Ride on Winter

 秋口からライダースを着ているから今更なんだけど、冬の足音が聞こえてくるとやはり革ジャンの袖に腕を通す時嬉しい気持ちになる。


 とか言っていられる時期も一週間もしない内にあっという間に過ぎ去って、こんな薄いライダースだけじゃ無理でしょって慌ててタンスを引っ繰り返しインナーを探す。しかしあまりにも寒い。去年の冬は一体何を着て過ごしていたのか? フリースやらインナーダウンベストや発熱インナーなどをフル装備して一気に限界対応モードに突入。これ以上寒くなったら電熱系インナーに手を出すしか残された道はない。


 真冬の交通整理でも寒さを防げる防水防風ダウンジャケットやスキーウェアを着ればいいって、バイク用品店バイト先の先輩ライダー達が教えてくれるけど。

 私は無理して、やせ我慢してでもライダース。

 フェラーリとかベンツとかさ、私が車に乗ってるならそれでも問題無い。パジャマで街中走ってたって、みんなが見るのはカッコイイスポーツカー。だけど、バイクはライダーも含めてバイク。街中を走ってる私を見た人が「バイクってカッコイイね」って思って欲しい。「バイクに乗ってみたい」って感じて欲しい。


 発熱インナーを着て、フリース、その上にダウンベストを着てライダースを羽織る。アンダーもジーパンの下には厚手160デニールのタイツ。ネックウォーマーも忘れない。通勤の間、ほんの三十分程度だけどそれでも寒い。さらに帰りはもっと寒くなる。


 ヘルメットフルフェイスの中で鼻水を垂らし、信号待ちで曇るシールドを上げると容赦なく冷気が差し込む。ネックウォーマーとヘルメットの僅かな隙間も寒いを通り越して痛い。かじかむ身体はライディングをぎこちなくさせ、冷えた道路の白線もマンホールの蓋もいつもより滑りそうに見える。信号待ちでエンジンやサイレンサーに手を当てて僅かな時間で暖を取る。

 乗る前にも、降りた後にも、ヘルメットを脱ぐとすぐに「寒い寒い」と誰にでもなく文句を言って。

 そうやって無理してバイクに乗って、私ってバカだなって。


 そんな冬のライディングも、そんなバカな私も。何だかんだ言って好き。

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