COLORS 5

「キョウちゃーん、とうとうニンジャ壊れたの?」

「ちょ、とうとうって何ですかー? たまにエンジン止まるけど私のニンジャは生涯現役ですよー」

「いやぁ、こないだ古いドカティで飛ばしてたでしょ? おじさん追いつけなかったよ」

「ここのバイト代でドカティなんて買えませんって! 夢でも見てたんでしょ?」

 相変わらずバイト先ではおじさん連中にモテモテだ。しかし途中から会話を聞いていた約一名のおじさんからは突き刺さる様な視線。店長、聞こえてるならそろそろ時給を上げてください。


 そして看板。特に隠している訳でもないし、そもそも隠すものでも無い。私のニンジャからすれば全然新しいのだが、古いドカティってのは同じ看板で走っている四ツ谷モンスターS4の事に違いない。

 洋子は土日も仕事が入る事があり最近はあまりバイクに乗れていないと言っていたし、彼女と私では背格好も看板自体も違っている。いや、同じっちゃ同じチームの看板なのだが、私のはGベストに派手な原色遣いの刺繍看板、洋子のは白と金の二色の濃淡のみでライダースに直にペイントで描かれた看板。だから洋子と私を見間違う事はまずない。そもそもドカティじゃないし。

 しかし学生の頃の思い付きで背負い始めた看板だが、自分ではいつものライダースとセットぐらいの認識になっていた。いざこうして人伝ひとづてに話を聞くと、やはり見られている時は見られているもんなんだなと気付く。走りのマナーや法規もある程度意識しないと。


 それ以降も偶にお客様達から耳にする四ツ谷の走りは、誰の話を聞いてもすり抜け方やスピード域等、常識を逸脱したものだったという。

 ダイサンが何の仕事をしてるかなんて知らないし、孝子は昼職も夜職もバイクとは縁遠い世界。二人はそんな四ツ谷の話を耳にすることはないみたいで、私にしても最近少しずつ頻度が減っているこの深夜の集まりで、わざわざ四ツ谷の走り方について言及する事もしなかった。ただモヤモヤとはしてた。そんで四ツ谷に対するモヤモヤは別の形で私以外にも広がった。

「来月の最終月曜は絶対みんなで駄弁ろうよ」といつもそんなに主張しない四ツ谷が言った。これがモヤモヤの始まりだった。

 みんなその時は別にその日の気分で良くね? って口々に言ってたけど、いざその日が来るとやっぱりみんなが揃った。但し例によって四ツ谷は来ていない。……まだ。

「これってさ」

「あぁ。やっぱ思うか?」

「何? アンタ等、仲いいじゃん?」

 孝子がつまらない勘ぐりを入れ始めたところでモーターのような旋律をあげて真っ黒なフルカウルの大型バイクがやってきた。

「やっぱりか」

「まぁ長く乗りゃ偉いって訳でもねーけどよぉ」

「はぁ!? よりにもよってホンダじゃんか!」

 バイクから降りて嬉しそうにニューマシンを披露する四ツ谷と一気に不機嫌になる孝子。半ば呆れ気味のダイサン。


 私はというと、こういう感情を抱くべきじゃないんだけど、経済格差とかそういうものをみんなに感じてて。何だかんだと未だに進化し続けているダイサンのVマックスは一体いくらかかってるのか想像もつかないし、そんなお金稼げるなんてどんな仕事してるんだろうとか。孝子のドカティだって車検や点検を全部バイク屋に任せっきりで、さらに車だって持ってる。それでも孝子は稼いでるから全然平気みたいで。四ツ谷に至ってはお金以外に時間もある。それはそれぞれの環境の違いなだけなんだけど、それでも出来れば考えずにいたかった。

 私も一緒に笑って盛り上がってたけど、何となくみんなとの間に壁を感じていた。

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