第41話 誓い

 晴天の下、崩れ出した壁から背を離して座り込む。


 光の失った瞳はすぐ傍の少女を映す。


 地に腰つけた少女は顔を俯かせる。微かにうかがえるのは、噛みしめられた唇と小刻みに震える肩。


 視界に移すもの全てがユキトの心を蝕み、自責の念を加重する。


 もし現実化などという願いを叶えなければ、塔が破損することもなかったかもしれない。そうすれば紅夜夢も起こらず、ジョージたちも最悪の結末を迎えなくてもよかったかもしれない。


 もしフミと出会わず、彼女のルーンの能力が弱化していなければ、もっと別の方法でトロールを守ることが出来たかもしれない。


 不用意な行動を、浅はかな願いを、フミを悲しませた己を、悔やまずにはいられない。


『――ユキト、オマエはもしかしたら路側でオレを助けたこと、気にしてるかもしれないがよ』


 懐の名刺から録音されていたジョージの音声が流れていることに気が付く。


『オレは死ぬほど感謝してんだ。あの時車体に轢かれてたら、誰も何も報われずにオレは死んでたに違いないからな。だから、ユキトを助けたときの借りがどうって話は気にしないでくれ。オレはもっと昔に、返しきれねえ恩を貰ってんだからよ。旅立つ前に、それだけ伝えておきたかったんだ』


 淡く光る紫に目を落としながら、ジョージの言葉を聞き入れる。


『でも、つかだからこそ、これは約束とか使命とかじゃなくて、オレの我が儘として聞いて欲しい。勝手に旅立って何だが、ひとつだけ気がかりがあってな。お前も知っての通り、オレには二人の娘がいる。木板も破くようなやんちゃな娘と、誰とも距離を置こうとする優しくてドジな娘だ』


 語末が聞こえるとともに眼前の土壁が崩壊する。


 立ちのぼる土煙が次第に晴れる。


 その向こう側には空へと浮かび上がる無数の光粒子。


 そして、一人の小さな少女が地に転がっていた。


『どうかその大事な二人娘を――頼む』


 横たわる少女に駆け寄ったのはフミだった。


 フミは少女の隣で膝をついて座り込むと、少女を強く抱きしめる。


 少女の体は一切の光を発していない。


 気を失っているものの、静かに息をしていた。


「ああ、約束はしない。だから誓う」


 ユキトは遺された目前の二人を目して、ひとり呟く。


「絶対に、二人を守ってみせる……っ」


 震えた拳を、ユキトは再び強く握りこんだ。

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