COLORS 4

「つか、そろそろ夜は冷えてきたな」

 ダイサンがわざとらしく肩を小さく震わせる。

「缶コーヒーのありがたみが増すと思えばいいんじゃない?」

「確かにな」

「つかあんたそんなんばっか飲んでっから太んじゃねーの?」

「おめーも同じの飲んでんじゃねーか」

「私はいくら飲んでも太らないからいいんだよ」


 どうして缶コーヒーひとつでここまで小競り合いができるのか。暫く孝子とダイサンのやりとりを聞いていると、パーキングの入り口からL型ツインのサウンドが近付いてきた。

「お、S4じゃん!」すぐに孝子が反応する。私にはせいぜいモンスターかな? ぐらいしかわからない。おそらくダイサンもそうだろう。


 くだんのモンスターはそのまま私達のバイクの真隣に停まり、ライダーはバイクを降りるとヘルメットも取らずにくるりと回りこちらに背中を見せた。

 シングルライダースに真新しい切り口で袖の落とされたGベストを重ね着したその背中には〝GentleBreeze〟の刺繍看板COLORSが。

「四ツ谷⁈ つかあれ? ニンジャZX-6Rは?」

「おーイキオイあんじゃん! つかいいバイクじゃん! 苦労すんよー」

「何だよー、今日はもう来ねーのかと思ったぜ。おいおいメットも新調かよ!」

「真打は最後に登場するんだよ。つか、みんないっぺんに喋り過ぎだって」

 擦り傷もくすみもない綺麗なメットを脱ぐといつも通り四ツ谷の人懐っこい笑顔が現れた。


 まず孝子の喰い付きがいい、驚くほどいい。兎に角話すゝ。

 曰く、モンスターは基本的にスポーツモデルベースのネイキッド仕様といったポジションのバイクらしく、日本でドカティが売れるきっかけとなったのは一瞬だけ孝子の愛車だった900SSがエンジンベースの初期モデル(厳密にいうと色々違うらしいが)と中排気量の400SSベースモデルのおかげだとか。その後、当時の水冷スポーツの最高峰916がベースとなったモンスターS4が登場した。916は孝子が乗っている748Rの大排気量系統モデルで、四ツ谷のニューマシンに孝子が興奮するのも当然だ。

「つまりΓガンマとウルフ、GSX-Rジスペケとコブラみてーなもんか?」とダイサンが得意顔で補足しようとしたが、孝子の返答は眉間に皺を寄せてダイサンの顔を覗き込む仕草だけだった。

「安かったし、何よりカッコ良かった」と言って笑う四ツ谷に「その時代のドカは安くて当然。電装やらなんやら、めちゃ苦労するよ〜」と嬉しそうにネガティブなことを言う孝子。

「まぁあまりに酷かったら買い換えるよ」と爽やかな笑顔で即答する四ツ谷の顔をまたしても眉間に皺を寄せて覗き込む孝子。


 私はというと、ライダースの襟元から上がってくる熱気の汗臭さがみんなに気付かれないかと心配だった。

 孝子の話に相槌をうちながらも、頬は嬉しくて緩んでたし、身体は肌寒さを忘れるくらいに上気してた。

 でもダイサンの視線を感じて、慌てて緩みきった頬を引き締めた。

 そもそも私ってこんなにチョロい女だったっけ。


 でもね、私が思いつきで作ったM.C.クラブに洋子に次いで三人目の仲間が。嬉しくない筈がない。

「アハ、あはは」

「ちょ、どうしたのよアンタ?」

「いや、なんかおかしくって」


 もう隠さなくっても、カッコつけなくてもいいや。そんな気持ちで笑みが漏れた。

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