第13話 属性武器

 クエストを受注してギルドを後にし、属性剣を購入しに武器屋へと向かう。

 商業都市というだけあり、武器や雑貨、食料に衣類など、露店で販売されているのを横目に見ながら道を行く。

 しかし属性武器は通常の武器屋では取り扱っておらず、貴族などが訪れるような高級な武器屋にしか置いていない。

 ラフロイグでも複数ある高級武器屋から、ギルドが信用を置ける店を何件か紹介してもらったのだ。


 店構えは貴族が訪れるという高級武器屋だけあり豪華な造りをしており、本当に武器屋かと思うほどに装飾が施されていた。

 しかし二つ程店を回ってもディーノの求めるような属性剣は置いておらず、三件目の店。


 店内に売られている通常武器もまるで宝飾品のように飾られており、一つ一つが超高額の武器である事がわかる。


 ディーノを見て少し難しい表情をした店主は、笑顔を作って接客を始めた。


「いらっしゃいませ、冒険者様。今日はどのような御用件で?」


「属性武器が欲しいんだけどあるかな?」


 顔を強張らせた店主に丁寧な言葉を使うべきだったか?と少し考える。


「属性武器も確かにございますが、お値段は冒険者様でもご購入できるかどうか……あ、いや、お客様のご予算を大きく上回るかと思いましてですね……大まかに言いますと、この商業都市に店舗を構えられる程の金額となりますが……それでもご覧になりますか?」


 言葉遣いではなくお金を持っているかどうかという事だろう。

 これまでの店でもそうだった。


「予算は白金貨三十枚用意してある。足りなければもう少しは出せるけど」


 目を大きく見開いた店主は最高の笑顔を向けてディーノに向き直る。

 これまでシーフとして攻撃力を諦めていたディーノだが、現在のステータスから攻撃特性を高めたセイバーとなるのだ。

 ここで生涯を共にする武器を手に入れようと、ギルドから預金のほとんどを持って来ていた。


「お客様は素晴らしいご活躍をなされている冒険者様なのですね!?当店では武器を扱ってはございますが、普段いらっしゃるお客様は貴族様ばかりでしたので、わたくしも冒険者様方のお噂には疎いものでして……申し訳ございません」


 捏ねた手が加速しているが、目的の物が早く見たい。


「あー、オレは元々王都で活動してたからさ。それより属性武器見せてくれる?」


「どうぞどうぞ!こちらへ」


 店主に促されて進んで行った先は店内にある別の一角。

 鉄格子で囲まれており、盗難などの被害にあわないよう対策しているのだろう。


「属性武器は当店でもそう多くはございません。現在はこちらにある商品のみとなります」


 商品棚が五つあり、その一つ一つに属性武器が置かれてある。

 ディーノが購入を考えているのは片手剣であり、出来るだけ短めのものがいい。

 と、すれば商品としてあるのは一つだけ。

 三件目にしてようやく見つけた理想に近い剣が、一番奥の棚に置かれている。

 鞘も同質のものが一緒に並べられており、ただの武器でありながら人を惹きつけるような存在感がある。


「あの剣は?」


 長さはディーノの腕と同じくらいだろうか。

 黒地に金の装飾が施された片刃の片手剣で、ガードの部分には宝玉が埋め込まれている。

 ブレイドが厚く見た目に重そうではあるが、体格の大きい冒険者が持てばダガーにも見えそうなデザインだ。


「お、お客様はお目が高い。こちらはですね、風の魔核を埋め込まれた属性剣となります。全てを魔鋼と呼ばれる特殊な金属で作られた当店で最も高額な商品です。お客様のご予算内には収まりますが、白金貨二十八枚と貴族様でもご購入を躊躇われる高額の商品となりますが……」


「風属性、いいね。じゃあこれ買おうかな」


「……え?本当によろしいんですか?これ程高額な商品ですと、もし返品なさりたいとおっしゃられても、金額の八割しかお返しできませんが……」


 即断即決するとは思っていなかったのか、返品を前提に話をしてくる。

 もともと返品するつもりもないディーノは白金貨二枚を皮袋から取り出し、白金貨二十八枚が入った皮袋ごと店主に渡すと、店主は「ありがとうございます」とわずかに手を震わせながら受け取った。

 そして剣を鞘に収めてディーノの前に差し出し膝をつく。


「こちらはバランタイン王国の歴史上でも最も有名な鍛治師【ウォルター】の作品。名を【ユニオン】とされております。金額もさる事ながら剣よりも短く、ダガーよりも長いこの造りから、これまで使用者はおりませんでした。貴方様の今後の活躍により、世界に名の轟く名剣となる事を願っております」


 この剣に何か深い思い入れでもあるのかはわからないが、店主は頭を下げて剣を高く持ち上げる。

 それはまるで国王への献上品でもあるかのように。


「ユニオンか。大事に使わせてもらうよ」


 受け取ってみると見た目に反して軽い。

 手に馴染むような感触とバランスの取れた武器としての造り込み。

 鞘から抜くも納めるも抵抗一つ感じさせない硬度。

 どれをとってもディーノの期待以上の剣のようだ。


 そして店主はこの金額がつく理由として、魔鋼がもつ性質についても説明してくれた。

 魔鋼は武器素材として最高峰に位置する金属であり、加工が難しく、数日間もの時間を鉄が溶ける程の温度で熱してようやく加工が可能になるとの事。

 そして硬度と強度が高いうえ、薄刃にしても粘りのある金属である事から切れ味も通常の刃物よりも優れており、腐食にも強い。

 刃先が歪んだとしても欠ける事はなく、時間が経つと液体であるかのように形状が元に戻るとの事。

 また、魔鋼は魔力の伝導率が高く、鞘までもが魔鋼で作られている為剣を納めたままでも能力を使用できるようだ。

 入手の難しさなども高額になる一因となるそうだが、これだけの性能を備えていればディーノも納得のできる金額だ。


 そして属性剣としての能力付与に、風を操る竜種の魔核が埋め込まれているそうだ。

 元々属性武器や属性リングなどは竜種の魔核を使用しており、これは何も珍しい事ではないが、このユニオンにはかなり大きな魔核が使用されているようだ。


「いい買い物できたから満足なんだけどさぁ、聞いてもいいかな?」


 ユニオンを選んだ時の店主の反応がおかしかったからこそディーノも聞いてみたいのだろう。


「なんなりと」


「他の属性剣の値段は?返品する気はないし聞きたいだけ」


「ええ、ええ。それでしたら入り口側からの二つが白金貨三枚、三つ目が四枚、四つ目が五枚となっております。どれも良い品ではありますが、魔鉄を溶かして鋼鉄の表面をコーティングしたものとなりまして、魔力の伝導率以外は魔鋼に劣りますな」


 属性武器は魔鋼や魔鉄を使用する必要があり、通常の鋼鉄武器では切先から属性の事象を放出ができない。

 仮に火属性のスキルを持つウィザードだったとしても、鋼鉄武器を持てば手元にしか火は発生せず、剣と火属性スキルが交わる事はない。

 属性武器を持って始めて火属性をもつ剣となる。

 また、ある程度の実力を身に付けた冒険者は風の属性リングを装備し、手から放出された事象を風を利用して放っている。

 もし風の属性リングを装備しない場合は、振り被って全力で投げつける必要がある。


「ありがと。参考になったよ。やっぱりこれ買って良かった」


「お喜び頂けてなによりです。武器屋アルタイルをご利用頂き誠にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 深々と頭を下げた店主に礼を言って店を出る。


 帰り道(白金貨三枚もあればラフロイグに店を構えられるのか)と、店主の言葉を思い返しながら宿へと足を向けた。

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