第84話 勝利を目指して
左目の痛みに悶え苦しんだ竜種が唸り声をあげて立ち上がると、咆哮をあげてブレイブを威嚇し、その直後に口内から炎のブレスを吐き出した。
「うおぉぉぉお!熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ!!死んでしまうぅっ!!」
叫んではいるものの、ジェラルドは屈みながら盾を地面に突き立ててプロテクションを発動し、背後にいるレナータとマリオへも吹き掛けられる炎熱を抑え込む。
ソーニャはその俊敏からブレスを回避しており、早く止めようと距離を詰めるべく駆け出した。
レナータは以前のジェラルドのプロテクションとは違う炎熱の相殺に驚きつつ、いつでも回復スキルを発動できるように待機しているのだがその必要はなさそうだ。
それはジェラルドはエンベルトの雷撃こそある程度の相殺しかする事ができなかったものの、直接触れての雷撃ではなく、距離が離れた位置にいる竜種からの炎のブレスとなれば八割以上もの炎熱を相殺する事ができるようになっていたのだ。
まだガーディアンとしてのステータスこそ高くはないものの、プロテクションでの魔法スキル相殺が可能となればバランタイン王国でも指折りの盾職となるのではないだろうか。
先に飲んでいた回復薬の効果もあり、レナータの回復スキル発動の必要がないとすればやる事は一つ。
ブレスが途切れ次第反撃に移る準備を整える。
レナータは矢を番え、左目はマリオが潰した為今度は右目を狙う。
マリオは右手で逆手に、左手で順手になるよう剣を構えてその時を待つ。
強烈な炎のブレスにジェラルドがそう長くは耐えられないだろうと駆け出していたソーニャは、潰された左目方向から回り込んでエアレイドを発動。
顎下から抜けるようにして跳躍し、ブレスを吐き出し隙だらけの喉を斬り裂いた。
ブレスが途切れた直後にジェラルドの右側から駆け出したマリオと、頭上から弓矢を構えたレナータ。
レナータからの矢が右目に向かうと、それを頭を下げる事で直撃を避けた竜種。
しかし発動した呪闇が視界を覆い、それを払い除けようと顔を拭うも呪闇は解けない。
一度目よりも距離が近い事からレナータに掛かる呪いダメージは大きいもので、回復スキルによって相殺するもスキル発動回数が削られていく事になる。
竜種にも呪いダメージはあるはずなのだが、体が大きい事や人間を遥かに超越する体力からそれ程効果は見られない。
ただ目の前にある呪闇が目障りで仕方がないようだ。
呪闇を払おうと足掻く竜種へと距離を詰めたマリオは、前屈みになって下げいる竜種の頭へ向かってスラッシュを発動し、鼻先への最大連撃数である四連撃。
鱗を複数枚引き剥がして最後の一撃が表皮を深く斬り付けた。
鼻先に傷を負った事でその痛みから立ち上がった竜種。
マリオを叩き潰そうと怒りのままに左前足を地面に振り下ろす。
防御が得意ではないマリオは防ぐ事はできず身構えたのだが、俊速で駆け回るソーニャがマリオに飛びついてこれを回避。
呪闇により視界の悪い竜種はそのまま何度も地面を叩き付けるも、潰した感触がない事から土煙の上がる地面に向かってブレスを吹き荒らす。
ある程度距離を取っていた為ブレスを浴びる事はなかったものの、近距離で待機していれば直撃を免れる事はできなかっただろう。
危機に陥る度に暴れ回る事から一気にたたみ込む事は難しそうだ。
ブレスが途切れる前には呪属性魔法スキルの発動限界をむかえて呪闇が消え失せ、視界の戻った竜種はマリオとソーニャからは一旦注意を逸らして、目に付くジェラルドとレナータに向かって飛び掛かる。
距離を詰めた竜種の右前足の振り払いによりジェラルドの体は宙を舞い、レナータを巻き込んで遥か後方へと弾き飛ばされた。
追い討ちにと足を屈めた竜種に左右真横から飛び出したソーニャとマリオ。
それを跳躍して躱した竜種は翼を広げて空を舞う。
竜種が狙うはジェラルドとレナータであり、巨大な翼で滑空されれば恐ろしい程の速度で移動が可能だ。
「マリオごめん!」とソーニャはマリオを足場にして竜種を追おうとした事にすぐさま気が付いたマリオは、足を向けたソーニャに合わせて右足による回し蹴り。
ソーニャの足裏を蹴り込む事で一気に加速した。
竜種は滑空をやめて上空から自由落下しながらジェラルドへと右前足を振り下ろす。
地面を転げた事で状況把握できていないジェラルドは身を起こそうと腕に力を加えたところで巨大な影が全身を覆う。
頭上から飛び掛かった竜種の右前足に、地面に倒れ込みながら盾で受け止めるジェラルド。
地面を抉り込むような一撃はジェラルドのステータスでは耐えられるような衝撃ではなく、左上腕からは骨の砕ける音が鳴り響く。
しかし竜種の攻撃はそれだけでは終わらず、ジェラルドから前足を離すと炎のブレスを吐き出した。
すでにプロテクションを発動している為すぐさま焼き尽くされる事はないものの、逃げ場のないこの状況ではジェラルドが熱に耐え切れない。
レナータは弾き飛ばされた衝撃で弓を落としてしまい、すぐさま攻撃する事はできずに弓を拾いに駆け出した。
そしてマリオの蹴りによる加速を得たソーニャはエアレイドを発動して跳躍し、放物線を描きながら竜種の背中へと向かい、加速度のまま翼の付け根部分へとダガーを突き立てた。
ジェラルドにトドメを刺すつもりだった竜種も突然の急所への攻撃にブレスを途切れさせ、叫び声をあげながらその激痛に地面へと倒れ込む。
竜種から飛び降りたソーニャは地面に着地してジェラルドへと駆け寄り、すぐさま上級回復薬を掛けてから竜種へと振り返る。
全身に火傷を負ってはいるものの、回復薬の効果とレナータのスキルがあれば戦線復帰も可能だろう。
ここで追いついたマリオが起きあがろうとする竜種へと斬り掛かり、腹部への三連撃を見舞うと振り下ろされる左前足を躱し、右後足を足場にして跳躍、突き刺さったままのソーニャのダガーを振り抜くようにして引き抜いた。
竜種といえども関節の付け根部分は弱く、痛みから地面に倒れ込んで尻尾をマリオに叩き付ける。
それを自身の剣とソーニャのダガーで受けたマリオは後方へと弾き飛ばされながらも着地し、走り出していたソーニャと並走しながらダガーを返す。
今はジェラルドが倒れたままであり、レナータの回復が必要である事からマリオとソーニャで時間稼ぎをする必要がある。
マリオは地上から足を攻め、ソーニャは急所を狙って竜種の体を駆け回る。
弓を拾ったレナータはマリオとソーニャの状況から呪闇は必要ないと判断し、地面に埋まるように倒れているジェラルドへと向かって駆け出した。
痛みに気を失わないよう耐え続けたジェラルドにすぐさま回復スキルを発動し、スキルの発動限界が近いのか目眩を覚えつつもジェラルドの怪我を癒していく。
マリオの斬撃により左後足に多くの傷を負った竜種は動きが鈍り、急所を守りつつもソーニャに翻弄され続けた事で集中力が乱れた頃。
回復を終えたジェラルドが立ち上がり、フラフラな状態のレナータもその背後に立って弓矢を番える。
マリオもソーニャも体力的に限界が近く、ジェラルドの回復を確認すると仕切り直そうと一旦二人の元へと退避。
翻弄され続けた竜種はブレスを吐き散らしながら怒りの咆哮をあげ、ブレイブを視界にとらえると地面を踏みしめながらジェラルドへと向かって突進する。
右脇下と左後足の傷からそれ程速度が乗る事はなく、ジェラルドに向けて左前足を振り下ろすとそれをプロテクションを発動して受け止めるジェラルド。
傷が癒えてはいるものの、痛みが完全には引けていない事から苦悶の表情を浮かべるも、ジェラルドはここが正念場とばかりに気合いを込めて耐え忍ぶ。
竜種が動きを止めた瞬間にレナータが右目目掛けて矢を放ち、その眼球内で呪闇を発動すると、脳が近い事からか地面に伏すようにして崩れ落ちる竜種。
しかしレナータはスキル発動の限界をむかえたのかその場で気を失ってしまう。
頭を伏せた事でマリオは跳躍してそのまま走り進み、翼の付け根へと駆け込んでスラッシュを発動。
スキルの発動限界まで全力で斬撃を振るい、表皮を抉り取り最後に剣を突き立てる。
これに絶叫をあげて苦しむ竜種はまともに姿勢を保てないながらも起き上がり、敵に接近させまいと所構わずブレスを吐き出した。
しかし翼を両手で掴んだマリオが落ちるはずもなく、突き刺したままの剣を踏み付ける事でさらに深く刺し込まれ、竜種は急所への痛みから後ろ向きに倒れる事もできないようだ。
それでもマリオが剣を踏み付けなければ少しずつ剣が押し出されてくる為、マリオさえいなければ剣を排出する事もできるのだろう。
尻尾で体を支える竜種にソーニャは右後足の関節裏を何度も斬り付け、すでに傷だらけになっている左後足にジェラルドが体当たり。
バランスを崩して竜種の上体が傾いていく。
ソーニャはその場から距離を取り、すぐにでも攻撃に移れるようにと喉側へと向かって駆けていく。
竜種が地面に倒れたところでマリオは剣の付け根まで突き刺さるよう踏み込み、急所の一部を完全に潰したところで剣を引き抜いて竜種から飛び降りた。
唸り声をあげる竜種は急所が潰された事で身動きが取れず、すでにブレイブの勝利が確定したようなものだろう。
気を抜く事なく竜種の前面側へと降り立ったマリオはソーニャに振り返る。
「トドメを刺すぞ。俺が胸を斬り開くから最後は頼むぜ」
「うんっ!お願いね!」
駆け出したマリオの背中を見守るソーニャ。
マリオは竜種との距離を詰めるとスラッシュを発動し、最大連撃である四連撃。
左逆袈裟から回すようにして右逆袈裟、体を回転させての左薙ぎに、さらに回転を加えて肩に担いだ剣を唐竹に斬り下ろす。
マリオの舞うような斬撃にソーニャは目を見開くも、自分の仕事を果たそうとエアレイドを発動。
切り開かれた胸、ひび割れた胸骨へとダガーを突き立て、心臓に刃が達した事で竜種に勝利した。
ふらりと体が傾いたマリオは地面に寝転がり、同じようにその横に寝転がったソーニャと目を向け合うと勝利の叫び声をあげる事にする。
「っしゃぁぁあ!!俺達の勝ちだぁぁあ!!」
「やったー!!竜種に勝てたー!!」
二人の叫びにジェラルドも「うおぉぉぉお!!」と雄叫びをあげ、竜種との戦いに幕を閉じた。
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