第46話 救出せよ! その2
「機人か……!」
人型の鎧はリザルチが照らす炎の範囲ギリギリのところで足を止める。
その赤銅色のいで立ちには見覚えがあった。
あの緋霄の災禍で暴走したトロールを相手に圧倒していた機人だ。その自在な機動は一瞬、目を奪われるほどに華麗であった印象を抱く。
「機人の巡回はここから最も近い場所でも城内西側の一階、こんなところを巡回しているはずがないのだが」
「返答義務、皆無」
赤銅色の機人と相対したストレイフは頬に流れる血を片腕で拭うと、再び剣の柄に手をかけて左足を後ろに引き足を肩幅より広く開いた。
「戦うのかい、スト」
「この状況を見られたのだ、もはや無断の外出などという誤魔化しも通じない」
「りょうかい」
ユキトは腰を上げたリザルチに連れられるようにして機人を眼光で射るストレイフの後ろに回る。
「闖入者、排除」
赤銅色の機人は腰マントの内に手を差し込むと、先の細くとがった長剣を抜き出して片手で構える。それを見た黒色外装の騎士も押さえていた剣を抜いて先を機人に向けた。
先に足を出したのはストレイフだった。彼は真っすぐに機人に向かって駆けだし、振り上げたその長剣を一気に打ち下ろす。
受け手となった赤銅色の機人がやや幅の広い白色剣を顔先に掲げて迎えた次の瞬間、甲高い金属の衝突音が響き外窓を振動させる。生じた火花が二者の顔を光らせ、押し拉ぎ合う剣は揺れ動く。
数秒続いた静寂の鬩ぎ合いは機人の押し返しにより、急激に加速する。
切り上げ、薙ぎ払い、突き、捌き合いの躱し合い。数瞬の間に幾度も打ち合う剣戟はもはや素人に見切ることは叶わず、ユキトは空をなぞる無数の剣先の跡を漠然と眺めることで精一杯であった。
「っ!」
幾百とも感じた剣戟は横薙ぎの一閃を回避する黒色騎士の後退によって打ち止めとなる。数歩飛び退いた彼の右腕には表皮に切り傷が見られた。
傷の痛みを気にした様子ではないが、騎士の憂いの横顔には一筋の汗がしたたり落ちる。
それもそのはず、機人は己が両手で構える長剣よりもやや重厚なものを扱っているのにも関わらず、打ち合いの全てを片手で捌いてみせたのである。
「単なる斬り合いではこちらが劣勢、やはり力は惜しんでいる余裕はないか」
ストレイフは脚をもう一度肩幅ほどに開いて、切っ先を機人に向けた剣を顔の横まで持ち上げて構える。
「灯りはどうする、もっと必要かな」
「必要ない、何なら今より暗くても問題ない」
返答を受けたリザルチは一瞬間で手首を返して、指先で発現していた拳大の炎を掌で制御する。灯りが照らす空間は若干と薄暗くなり、機人のすぐ背後まで夜闇を引きずり込む。
「あの機人、前に見たことあるけどかなり手強い様子だった。本当に勝てるのか」
「さあどうだろう」
「そんな悠長な」
「だけど勝つつもりだよ、僕らは」
ユキトは隣のリザルチを咄嗟に見上げる。赤髪に透けて見える彼の口もとは柔らかく、しかし目線はしっかりと眼前で起ころうとしている戦闘に向けられている。
「――行くぞ」
後ろ足を蹴り出して、再度対峙する機人へと接近するストレイフ。
「っ!?」
その突貫は先ほどのものとは異なった。
数歩、石床を駆けた騎士の姿が忽然と消える。虚を突かれた機人は咄嗟に剣を斜めに構えて体の重心を後ろに移動する。
だが消失したのは形姿だけ、彼の足音は今も変わらず機人のもとへ近づいている。機人もすぐさまその状況を察したのか、剣を横に構えて左手で剣身を支えつつ、背後に退く体勢をとった。
不可視の姿が発する足音が大きく一つに集約されて、騎士が前方へ跳んだことを合図する。
それに合わせて、機人も後方へ逃げようと剣で前方を守りつつ体を完全に背後へと傾けた。
「もらった」
軸足を地から離した機人にリザルチが言葉をもらした。
「ッぐ!?」
鋭く響く衝突音とくぐもった苦鳴。リザルチの呟きに気をとられたユキトが戦場に視線を戻した。
背後へ回避したはずだった機人の背中が反り返り、面が天井を仰ぐ。
仰け反った鎧の背後には、跳んだ状態のストレイフが振り向きざまに長剣を横一線に振り斬った姿が現れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます