第三章 魔術師の弟子

〇 残された少年



「マレン、トニア、アトル。君達は約束通り解放してあげる」


 そう口に出したが、子供達は何も聞こえていない様子で頭をぐらりとさせただけだった。けれど部屋の隅からは、啜り泣きを押し殺すような小さな声が聞こえてくる。


「けれどユーエル、君はまだダメだね……処置がうまくいかない。私のせいだ」


「僕も帰して」

 少年の囁き声がそう言った。


「抵抗をやめて、私の処置を受け入れてくれれば」

「いやだよ。いやだ」

「君が水持ちだからかな、術が全て消されてしまうのは……ごめんなさい、私が未熟なせいで」

「謝るくらいなら、師匠のところに帰して」

「君の捜索願いも出さない師匠のところへ?」


 尋ねられた少年は一瞬言葉に詰まったが、すぐに強く頷いた。

「僕が学びたくて、押しかけているだけだから」


「そう」


 恐怖で涙ぐんでいる子供の顔を見るのが嫌になって、檻から離れると子供達に自分の後ろをついてくるよう言い、地下室を出るために歩き出した。マレン、トニア、アトルの三人は夢を見ているような表情のまま、ゆらゆらと言われた通りに歩き出した。


「この子達を帰して、君達の食事を買ってくるから」


 パタンと扉が閉められて、少年はそれを見送った。そして小さく「君……?」と言うと、誰もいなくなった地下室を見回した。





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