第3話 王都に帰ったオリオン
商業都市ラフロイグでパーティーの斥候役であるディーノと別れてから三日目。
レナータは胃の痛みに耐えていた。
馬車に揺られて二日掛けて王都に戻って来た今もまだ痛む。
胃の痛みに馬車の揺れ。
気持ち悪くなって何度も吐いている。
王都【バランタイン】には他所から来る行商人も多く、道行く人々も忙しなく往来している。
そんな活気あふれる都市を進みながらもレナータの心は晴れる事はない。
ディーノが一人いないだけでこんなにも気分が沈むのかと、その存在の大きさを実感する事となった。
マリオとジェラルドはディーノが抜けた後からは上機嫌であり、「あいつの諦めきった顔が」と何度も思い返して笑っている。
レナータはそんな二人を見ながら今後のパーティーの行く末を思うと胃が痛む。
絶対に悲惨な事になるとレナータの直感が訴えているのだ。
前衛に出ないガーディアンと、動きを止めたモンスターしか攻撃しないファイター。
そこに弓矢を持った自分自身。
敵の注意が絶対に自分に向く事になるだろうと思うとまた胃が痛み出す。
そしてディーノが抜けた穴にはマリオのお気に入りの女性シーフを仲間に入れるつもりだろう。
これにもまた嫌な予感しかしないレナータ。
ディーノ以外のシーフが前衛でずっと戦ってくれるはずがない。
そして連携を上手くとれる自信もない。
これまでレナータが連携をとっていたのはディーノだけなのだから。
レナータが注意を引いても絶対にディーノがまたモンスターを引きつけてくれる。
その安心感があるからこそ迷わずに矢を放てるのだ。
深いため息を吐き続けるレナータをよそに、馬車は王都を進んでギルドへと到着した。
ギルド内に入ると一斉に冒険者達から視線を向けられるオリオンのメンバー。
近しい冒険者は「おかえり」と声を掛けながらコップを持ち上げる。
「おう、久しぶりだな〜お前ら。またよろしく頼むぜ」
マリオが雑な挨拶を交わしながら受付へと向かっていく。
「お帰りなさい、オリオンの皆さん。商業都市はどうでしたか?」
受付嬢からニコリと問いかけられ、クエストは達成して来たと自慢気に語る。
「あれ?ディーノさんが見当たらないようですが途中で何処か寄り道ですか?」
レナータにとっては聞かれたくない話だが、マリオは悪気もなく説明する。
「あぁ、ディーノの奴はうちのパーティーにはもうついて来れないみたいでな、戦闘でも毎回一人だけボロボロになってるからよぉ。SS級パーティーはあいつには荷が重いって思ったから抜けてもらったんだ。このままじゃあいつも死んじまうからよ」
「そう……なん、ですか?おそらくは……あ、いえ。何でもないです。ディーノさんが抜けたオリオンの皆さんはどうするんですか?このままオリオンとして活動をするつもりですか?」
動揺を隠せない受付嬢は書類を漁りながら問いかける。
「SS級パーティーのオリオンは当然活動……いや、待て。オリオンってディーノが名前決めたんじゃなかったか?」
マリオに問われたジェラルドが「そうだ」と答えると、難しい顔をして何かを考え込む。
「確かパーティー名って途中変更はできないんだよな?だとすりゃ新たにパーティー結成した方がよくねぇか?」
「……そうだな。SS級にはまた実績を積む必要が出てくるだろうが、俺達ならすぐにランクを上げられるだろ。レナはどうだ?」
レナータの表情にも少し諦めの色が見える。
何を言っても無駄なんだろうなと思い、「任せるよ」と告げると、何故か受付嬢はホッと胸を撫で下ろしていた。
しばらく考えた二人はパーティー名を【ブレイブ】としたようだ。
勇敢とは程遠い二人がこのパーティー名に決めた事がレナータにとっても驚きだ。
「おーい、ソーニャ!俺達のパーティーに来いよ。今からパーティーを結成するからよ」
「え!?本当にオリオンのパーティーメンバーと一緒していいの!?じゃあ行く行く!!」
ソーニャはマリオがお気に入りの女性ソロシーフだ。
背は低めで幼さを残す表情は整っており、ハニーブラウンの髪は肩に触れない程の長さで、ふんわりとした癖毛が可愛らしさを引き立てている。
喜ぶソーニャを見てやっぱりかとレナータがまた胃痛に耐える。
ディーノに申し訳なさすぎて涙さえ出てきた。
マリオとソーニャの二人で仲良く申請書に記入を始めたのを見ながら目元を拭う。
そこへ近付いて来た一人の男が声を掛ける。
「おい、オリオン。ディーノが抜けたってお前ら本気か?」
レナータの頭に手を置いて問いかける男は、ディーノが兄貴と呼んでいるこのギルド最強のS級冒険者だ。
「本当っスよザックさん。あいつじゃもう足手まといなんで。ああ、ザックさんの弟分でしたっけ?」
「ま、血は繋がってねぇがガキの頃からのオレの弟分だ。で?ディーノは?なんで抜けたんだ?」
「今言ったじゃないスか。パーティーの足引っ張るからクビにしたんスよ」
「ほぉん。ディーノが足引っ張るなんて事あるとは思えねぇがな。じゃああいつソロか。まぁそれなら何も心配は要らねぇな。弱えパーティーに入る方が心配だ。例えば……お前らみたいな、な」
笑顔でマリオを指差すザック。
挑発のつもりなのか、本気で言っているのかは誰もわからない。
しかし「ディーノがソロなら心配ない」という言葉にレナータは妙に納得して涙が止まる。
この言葉のおかげなのか、ザックという存在の大きさがそうさせるのか、レナータはディーノと一緒にいるような安心感を覚えていた。
「言っときますけど俺はザックさん。あんたを超えて最強になるっスよ」
ザックに啖呵をきって振り返り、パーティー申請書を提出して受付嬢にステータス測定を依頼するマリオ。
「少し待って下さいね」と測定器を取りに向かう受付嬢。
「オレを超えて、か。ディーノなら近い将来超えてくるかもしれねぇが、お前らじゃ百年経っても不可能だろ。たぶんこの測定で恥かく事になると思うが……まぁ面白いから見ててやるよ」
ギリリと歯を噛み締めるマリオとジェラルド。
「ディーノから聞いた感じだと、このレナータが一番ステータス高いんじゃないか?」
そんなザックの言葉を聞いたソーニャ。
「ねぇマリオ。私たぶんそんなにステータス高くないよ?本当にパーティー入って大丈夫?」
「今は高くねぇとしても、今後伸び幅が大きいって事だろ?だからソーニャなら歓迎するぜ」
ぶふぅっと吹き出すザックは「これでマリオが一番低かったら面白すぎる」とクツクツ笑っていた。
奥の部屋から測定器を運んできた受付嬢。
多くの魔石が埋め込まれた四角い石板と、丸い宝玉がセットで測定器となっている。
測定者が石板の上に乗り、受付嬢が宝玉に手を乗せてステータスを読み取る。
それを書き留めて、ギルドの管理する規定に則ったポイントが評価値として提示されるのだ。
「まずはソーニャから測ってみろよ」
ソーニャが石板の上に乗り、受付嬢が読み取った数値を紙に書き留めていく。
全て書き終えると後ろに控えた職員に渡して評価値を算出する。
次にジェラルド、レナータと測定していき、最後にマリオが石板に乗る。
その頃にはソーニャの測定値と評価値が書き込まれた紙を渡され、全員で確認する。
事細かな部分は省かれた、冒険者にとってわかりやすい部分だけが記入されている。
名前:ソーニャ=セルゲイ
攻撃:1025
防御:234
俊敏:806
器用:481
魔力:162
法力:64
評価値:19(C級シーフ)
もうすぐB級かと頷くマリオ。
その後ジェラルドのステータスも渡され、すぐにレナータの分も算出される事になるだろう。
名前:ジェラルド=ウェイ
攻撃:1160
防御:1818
俊敏:316
器用:216
魔力:131
法力:51
評価値:26(B級ガーディアン)
名前:レナータ=ハインリヒ
攻撃:1392
防御:401
俊敏:387
器用:406
魔力:832
法力:2192
評価値:35(A級クレリックアーチャー)
名前:マリオ=グレッチャー
攻撃:1725
防御:334
俊敏:349
器用:467
魔力:232
法力:103
評価値:21(B級ファイター)
この結果に一同唖然とする。
何故かザックまでもが空いた口が塞がらないような状態だ。
「お前らSS級パーティーだったんだよな?これ、マジか……ポイントだけでSS級なるとしたら四人の総合値で200ポイント必要なんだぞ?」
「あ、あのっ。これはあくまでも規定装備を使用した場合の数値ですから必ずしもこれが正確な数値とは……皆さんいい装備を使用してますし……その……」
受付嬢までもが気を遣っている。
「ふ……ふざけるな!!どう考えてもおかしいだろ!!俺達はSS級のメンバーだぞ!?測定値がおかしいか計算ミスが原因だろ!!やり直せ!!」
と、やり直したが結果は同じ。
そんな訳がないと言い張るマリオだが、ザックが金を払って自分のステータスも測定する。
パーティーの結成時やソロで再登録する際などは無料でステータスを測定してくれるが、普段測定しようと思えば高額な測定料が必要だ。
CC級パーティークエストの平均報酬額に相当する測定料となるが、ザック程の冒険者ともなれば気にする程の金額でもない。
名前:ザック=ノアール
攻撃:5129
防御:2786
俊敏:1541
器用:583
魔力:361
法力:184
評価値:138(S級ファイター)
驚愕の数値に腰を抜かすジェラルド。
盾を持たないファイターであるのにも関わらずガーディアンの自分の防御力を遥かに上回る。
「ははっ。まあ規定装備だとこんなもんだろ。ただこの数値って事はオレの一撃で武器は壊れちまうだろうな。ま、そんなわけで測定器は壊れてねぇし計算も間違っちゃいねぇ。これが現実だ。今までディーノにおんぶに抱っこしてたって事をよ〜く覚えとけ」
王都最強の冒険者の評価値はSS級パーティーに所属していたメンバーの総合値よりも高かった。
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