COLORS 3

 私達が集まるときはいつも適当。だけど第三京浜サンケイに集まる時だけは決まって月曜深夜だった。誰かがいない時もままあったけど、割と集まりは良かったと思う。

 それ以外だと、私やダイサンと四ツ谷はたまにライダーズカフェで無為な時間を過ごすこともあった。最初の頃はダイサンと同じで偶然が重なっていたんだけど、会って話している内に「次はあそこに行ってみよう」とかそんな会話をして集まるようになっていった。


 ごく普通の会社に勤めているダイサンは休日出勤の代休だと言って、平日の昼間でもカフェに通っていたが、割といつも顔を合わす四ツ谷に関しては、何の仕事をしているのかさっぱり知らなかったし、興味もなかった。

 本人は「自営業ならぬ自由業だ」と言って平日の昼間でもふらふらしていたっけ。

 一方、私と同じで平日休みの昼職と、さらに週末は夜の蝶(いや、蜂かな)の掛け持ちをしている孝子。彼女は元々そんなにカフェに行くようなタイプじゃないので、鎌倉にある学生の頃からのお気に入りのカフェ以外で私達と会うことはなかった。

 私と孝子は長い付き合いだからお互いの事は色々と知ってはいる。しかし四ツ谷が面子に加わり、いざこうして考えてみると私とダイサンに関しては一応LINEで繋がってはいるが、お互いにそれ以外の事はあまり知らない。四ツ谷に至っては誰も名前とその時の愛車しか知らないし、その名前だって本名とは限らない。それでも会うと馬鹿みたいにバイクの話で盛り上がれるから全く何も気にはしていなかった。

 上手く言えないけど、寧ろそういう距離感や関係性なんかがカッコいいって思ってたんだよね、みんな。

 だからある日のカフェで四ツ谷が言い出した彼の距離感を疑うようなその提案は、私もダイサンも驚いたと言うよりも面食らったと言った方がしっくりくるくらい意外な事だった。……女王蜂様は驚くこともなく、それどころか関心すら無い様子だったけどね。


 平日の昼過ぎ、いつものライダースカフェ。

 この時は孝子も居て、これ又いつもの様に孝子がダイサンのバトルスーツ姿を小馬鹿にし、ダイサンも負けじと言い返そうとしたが、普段着の孝子のセンスは癖は強いが悪い方では無いからドカティに付けられたマッハボーイくらいしか弄れず、続いて矛先がこちらに向き私のファッションセンスに言及し始める。

 正にそんなタイミングで唐突に四ツ谷が切り出した。

「キョウと同じ看板、俺も付けるよ。背負う? ってんだとちょい重たいし」と四ツ谷が爽やかな顔で笑いながら話した。

「え? へ? いや、何で?」

「何でって、面白そうだから。俺達一緒に走ることなんかないでしょ? んでもなんか一緒に走ってるような気になるし、そういうのもいいかもって」

「え? あ、うん。それはそりゃ構わないけど……いいの?」

「なーにニヤついてんだよ」

「えぇ? ニヤついてないって」

「いやあんたニヤついてんよ」

 今まで看板なんて少しも興味を示していなかった四ツ谷が不意に言い放った言葉。でもそれは私の中に元々あった価値観と合致していて、私の脳裏に学生の頃洋子と過ごした甘いときを思い起こさせた。

「刺繍屋さん横浜にあるから場所教えるよ。多分まだデータとっといてくれてると思う」

「あれ? あんた一瞬に行かないの?」

「別に四ツ谷一人で行けるでしょ?」

「完成したら保土ヶ谷で披露するよ」


 四ツ谷が私と同じ看板を背負ってバイクに乗る。それは確かに嬉しかったけど、孝子やダイサンの前で浮かれてはしゃいでる私を見せたくなかったからカッコをつけてクールを気取った。

 だけど本音は、嬉しいよりも怖い気持ちの方が大きかった。

 一緒に行って、私の目の前でやっぱり四ツ谷の気が変わってしまったりとか、想像よりも高くて思い付きで注文するには躊躇してしまったり、その時その場に私が居たからしょうがなく頼んだりとか、そんな事になったらどうしようって。

 そんな些細な事が私は怖かったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る