第15話 お断り

「ディーノさん、依頼達成お疲れ様です!」


 ギルドに顔を出すと開口一番こんな事を言うエルヴェーラ。


「いや、まだ何も言ってないけど……」


 何故この人は達成したと思ってるんだろうかと不思議に思うディーノだが、単純にこの程度の依頼は達成可能だろうとエルヴェーラも適当に言っているだけだ。


「ディーノさんのステータスなら余裕じゃないですか〜。そ、れ、に、それっ!属性剣買ったんですよね?どうでした?発動できました?」


 ディーノの腰に下がっているユニオンを指差して属性剣だと判断するエルヴェーラは鋭い。

 先日のステータス測定での会話から、属性剣の購入を検討していたのがバレていたのかもしれない。

 それにエアウルフ討伐は全然余裕ではなかったのだが、実際のところディーノはウルフ相手にフェイントの一つも入れておらず、まともに相手をしていただけだ。

 本来であればディーノはフェイントを多用したトリッキーな戦い方を得意とする。


「なんでもお見通しか。エアウルフを相手にしたおかげで風の事象を起こす事ができたよ」


「え……本当に発動できたんですか?だとしたら驚きなんですけど!?」と、大きな声を出したエルヴェーラは説明し始める。

 ウィザードとなるスキルを持った者であれば体内にある魔力を認識できるが、普段から魔力に触れる機会のない者が属性武器などを使用したとしても発動する事はない。

 それこそ長い年月をかけて魔力を認識するか、ウィザードから自身の体内魔力を引き出して、事象を起こす訓練をするかしなければならないとの事。

 エルヴェーラもディーノが属性剣を買う事までは予想していたようだが、自力で事象を起こす事ができるとは思っていなかったようだ。


「なるほど。それなら高い買い物した意味もあったかな。たぶん魔鋼製の剣だからオレも気付く事ができたんだろうし」


「……魔鋼、製?」


「ああ。魔鋼だけで造られてるらしいな」


「ちょちょちょ、それいくらしたんですか!?」


 表情豊かな女性だなと思いながら答えるディーノ。


「白金貨二十八枚だった」


 ドタン!と椅子からひっくり返り、「白金貨二十八枚て一等地に御屋敷が……」などと呟きながらよろよろと立ち上がった。


「まぁこのユニオンを装備したから今後はシーフセイバーに……いや、ウィザードセイバー?違うな、ウィザードシーフセイバーか?長いな……」


「い、いいじゃないですか!ウィザードシーフセイバーなんてステータス測定してみたくなっちゃいます!」


 何故このエルヴェーラはこんなにも興奮するのかは謎だが、ますますパーティーを組むのが難しくなったと少し落ち込むディーノ。


「とりあえずこれ、エアウルフの魔核と地図。報酬と次のクエスト頼む」


「はいはい、報酬は失敗の違約金がたくさん積まれてますからね〜、BB級では破格の大金貨八枚になります!」


 ディーノは依頼を受けた際に報酬を聞いていなかったのだが、これはAA級クエスト並の金額だ。

 じゃらりと置かれた大量の金貨を持ち歩いても仕方がないので口座に預けてもらう。

 手持ちですでに白金貨二枚と大金貨一枚、金貨が三枚、大銀貨五枚、他にも銀貨、大銅貨、銅貨と結構な金額を持ち歩いている。

 白金貨などそうそう使用する事もないのでついでに預けておいた。

 この金をおろす場合には違う窓口で手続きをするのだが、預けるだけなら依頼用受付でもできるのだ。


「まだ白金貨二枚もあるなんて……今度何か奢ってもらお……まぁはい、では次の依頼はですねぇ、BB級クエストの【ルビーアイキャット】討伐なんてどうでしょう。こちらも失敗の違約金が上乗せされますからお得ですよ」


「なんか逃げ足速いのばっかじゃないか?」


 ルビーアイキャットもエアウルフのように足の速いモンスターで、獰猛な性格で人間や獣、モンスターの区別なくなんにでも襲い掛かる。

 普段は山に住むモンスターなのだが、餌となる獲物が少なくなると人里近くに降りて来るのだ。


「シーフの需要が高いって事ですよ!北に農村地区が広がっているんですけど、山に近いところではボア等のモンスターが沢山いますからね〜。人的被害も出ていますので緊急性も高いです。よし、受注しちゃいましょう!」


 勝手に受注するエルヴェーラに「まぁいいけど」と少し呆れ顔のディーノ。

 そこに背後から近付く冒険者が一人。


「S級冒険者のディーノさんですよね!オレ、B級ファイターのライトって言うんスよ!そのクエストに一緒に連れてってもらえないっスか!?」


 このライトがディーノに話し掛けると、周囲で椅子から立ち上がる音が一斉に聞こえた。

 そこから「オレも!」「私も!」「いや、オレが!」「いいえ、私が!」と、多くの冒険者がクエストの同行に名乗りをあげる。

 今こうして声をあげているのはソロの冒険者か人数の少ないパーティーの者達だろう。

 しかしディーノにはまだパーティーを組もうという意思はなく、ましてや動きの素早いルビーアイキャットの討伐だ。

 おそらくは誰もついて来る事はできないだろう。


「ごめん。今は誰とも組む気ないんだ。他を当たって」


 ディーノが断ると誰もが少し落胆したような表情で席へと戻っていく。

「オレが声掛けたのになんだよお前ら……」と言うライトだが、今同行に名乗り出た者達で臨時パーティーを組めばいいだけの話でもある。

 クエストは待たなくても沢山あるのだから。

 とはいえディーノのようにクエストを自分で選ばずに、ギルドの受付に斡旋される者は数少ない。

 間違いなく実力者である事がわかる為、同行したい者は多くなるのだ。




 ギルドを出ればすでに夕暮れ時である。

 この日は走り回ったおかげか随分と疲れは感じるものの、以前のように怪我をしたわけではない。

 やはりレナータに回復してもらっていたとはいえ、大きな怪我をした場合には精神的な負担が大きかったのだが、今は怪我を負う事なく体力的な疲れだけだ。

 また明日クエストに向かっても問題はなさそうだと、夜の街へと繰り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る