COLORS 2

 第三京浜保土ヶ谷パーキングエリア。

 かつてこの場所はバイク乗り達の聖地の一つだった。

 毎週土曜の深夜になるとバイク駐輪場だけでは到底その全数を収容出来ない程のバイクが集まり、入り口から出口までの進路脇に綺麗に整列して停められ、車用のスペースも三分の一近くがバイクで埋め尽くされる。

 雑誌に載っているようなプライベートカスタムやショップが本気を出して製作したデモカーが訪れることもあり、その周りにはすぐ人だかりが出来る。

 しかし、そうやってお金と時間を掛けたバイクばかりがちやほやされるわけではない。ライダーもバイクもピカピカと光る電球で覆い尽くした名物車輌なんかもいた。お金がなくたってアイデア次第でみんなの注目の的になる。誰しもが輝ける、誰しもが輝いていた。当時週末は正にお祭り騒ぎだったそうだ。

 今でも土曜や日曜の夜にはちらほらとバイクが集まることはあるが全盛期その時程ではない。


 月曜深夜の本日の面子は、平日休み組の私と孝子、仕事は土日休みらしいが何故かダイサン。昔を知らない私たち。口には出さなかったけど、懐古主義的な気持ちで集まっていたんだと思う。

「ガシャッ!」

 どうでもいい話をして、余りある時間を有意義に消費していた私たちの耳に届いたのはバイク乗りなら皆聞き覚えのある嫌な音。


 皆一斉にまずは自分のバイクを確認する。念の為? いやいやコレは殆ど条件反射だ。勿論誰のバイクも倒れてはいない。そして寸前に聞こえてきてた排気音を聞き逃す馬鹿もいない。重々わかっちゃあいるがまずは自分のバイク。その後で周囲に目を配る。

 すると私たちのバイクから数メートル離れた場所で立ちゴケしたてのバイクの姿。傍らに立つ線の細い兜男ヘルメットマンが慌てて愛車を起こそうとしている。


「ありゃあダメだな」ぼそりと呟いたダイサンが駆け寄り、倒れたバイクの右側から起こそうとしている男の反対側に回り込んでつま先でサイドスタンドを立てる。

「あっ、すいません。昔教習所で習ったのに……」

「焦ると忘れるよな、ほらいくぞ! せーのっ」ハンドルとシートレールを掴んだダイサンが掛け声と共にサポートする。ダイサンの体格と馬鹿力で倒れたバイクはあっけなく引き起こされた。

「大丈夫? 怪我無い?」バイク乗り、というか人として当然な程度には気遣って声を掛ける私。と、その横で無言でタバコをふかしている孝子。


 男が「大丈夫です」と言いながらヘルメットを脱ぐと、中からはダイサンとは対称的な優男が。メットを脱ぐ時に外した眼鏡を掛け直してこちらに向かって深々と頭を下げる。恰幅の言い……というかデブなダイサンと並ぶと謎の既視感を覚えた。

「ぶーっ! ハハッ! お前等アレじゃん? ミスタータイヤ男じゃん!」吹き出した孝子がタバコを挟んだ二本指で指さしながら突っ込む。

「あー、ソレだ!」身長的に逆転してはいるが既視感の正体がわかった。


 やれやれという表情で苦笑いするダイサンと顔を見合わせて微笑む優男。無愛想で歯に衣を着せぬ孝子のお陰ですっかり打ち解けた面々。その後、優男は四ツ谷さとしと名乗った。

 特に予定もなくフラっと走りに来ただけだという四ツ谷も深夜のライダーズお茶会ミーティングの仲間に加わった。

 話始めてまず最初に驚いたのは、四ツ谷のバイク歴だ。当初、彼の辿々たどたどしい雰囲気からてっきり免許取り立ての初心者だと思っていたのだが、実はもう十年近くバイクに乗っているのだという。

 新旧織り交ざったその車歴も錚々そうそうたるもので、その数も原付からカウントすると今のバイクで10台目だとか。だが今回のバイクは乗り換えたばかりで、直前までのと比べると足付きがあまり良くなく、油断して倒してしまったそうだ。


 こうして第三京浜でダイサンに続き四ツ谷と知り合った私。

『この場所で知り合って友達になって、もう何十年も続いている』バイト先のバイク用品店の常連さんから聞いたそんな台詞が頭の中で繰り返される。

 まぁ、ダイサンはノーカンとしても四ツ谷は割といい男。

 今日という出会いに感謝する私だった。

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