第2話 クビになる
ブラッディホーンベアの処理も終わり、ディーノの体の回復が終わったら帰路に着く。
来る時はベアを探しながらの移動だった事もあり時間が掛かったが、帰りはその半分程度の時間でラフロイグにたどり着いた。
ギルドに報告を済ませ、クエスト達成の打ち上げにと酒場へ向かう。
この日は酒場の個室を用意してもらったようだが、他に聞かれたくない話でもあるのだろうか。
「なあ、ディーノ。ここ最近のお前の戦い見てて思うんだけどよぉ。お前、オレ達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」
マリオからそんな事を言われたディーノ。
「は?いや待ってくれよ。今回戦ったのはSS級だろ?そこらのモンスターとはわけが違うだろ」
「わけが違うって言われてもなぁ。実際に俺はSS級モンスター相手にも最後の一撃はしっかり決めてるしな」
「最後の一撃って……お前それ本気で言ってんのか?そこまで削ってるのオレだぞ?それにオレのギフトだって上乗せされてる事も忘れるなよ」
ディーノのスキルはパーティーメンバーに合わせた能力の上昇バフだ。
これだけでも充分にパーティーに貢献してるはずなのだが、マリオにとってスキル効果はそれ程大きいものとは思っていないようだ。
「お前が削ってるって言ってもそんな大したダメージにはなってねぇよ。俺の一撃があってこそ倒せてるんだよ。あとギフト?使えるんならパーティーの為に使用すんのは当然じゃねぇか」
パーティーへの能力上昇スキルを発動できるのはディーノだけであり、マリオとジェラルドは自身へのスキルを発動している。
「だいたいお前は隙一つ作んのにも時間かけ過ぎるしよぉ、毎回怪我もするし……レナにだって負担かけてんだ。なぁ?レナもなんとか言ってやれよ」
レナータは自分に話が振られるとは思っていなかったのか、体を強張らせてマリオに答える。
「えっと、ここ最近大きなダメージを負う事が多いなとは思うけどさ……負担とは別に思ってないよ?」
「まぁ、確かに以前よりダメージも大きいし回復にも時間が掛かるから負担を掛けてるのもわかってるよ。それでもオレはシーフだしパーティーの中では斥候役だ。役割が違うんだし、もっとお前らにも前出て戦ってもらわないとSS級相手じゃさすがに捌ききれないだろ」
「はぁ?なんだそれ。俺達の負担をもっと増やせって事か?ジェラルドは俺やレナの代わりに直接攻撃に耐えてんだぜ?回避できるお前がしっかりモンスター抑えるのが当たり前だろ?」
どうやらこのパーティーの編成がおかしいという事すらわかってないマリオ。
前衛にシーフであるディーノ。
中衛にガーディアンのジェラルド。
後衛にファイターのマリオとクレリックのレナータ。
斥候役が前衛となるのは戦闘前までであり、戦闘が開始されてからは遊撃手となるのが一般的な編成だ。
しかしこのオリオンではパーティー組んだ最初の頃から前衛はディーノが受け持っている。
「ジェラルドはどう思う?シーフであるオレが前衛でモンスターが弱るまで戦ってんの見て何とも思わないのか?」
「俺は仲間を守るのが仕事だ。トドメを刺す為のマリオ、注意を引いたり回復したりを兼任するレナを守らないといけない。だから動きの速いお前まで守る事はできない。それでもお前が倒れた時にはモンスターの攻撃に耐えてるだろ」
やはりジェラルドもマリオ派の意見に賛成のようだ。
(前衛をしないガーディアンとか他で通用しないと思うんだけど)
「なっ、わかるか?俺はしっかりトドメを刺せてるしジェラルドもしっかり攻撃に耐えてる。レナは牽制に回復に大忙し。お前だけが攻撃に耐えられないし削り切るまで時間も掛けてる。足引っ張ってるって自覚しろよ」
(オレが戦ってる間は動かないって方がおかしいと思うんだが……なんだか問答するのがバカらしくなってきたな)
「じゃあどうしろって言うんだよ。もっとしっかり働けとでも言いたいのか?こっちは命懸けで戦ってるんだしこれ以上は無理だぞ」
「なっ?そういう事だよ。ここがお前の限界。もう俺達について来れてねぇんだ。そんならさぁ、そろそろ次のパーティーでも探したらどうだ?」
マリオの言い方から自分を追い出したいらしいと察したディーノ。
その表情は問答する事さえ諦めたようだ。
「オレはクビって事か?」
「んん、簡単に言えばそういう事。今後のクエストはさらに厳しくなるだろうからな。これはお前の為でもあるんだぜ?」
「そうか。わかった。オレはオリオンを脱退する」
「ディーノにしては物わかりがいいじゃねぇか。まぁ、一応これまで仲間として寝食を共にしてきたんだし?ほら、これ受け取れよ。最後のクエスト報酬は全部お前にやるからよ。自分からは脱退ってなかなか言いにくいだろ?だからギルドにも除籍って事で俺から伝えとく。っつーわけで元気でやれよ」
マリオはディーノの背中叩いて店を出て行った。
「じゃあ元気でな」
ジェラルドもあっさりと別れを告げ、肩に手を置いて出て行った。
「え?嘘!?ちょっと待ってよ!ディーノはこんな形でパーティー抜けてもいいの!?」
「ああ。どうやらあいつらにとってオレは邪魔者みたいだし、仕方ないのかなって。オレの意見は聞いてもらえないしさ。だからもういいかな」
「そんな……でも私はディーノがすっごく頑張ってるってわかってるよ!?限界なんかじゃない、まだまだ強くなるって……」
涙をボロボロと流し始めるレナータ。
「パーティーは抜ける事になるけど、また一からラフロイグでやり直してみるからさ。いろいろやりたい事もあるし、思うようにやってみるつもりだよ。だから気にすんな」
「だったら私もっ」
「レナはあいつらに着いてってくれよ。レナがいないとオリオンはこのまま解散なっちゃうからな。あの二人だけじゃクエスト達成できないだろ?」
「そんなの三人でも無理だよぉ……」
「頼むよレナ。泣くな。あいつらを支えてやってくれ。バカな二人だけど、それでもオレにとっては仲間だからさ」
レナータには申し訳ないと思いつつも、マリオ達の面倒を見てもらう事にする。
レナータの背中を押してディーノは一人になった。
ついつい独り言をこぼしてしまう。
「新進気鋭のSS級パーティー【オリオン】とか持ち上げられてたのにクビか〜。ああ、これは兄貴に笑われるな……」
ディーノには血の繋がらない兄がいる。
王都で最強と言われるパーティーのリーダーを務める男であり、ディーノの目標とする人物だ。
「いや、もしかしたら殴られるかも。SS級になってすぐに兄貴のパーティー以上に名声を轟かせてやるって言ったしな。たった数ヶ月でオリオン脱退って……これは殴られる。たぶんボコボコにされるな」
しばらく王都には帰らない事を決意したようだ。
◇◇◇
それからディーノは先日まで泊まっていた宿を引き払い、新たな宿を借りてしばらくはここ商業都市ラフロイグに留まる事にした。
ラフロイグには王都から流れてきた友人も何人かいる。
その友人達に会いに行ったり観光したりするのもいいだろう。
金もそこそこあるしと、しばらく遊んでからまた仕事をしようと考えているようだ。
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