第16話 護衛依頼

 それからまた二月程過ぎた頃。


 しばらくの間はディーノがクエストを受注する度に同行を申し出る者が後を絶たなかったのだが、誰とも組む事なく断り続けた事で、今では誰も声を掛けて来る事もなくなっていた。

 ディーノはもうラフロイグでは完全にソロ確定だなと思いつつも、これまでのクエストで失敗した事もない為それ程問題ではない。

 そしてここ最近では休みも取れ始め、それなりにラフロイグでの生活も安定してきた。


「ではディーノさん。今回お願いしたいクエストなんですけど〜、護衛任務をお受けしてもらえないでしょうか。こちらは以前ディーノさんが達成したクエストの依頼主さんが、ご友人に紹介して下さったらしくてですね〜。是非ともディーノさんをと発注されたクエストなんですよ」


 貴族からの護衛任務となれば報酬は少なくはないのは確かだ。

 しかし討伐クエストからすれば命の危険性が低くなる事から若干安くなる。

 エルヴェーラはディーノがBB級までの討伐クエストで失敗する事はないと判断している為、この護衛任務では報酬が足りないのではないかと感じているのだろう。

 しかし冒険者にとって貴族や金持ちとのコネクションを持つ事は大事であり、仕事の斡旋や情報の提供、一般人では立ち入りできない場所への許可申請など、多くのメリットをもつ。

 まだまだ若いディーノには必要のない話ではあるが、冒険者を引退後もそれなりの職を紹介してもらう事もできるそうだ。


「指名依頼なら受けるよ。エルから見ても裏はなさそうなんだろ?」


 二月の間も付き合っていればエルヴェーラが信用できる受付嬢である事はわかる。

 これまでもディーノがその時々で望むような依頼を探して来ては紹介してもらっている。

 時にはAA級に認定されるクエストも条件をつける事で紹介し、SS級に認定されそうな場合でも偵察という名目で受注した事もある。

 この偵察であった場合も、モンスターに狙いを定められ、逃げられないと判断しての戦闘行為とすれば討伐しても問題はない。

 しかしディーノはシーフをベースとしたS級冒険者であり、逃げられないなどという言い訳は通用しない。

 ギルド長からエルヴェーラと共に厳重注意を受けつつ、最後には「お疲れ様」と労いの言葉をもらった事もあった。

 そのような理由からディーノはエルヴェーラの紹介してくる依頼は極力受けるつもりでいる。


「ありがとうございます!依頼主さんも喜びますよ!」


 断られる可能性を感じていたエルヴェーラも嬉しそうに受注処理をする。

 その後護衛任務の詳細を聞き、向かう先が王都バランタインである事を知る。

 少し行きたくないなとも思いつつ、依頼を受けた以上は諦めるしかないディーノだった。




 ◇◇◇




 ディーノが護衛する相手は、商業都市ラフロイグの領主【エンフィノール=ラフロイグ】伯爵という超大物貴族だ。

 数年ぶりにラフロイグから出て王都に向かう為、実力のある冒険者としてディーノを指名してきたという事だ。

 伯爵のお抱えの騎士も同行するのだが、どちらかと言えば対人戦にのみ特化しており、突然のモンスターの襲来に後れを取る可能性があるからという理由だ。

 選び抜かれた精鋭である騎士からすれば、冒険者であるディーノに良い印象はないだろう。

 モンスター如きに後れを取る事などないと、自分達の力に絶対の自身を持っているはずだ。

 ディーノからすればただの護衛任務であり、モンスターが現れたら殲滅する。

 それだけの事なのだが、やはりラフロイグの騎士からすれば、この護衛任務に邪魔な存在でしかない。


 伯爵に同行するのは【ジュリア】伯爵婦人とその息子の【ダリアン】、執事を務める【バールディック】の三人だ。

 そして伯爵を含むこの四名を護衛する騎士が十名だ。


「やあ、君がS級冒険者のディーノ君か。噂は【ヴィーロウ】から聞いているよ。これから王都までの護衛、頼んだよ」


 ヴィーロウとは伯爵にディーノを紹介した以前のクエストの依頼主の事だろう。

 ディーノは直接会った事はないものの、大手雑貨店のオーナーだったと記憶している。


「ディーノ=エイシスです。二日程ですがよろしくお願いします」


 ディーノが頭を下げて挨拶すると伯爵も頷きながらディーノを見つめる。


「それでだね、護衛ついでに一つお願いがあるんだが……」


「なんでしょう。ある程度でしたら要件を飲みますが」


 無茶な頼み事をされても護衛任務に支障をきたすが、ディーノとしてはある程度、許容できる範囲であれば依頼主の要望は聞きたい。


「私達の馬車に乗って君の冒険譚を聞かせてくれないかね。息子のダリアンが楽しみにしててね」


 予想外に護衛とは関係ない頼みだった。


「オレ、私は構いませんが……騎士の方々に失礼かと」


 さすがに騎士に睨まれていてはそのまま受け入れるわけにもいかないだろう。


「ではロバート。お前も一緒の馬車に乗るといい。私の側に護衛が二人着くと思えば安心だろう」


「はっ。仰せのままに」


 ロバートは騎士の中でも伯爵に近しい者か、リーダー的な存在と思われる。

 それなら構わないかとディーノも伯爵の要望に応えることにした。




「なんと!それ程凶暴なモンスターと戦ったと言うのか!うぅむ、冒険者とはそれ程まで勇敢な者達か!」


「すごいですね父上!物語ではなく実際の戦いの話を聞くのは迫力が違います!」


「素晴らしいですわね。冒険者様方の戦いが目に浮かぶようですわ」


 ディーノは過去のパーティーでの話や、ここ最近のソロでの活動などを身振り手振りを使って少し面白おかしく話してみせた。

 特にエアウルフとの戦いの話を気に入ったのか、様々な質問を受けながら自分の感じた事や考えを交えて説明。

 やはり貴族であるが故か、属性の事象の話がお好みのようだ。

 貴族は事象を引き起こすスキルを持って生まれなかったとしても、属性リングを装備して様々な事象を起こすのが嗜みの一つとされている。

 しかしこの魔法を戦いに使用した事はなく、芸事の一つと捉えているようだが、冒険者が自分達が起こせる事象【魔法】を使って戦う事に興奮を覚えたようだ。


 そんなディーノの話を興味なさ気に聞き流しているロバートは、自分達にもそれくらいはできるとでも思っているのだろう。

 騎士も属性リングや属性剣を使う者が多く、訓練でも普段から使用しているはずだ。


 バールディックの出すお茶を飲みながら、また新たな冒険話をと期待の目を向けられるディーノだった。

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