニョ現象などが問題になり始めた頃だった。植木は、環境破壊と地
球温暖化、それに伴う人々の飢餓や疫病の蔓延など、多くの課題を憂いていた。
その後も海洋プラスチック問題や山火事、水害の多発など、問題は山積み。それ
なのに・・・。
植木:「先進国はこの地球の問題に無頓着過ぎる!とくにこの日本だ!日本人の意識
は低すぎる!」
と、憤りを禁じ得なかった。
そこで、同志である内海彰吾(うつみ しょうご)と相談し合った。
植木:「どうしたら、日本人の意識を高められるだろう。」
内海:「まずは、問題に気づいてもらう事だろうな。」
植木:「よく、アメリカの有名俳優なんかがボランティア活動をすると、話題にはな
るよな。だが、日本の著名人は国内の被災地には出向いても、もっとグローバル
な環境問題にまでは触れてくれない。」
内海:「若い人たちに影響力のある人が、発信してくれるといいんだけどなあ。」
内海が腕組みして考えていると、植木がハッとして、
植木:「そうだ、アイドルだよ!若者に人気のあるアイドルが発信すれば、若者が耳
を傾けるし、それ以上に、行動に移してくれる!」
内海:「だが、どこのアイドルに頼むんだ?何をしてもらうにも金がかかるぞ。」
当然、無理だ。内海は暗にそう言った。
植木:「だから、アイドルを作っちまえばいいんだよ。俺たちが、これから作るん
だ。」
植木はそう言って笑ったが、内海はぽかんとした顔で、ただその顔を見たのだっ
た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます