第4話 ブレイブ始動

 ステータス測定により予想外の強さが判明したマリオは怒りに震え、受付カウンターに拳を打ち付ける。


「まあ落ち着けよマリオ。このステータスにはスキル効果は反映されねぇんだからよ。強さと評価値はイコールにはなんねぇよ。ぶふぉっ」


 ザックはマリオの評価値がオリオンの中でも最も低かった事に吹き出し、肩を震わせてクツクツと笑っている。

 ザックを睨み付けるマリオだが、スキルを発動すれば自身の攻撃力は跳ね上がり、ザックをも超えられるはずだと拳を握り締める。


「そうだ。オレ達の強さはステータスじゃ測れねぇんだよ……なぁ、おい、このパーティー評価は何とかならねぇのかよ!」


 マリオに睨み付けられる受付嬢だが、この結果を予想していたのかそれ程動揺した様子はない。


「【ブレイブ】の皆さんはこの評価値の元、全員の総合値が101ポイントとなりますので、BB級パーティーとして登録させて頂く事になります。しかし、もし仮にあのままオリオンとしてパーティーを続けられた場合でも、ディーノさんが抜けた分のパーティー評価はAA級となっていましたので、テストをして評価を改める、という事でどうでしょうか。こちら、報酬は少ないですが、AA級のクエストとなりますので検討してみてはいかがでしょう」


「そのクエスト達成すれば俺達はAA級になれるのか?だったらやってやるよ」


 頷いた受付嬢を見てクエストの内容を確認もせずに了承するマリオ。

 受付嬢が提示したクエストはAA級クエストではあるが、報酬は普通のBB級クエストよりも少ない。

 しかし発注されてから数ヶ月となり、いよいよギルドとしても報酬を上乗せしてでも達成してほしい、緊急クエストとしてザックに依頼する予定だったものだ。


「ではこちらのクエストを受注するという事で承ります。もし仮に失敗という扱いになりますと、こちらの報酬額と同額の違約金をお支払い頂く事になりますのでご理解下さい」


 受付嬢も強かなものである。

 本当の狙いは失敗の違約金かもしれない。


「失敗なんざしねぇけどな。もしできなけりゃ支払ってやるよ。よし、まあAA級ならまだ許せる範囲だ。俺達はまた実績を積んでSS級まで上り詰めるからな。おい、ジェラルド、なに座り込んでんだよ!明日には出発するから準備するぞ!」


 ズカズカとギルドから出て行くマリオと、それを少し不安そうな表情で追いかけるソーニャ。

 ジェラルドも小走りでマリオを追い、レナータは「お騒がせしてすみません」と受付嬢やザックに頭を下げた。


「レナータ」


 ザックに呼ばれて顔をあげるレナータ。


「今度飯食いに行くか。ディーノの話を聞かせろよ」


「……はい。美味しいお店、期待してますねっ」


 これから向かうクエストはAA級だが、SS級でないだけまだ少し気持ちが楽になったレナータ。

 このクエストが失敗する事になるような気はするものの、今後BB級パーティーとなるのであればレナータもまだ余裕を持って戦える。

 まだ不安は拭えないが、ここで自分達の実力を再確認できればマリオ達も考えを改めてくれるだろうと期待して後を追う。




 旅支度はラフロイグから戻って来たばかりという事もあり、食料や薬品類の買い出しだけで済んだ為、夕食前に宿に戻って一休みとした。


 この日はソーニャの歓迎と、パーティーを新たに結成した記念という事で宿の近くの高級店で食事をする予定だ。

 シャワーで体を洗い、私服に着替えてベッドに倒れ込むレナータ。

 少し休んだら酒場へと向かおうと、そっと目を閉じた。




 ◇◇◇




 AA級モンスター【デスリザード】討伐クエストに向かう新生パーティー【ブレイブ】のメンバーは、旅の準備を整えて王都から出発する。

 王都から西へ二日程歩いた先にある沼地がデスリザードの生息地となる。

 馬車であればこの日のうちに沼地に到着できるだろう。

 御者席にマリオとソーニャが座り、荷台にジェラルドとレナータが乗っている。


 今回討伐するのは元々はジャイアントリザードと呼ばれる巨大な蜥蜴型のモンスターなのだが、突然変異として生まれた個体はデスリザードと呼ばれている。

 ジャイアントリザードが餌として小型の獣を捕食するのに対し、デスリザードは人の肉を好む傾向にあり、獲物を痛めつけて弱ったところを捕食する。

 このデスリザードは発見から数ヶ月もの間放置されていた事もあり、被害に遭った者も少なくないだろう。




 昼を過ぎたところで大人の男程の大きさもある【ファングボア】が現れた。

 人里に出る事は滅多にないが、雑食で人間も襲われる事のある危険なモンスターだ。

 上顎から伸びた長い牙は首筋を守るように生えており、もしクエストが発注されるとすれば個人ランクでB級に値する。

 生態系が崩れる為乱獲する事は禁止されているが、今現在こちらを威嚇している事から討伐する必要がある。


「ボアが相手ならソーニャ、頼めるか?」


「えー、汚れるからやりたくないけど……でもブレイブで初めての戦闘だし頑張っちゃおっかな!」


 マリオとしてはソーニャの戦闘を見たいという気持ちもあったのだろう。

 馬車を停めてソーニャの戦いを見守る。


 ソーニャが右手にダガーを握り締めて駆け出すと、ボアも同時に向かって走り出す。


 直線的なボアの体当たりを跳躍して回避するソーニャ。

 避けられた事で急停止したボアは牙が邪魔して首の向きを変える事ができず、四足を上手く使って方向転換。

 ソーニャを探すも見つからず、次の瞬間に鼻先に刃が突き立てられる。

 どうやら跳躍した先にある木に捕まって油断するのを待っていたようだ。

 突然の痛みに鳴き声をあげるボアに、真横に立ったソーニャは再びダガーを突き立てる。

 牙を避けて首筋へと突き刺し、逃げようと走り出すボアに追従してさらにダガーを突き立てる。

 刺されるたびに悲鳴をあげるボアは次第に弱っていき、五度目に突き刺したところで地面に倒れ込んだ。

 最後に喉へとダガーを突き立て、横に切り広げるとボアはパタリと動かなくなった。


「倒したよ!」


 マリオに向かって手を挙げるソーニャは嬉しそうだ。

 追いかけ回した事で多少は時間が掛かったものの、怪我を負う事なくあっさりと倒した事からソーニャの実力も確かなものだろう。

 荷台から覗くジェラルドが「うん、まぁ悪くないな」とこぼせば「そうね」とレナータも答える。

 動きも悪くないし躊躇いや迷いもない、中級冒険者として充分な能力を持ちそうだ。

 が、ただそれだけだ。

 オリオンにいた頃のディーノもよくファングボアに道を阻まれて討伐していたのだが、向かって来るボアを跳躍する事で上方に避け、こめかみにダガーを突き立てる事で一撃で倒していた。

 SS級という事で経験が豊富な事が原因か、それともディーノの実力が通常のシーフを遥かに上回るものなのかは今となってはわからないが。

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