第85話 戦いの後には

 竜種との戦いに勝利したブレイブの戦いを見守っていた聖銀のメンバー。

 ザックとランドは酒を飲みながらこの戦いを楽しみ、エンベルトとパウルはお菓子を食べながら最悪の場合に備えて待機していた。


 竜種にトドメを刺した事でブレイブの元へと集まる聖銀メンバーは、勝率が低かったにも関わらず勝利を掴んだ事に嬉しそうな表情を見せる。


「随分とドタバタした戦いだったが格上相手によく戦ったな。お前らは俺の誇れる冒険者仲間だぜ」


「あざっすザックさん。俺は最高の仲間に恵まれて幸せもんっすよ」


 ニカっと笑うマリオに「そうだな」と笑顔で返すザック。

 悩めるマリオはどこへやら、その表情は清々しさを感じさせている。


「ソーニャは体力付けといてよかったろ?」


「うんっ!稽古もつけてほしかったけど!」


 走り込みだけをさせられたソーニャの不満は大きかったはずだが、戦いが終わってみれば体力の限界まで消耗する結果となっていたのだ。

 もし仮に走り込みで体力を付けていなければ途中で倒れる事になっていただろう。

 今後も定期的に走ろうと考えるソーニャだった。


「ジェラルドはなかなかよくやったと思う。ステータス不足はわかってた事だけど、それでもよく耐えたね。ラウンローヤの君が好きそうな店を教えてあげるよ」


「ありがとうございます!竜種の痛みとか全然良くなかったんで助かります!」


「うん、キモい」と笑顔を向けるエンベルトは悪気があるのかないのかは不明だ。


「レナータは気絶してしまったな。今朝の件が無ければ今も意識はあっただろうに……」


 今朝ギルドで発動した呪闇により、自身の体力とマリオ、ジェラルドが気を失う程の呪いに無駄にスキルを消費してしまっているのだ。

 感情任せにとんでもないミスとも言える。

 しかしここに来るまでの道中での戦いも含め、パーティーがもう少し安定すればこの日程消耗する事もまずないだろう。

 呪闇による悪ふざけは今後も避けるべきではあるのだが、ブレイブを見ていればまた同じような事が起こるかもしれないとランドは予想する。


 聖銀からそれぞれ労いの言葉を掛けられたブレイブは、今夜は睡眠薬を飲んでから寝るようにと人数分を渡された。

 ブレイブはこれまでレナータの回復スキルに頼っていた為知る事はなかったのだが、この日多くの回復薬を飲んだ事で過剰摂取気味となり、回復薬の気付作用が強く働く為今夜は寝付く事ができないだろうと説明された。

 気を失ったままのレナータに改めて感謝の気持ちを抱くブレイブだった。




 少し休んで聖銀から習いながら竜種の魔核を回収し、保存石を複数埋め込んで死体の処理を終えた。


 レナータはまだ意識を取り戻す事はなく、スキルの限界まで発動したとなればあと数時程は目を覚まさないだろう。

 馬車を停めてある場所まで運ぶ必要があるが、レナータを運ぶのは最も安全そうなランドに頼む事にした。

 ジェラルドが是非とも自分が運びたいと言ってきたものの、マリオとソーニャ、エンベルトがこれを断固拒否。

 ランドはレナータに弓を教えてくれた事や、最年長である事、そして聖銀でも最も常識人な気がするとソーニャからお願いした。

 しゃがみ込んでイジけたジェラルドの尻をソーニャが蹴ると納得してくれたが……


 この日の夜は聖銀が見張りをする為ブレイブは休んでてもいいとの事で、先輩方に感謝をしつつゆっくりと体を休める事にした。

 帰り道にはまた行きと同じように襲い来るモンスターと戦い続ける必要もある為、冒険はまだ終わったわけではないのだ。

 しっかりと休んで体調を整えてから明日に臨むべきだろう。




 ◇◇◇




「おお、本当に竜種を殺ってくるとはな。聖銀は……手を出してないのか。ブレイブは下位竜を倒せるって事で受け付けていいんだな?」


 ラウンローヤギルド受付のおっさん【アウジリオ】が聖銀に視線を向けると、ザックはコクリと頷いた。

 ちなみにこのアウジリオはギルドの受付を担当しているが、街に危険があった場合に冒険者の指揮をとる戦士長になるとの事。

 実力もソロで竜種と戦えるとの事で、聖銀のメンバーと同等近い強さを持つそうだ。

 荒くれ者の多いこのギルドではアウジリオに喧嘩を売る者はおらず、もし新参者がアウジリオに生意気な口を聞こうものならこの街の冒険者に半殺しにされる事もあるという。

 サガがギルドにいれば先に絡んでいく事からそれを防ぐ事もできるのだが、討伐に出ている間に来た新人が時々道端に捨てられている事があるそうだ。

 話はそれたが、ブレイブが竜種を倒せるとギルドが受け付けるとすれば、今後竜害が起こった場合に国から討伐依頼が斡旋されるという事だ。

 マリオはブレイブのメンバーに振り返り、誰もが頷いたのを確認してから「お願いします」とアウジリオに返答した。


 時間はすでに昼六の時を過ぎている為、竜種の回収は明日となったが、帰り道でも相当数の戦闘を行って来た為疲れも溜まっている。

 この日は宿でゆっくりと休んでまた明日に臨むべきだろう。


「じゃあマリオ。俺達は明日また王都に戻るんだけどよ。お前らはもう好きにしていいぜ」


「明日行っちゃうんすか……寂しいっすね。俺達はまだ今後の事決めてないんで今夜みんなで話してみるつもりっス」


 元々今回の竜種討伐にはディーノや他のSS級パーティーでも誘うつもりだったのだが、将来の期待度からたまたまブレイブに挑ませる事となっただけである。

 ブレイブとは話をするだけにしていれば今もまだSS級パーティーを目指して闇雲に討伐依頼を受注していた事だろう。


「おう。ラウンローヤは強力な個体が溢れてるからな。ここで鍛えるもよし、王都で割のいいクエストを受けるもよし。好きなようにするといい。お前らは今後大きく伸びていく事になると思うからな、頑張れよ」


「はい!あざっす!聖銀のあとを追って最強のパーティー目指すっす!」


 マリオの言葉に「期待してる」と返したザックは拳を突き出して去って行き、ザックに続いて出て行く聖銀に頭を下げたブレイブ。

 数日間とはいえブレイブを大きく成長させてくれた事に感謝する。




 聖銀が去ったあと、やはりブレイブを待っていたチェザリオが近付いてくる。


「本当に竜種を狩っちまうとは驚いたぜ。お前らの冒険の話を聞かせてくれや」


「おっさん、ありがとな。これのおかげでギリギリ一連増やせるからすっげー助かった。今日は奢らせてくれよな」


 竜種討伐に向かう前にチェザリオからもらった魔核をマリオは腕に括り付けており、それを指差しながらニッと笑顔を向けてやる。


「そんじゃ美味い酒を頼むぜ。俺は……その後いい店連れてってやるよ、ガハハ」


 この発言に肩を組んで「おっさん最高!」と笑顔を向けるマリオと、エンベルトから店を紹介してもらってない事を思い出して駆け出したジェラルド。

 これに冷たい視線を向けたレナータとソーニャはいつもの事かとため息をこぼした。




 夜の打ち上げではブレイブの戦いを振り返りながら竜種の凄まじさを語り、スピード感のある戦いやそれぞれの考え方、心構えなどを語りながら大いに盛り上がった。

 そしてチェザリオからは魔境の話を聞きつつ、今後のブレイブの活動について話し合う。


 王都に戻ってこれまで通りの楽しい生活も悪くはないのだが、今伸び盛りと言われた自分達であれば厳しい環境である魔境で少し鍛えた方がいいだろうと一月を目安に留まる事を決めた。

 気持ちとしては王都に戻り次第ステータスを測定してSS級パーティーに返り咲くのが望ましく、これからの一月を必死で生き抜こうと心に誓うブレイブの四人。

 先輩冒険者であるサガもSS級パーティーであり、仲良くなった事から様々な助言や訓練にも付き合ってくれるとの事で、今後も友好な関係を築けていけそうだ。


 料理や酒を楽しみ腹も膨れて飲み会にも満足すると、ここで今夜はお開きとなる。

 マリオはチェザリオ達サガと一緒に煌びやかな盛り場へと消えて行き、ジェラルドはまた別行動で盛り場の横道へとそれて行く。


「まったく、男共は……でも私も人肌恋しいかな……ねぇソーニャ、もしよかったら今夜一緒に寝ない?」


「レナってもしかして女が好きなの?この前私の体いっぱい触ってたでしょ」


 先日の走り込みの後に疲れきっていたソーニャはレナータの部屋に泊めてもらったのだが、夜中に胸や尻をレナータに触られている事に気付いていた。


「うえぇっ!?き、気付いて、た!?そ、その……女が好きと言うか……可愛い男が好きなんだけど……」


「ブレイブは変態しかいないのか!まともなの私だけじゃんっ!」


 マリオは普通に女好きで変態と呼んでいいのか不明だが、ジェラルドはヤバめの変態であり、レナータは同性愛者であるとすればこの世界において変態という扱いである。

 しかしやや中性的な見た目であるレナータの好みは女性のように可愛らしい男であり、同性愛者というわけでもないのだが。


「うぅ……ご、ごめん……ソーニャが可愛くてつい出来心で……」


「ふ、ふ〜ん……でも、まあ、私もレナ好きだし?イチャイチャするのも……まあいいかな。彼氏いるわけでもないし……」


「ええ!?本当に!?じゃあ早く宿に戻ろう!シャワー浴びて一緒に寝よ!」


「う、うん……優しくしてね」


 ソーニャの手を取って宿へと駆け出したレナータ。


 レナータの部屋でシャワーを浴びた二人はほんの軽い気持ちで一緒に寝る事にしたのだが。

 ここしばらく戦いに明け暮れていた為か、少しだけイチャつくつもりだったはずが、唇を重ねて舌を絡めると思った以上に興奮し、息を荒くして抱きしめ合う。

 ソーニャが服を脱ぐとレナータも裸になって体を重ね、女同士でなかなかに激しい夜を過ごす事となってしまった。

 互いに恋人ができるまでと前置きし、この日からレナータとソーニャは一緒の部屋をとる事にしたようだ。

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