COLORS

 先日、深夜の第三京浜サンケイで知り合った男、斉藤信哉。

 ゴテゴテと肩パッドやら肘パッドやらが縫い付けられたごついライダースの上下にすねに鉄板があしらわれたオフロードブーツを履いた恰幅のいい大柄な男。長髪を後ろで束ねた強面な見た目とは裏腹に、これがまぁぺらぺらと良く喋る。

 実はサンケイで会ったのは初対面ではない。いや、厳密に言えば会ったことは無いとなるんだろうけど、少なくとも私と孝子は以前から奴のことを認識していた。

 孝子が奴にサンケイでブチ抜かれたと話していたのがファーストインパクト。当初、イタ車以外に興味がない孝子からアメリカンだと聞いていたが、その後明るい時間帯に出くわし一体いくら掛かっているのか想像出来ないほどカスタマイズされた旧車Vマックスに私と孝子もろとも一瞬で抜き去られた。しかしその直後、斉藤が直線しかスピードを出せない所謂いわゆる直線番長だと発覚したのがセカンドインパクト。

 なので初めて顔を突き合せたサードインパクト、保土ヶ谷パーキングエリアでは割と早めに打ち解けた。……筈。


 初めて話をした日からそれほど経っていない後日。鎌倉にあるお気に入りのライダースカフェで偶然にも斉藤と再会した。学生の頃の様にとりとめのないバイク談義をして、別にまた会う訳でも改めて会うつもりも無かったが、何となく連絡先を交換した。それ以降一週間に一度か二度、バイクの話題や新しくオープンしたライダーズカフェの情報を交換したりする関係が続いた。

 そうかと思えば一ヶ月何のやりとりも無いときもあった。


 お互いに全く恋愛に発展する様子のない間柄。

 バイト先のバイク用品店でなぜかおじさん達に変なモテ方をしていたので、こんなに気楽で心地よい男友達が出来たのは久しぶりだった。

 そんな斉藤だが、一体いつからだったかはわからないけどいつのまにか孝子も交えてバカ話に花を咲かせるのには欠かせない面子となっていた。

 孝子は斉藤のことをずっと第三京浜の直線番長と呼んでいて、友人となりつるむようになってからも、第三京浜とか番長といった仇名で呼ぶ。孝子にしてみればそれは親しみをこめつつバカにした呼び方なんだけど、斉藤も細かいことは気にしない性格だから、そのまま私もつられてダイサンと呼ぶようになった。

 それにダイサンはダイサンで孝子の走り屋ファッションをよくディスっていたしお互い様だ。二人がじゃれ合うようにお互いのバイクファッションを罵りあい始めるとそのうちに私にまで飛び火するから厄介。孝子からはダイサンも私も同じ90年代でお似合いだと言われ、ダイサンからはGベストにチーム看板なんてチャラいと言われる。ダイサンも私と同じでライダースにGベストを重ね着しているのだけど「おとこの背中に装飾は不要」ってのが口癖。


 今日も今日とて深夜の第三京浜、保土ヶ谷パーキングエリア。

 私たちがいつも通りくだらない話をしていると、平日深夜には珍しく一台のオートバイが駐輪エリアに入ってきた。

 この時間この場所にバイクが来ることは珍しかったが、入ってきた車種は街中でもよく見掛ける現行スポーツタイプ。誰も会話を止めることなくどうでもいい話を続けているとバイク乗りなら誰しも一度は聞いた事のある音が聞こえてきた。


「ガシャッ!」

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