追放シーフの成り上がり
白銀 六花
第1話 前衛のシーフ
【この世界は数字でできている】
かつて最強を誇った英雄パーティーの魔術師が残した言葉だ。
それを何世代にも渡って研究が続けられ、現代では生物の在り方を数値で表す事が可能となっている。
その数値化された生物の在り方を人々はステータスと呼び、ギルドではそのステータスを元に評価ポイントを与え、個人ランクを決定している。
個人ランク
S級:50ポイント以上
A級:30ポイント以上
B級:20ポイント以上
C級:10ポイント以上
D級:5ポイント以上
E級:0ポイント以上
また、個人評価ポイントの総合値をパーティーに反映したパーティーランクも存在する。
パーティーランク
SS級:合計200ポイント以上
AA級:合計120ポイント以上
BB級:合計80ポイント以上
CC級:合計40ポイント以上
DD級:合計20ポイント以上
EE級:合計10ポイント以上
これはあくまでも新しくパーティーを結成する場合にのみ適用される数値であり、実績を積み重ねてランクアップした場合にはポイントがこれに満たない事もある。
そして【ディーノ=エイシス】の所属するパーティー【オリオン】は実績を積み重ね、王都でも有名なSS級冒険者パーティーとして活躍している。
シーフであるディーノの他に、両手剣ファイターの【マリオ=グレッチャー】、巨盾を持つガーディアンの【ジェラルド=ウェイ】、弓矢を持った回復役にクレリックアーチャーの【レナータ=ハインリヒ】の四人編成のパーティーだ。
複数の高ランククエストを達成した実力派パーティーと言っても過言ではないだろう。
また、この世界の誰もが固有スキルをもって生まれ、そのスキルに応じた職業に着く事で大成し易くもなる。
ディーノのスキルは【ギフト】と呼ばれるパーティーメンバーに合わせた能力の上昇バフであり、マリオには攻撃力を、ジェラルドには耐久力を、レナータには回復力の元となる法力を上昇させて能力を底上げしてる。
マリオの場合は攻撃特化の必殺スキル【スラッシュ】。
斬るという動作に強さと速さが上乗せされるものだ。
ジェラルドは防御特化の全身の硬化【プロテクション】。
力負けせず恐ろしいまでの衝撃にも耐え凌ぐ。
そして回復役のレナータは【ヒール】と呼ばれる肉体の修復スキルだ。
痛みを和らげ、傷を癒す効果を持つ。
◇◇◇
ここしばらく王都にはSS級パーティークエストの発注がなく、オリオンのメンバーは商業都市【ラフロイグ】に遠征していた。
ラフロイグから半日程歩いた森の中、数々のモンスターを討伐しながら目的地に向かって進み、そしてたった今、SS級モンスター【ブラッディホーンベア】を発見して交戦中となっている。
『グゴォォォォォオオ!!』
「ディーノ!左だ!左に引き付けろ!レナは奴の目を狙え!ただし、こっちに向かわないよう気を付けろ!」
ブラッディホーンベアはディーノの身長の二倍はある背丈に、他のモンスターを優に上回る俊敏性、知能も高い事から下手に攻め込めば一瞬で咬み殺されるだろう。
リーチも人間の倍程もあり、ディーノが引き付けようと思えばさらに踏み込む必要がある。
左に引き付けろと言われてもこの体格差だ。
ディーノの速さを持ってしても躱し切れるかわからない。
すでにギフトは発動済みで、俊敏性を高めて挑んでようやく素早さが少し上回れる程度。
動きを読んで右前足を躱し、左前足を引いて右前足が地面についたところで接近。
鼻先を切り付けたらすぐにバックステップ。
左前足が目の前を通り過ぎ、一瞬だけだが隙が生まれた。
そこにレナータからの矢が放たれ、ベアの左目横に突き刺さる。
『グガァウ!』
突然受けた痛みにベアの意識がレナータへと向き直り、注意がそれた瞬間ディーノは距離を詰め、右脇にダガーを突き立てる。
間合いに入られた事で危機を感じたベアはすぐさま体を地面に伏せ、ディーノに向かって跳躍。
食い込んだダガーを手放して後方に飛び退いたが避け切れず、鼻先に手を当てて体を捻るも頭から生えた巨大なツノに弾き飛ばされた。
ディーノは地面に打ち付けられないよう受け身をとって立ち上がり、ベアの追撃に備えて予備のダガーを構える。
左上腕が焼けるように熱い。
ギザギザとしたツノにより裂傷した為だろう。
しかし今は痛みに構っている暇はない。
追って来たベアを右に躱し、歯茎に刃を当てて間合いをとる。
右脇にダガーが突き刺さっている事でわずかに動きが鈍い。
ここを突いてベアの体力を削っていくべきだろう。
しばらく距離を取りながらベアを動き回らせ、少しずつ体の内側へと刃を突き立てて体力を奪っていく。
レナータから放たれる矢がベアの注意を引きつけ、そこで懐に飛び込んでダガーを突き立てる。
表面を切り付ける程度では脂肪に阻まれて意味がなく、背面側から攻撃しても毛皮が硬くて刃が通らない。
ディーノができる攻撃はダガーを真っ直ぐに突き立てる事だけだ。
随分と動きが鈍くなってきたところで首筋を狙って攻撃を加えていく。
マリオがトドメをさせるよう首筋の毛皮を削ぐ事、肉を少しでも傷つける事で刃を通りやすくするのが目的だ。
しかしこの動きが鈍くなってきたとしてもまだベアも諦めたわけではなかった。
首筋に刃を突き立てた瞬間にダガーが食い込み、左前足がディーノの体を捉えた。
右脇腹から腰にかけて強く打ち付けられ、巨大な爪が鎖帷子を薙ぐ。
地面を転がるディーノと入れ替わるようにジェラルドは巨盾を構えて体当たりする。
意識が遠退くディーノに寄り添ったのはレナータだ。
回復スキルが傷やダメージを癒していく。
傷が癒えてきた事で朦朧としていた意識もはっきりとしてくるが、すぐに動ける状態にはならない。
少しの間、ジェラルドとマリオに戦ってもらう事になる。
ジェラルドは巨盾をベアの頭に押し付け、プロテクションによってしっかりと抑え込んでいるようだ。
マリオは今がチャンスとばかりに表面側から首筋に切り込み、刃が通らずに何度も剣を振り下ろす。
スラッシュを発動したとしても表面側の毛皮は恐ろしく硬い為、あのまま攻撃を繰り返したところで倒す事はできないだろう。
その後はジェラルドも弾かれて距離ができたところでベアの体当たり。
さすがにあの巨体での体当たりにはジェラルドも長くは保たないだろう。
マリオが攻撃加えてジェラルドへの力を削いでやる事で負担を減らしているようだ。
ジェラルドが耐える事数分間。
「よし、だいぶ痛みも引いた。レナ、ありがとな。もう一回行ってくる」
動ける程度まで回復したディーノは立ち上がってベアへと駆け出した。
接近するディーノに気付いたベアはジェラルドを無視して向かって行く。
飛び掛かって来るなら好都合。
ディーノの素早さなら前進する事で回避できる。
前方に転がり込む事でその攻撃を回避すると、脇の痛みに前方に転がったベアはすぐに襲い掛かれない為その隙に接近。
今度は全体重を乗せたダガーを喉元に突き立て、体を捻って切り裂いた。
血を吐きながら悲鳴をあげるベアにジェラルドが再び巨盾で体当たり。
追従したマリオが仰向けに倒れ込んだベアの首に剣を振り下ろす。
大量の血が地面に広がり、オリオンのメンバーはブラッディホーンベアの討伐に成功した。
ブラッディホーンベアを倒した後、ディーノは受けた傷の回復で休んでいる。
レナータのヒールと回復薬でしばらくすれば痛みも消えるだろう。
その間にマリオとジェラルドはモンスターの処理をする。
ベアの体内から核を抜き取り、保存冷却用の魔道具を体内に埋め込んだら完了だ。
討伐依頼の場合にはこの核が討伐の証明になる為必ず抜き取る必要がある。
あとは地図にこの場所をマーキングしてギルドに報告すれば回収隊が派遣される手筈となっている。
モンスターの素材はギルドに買い取られる事になり、後日、依頼とは別に買取額が支払われる。
その中でも欲しい素材があれば買取額から金額を差し引いてもらう事ができ、解体されたその部分だけもらえる為、全てギルドに任せる予定だ。
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