Colors of Biker 〜テコ入れ失敗〜
「でね、交差点の手前が草伸び放題で見えなかったんだけどさ、良く見ると高校生が微妙な位置に立ってたのよ」
「あー、信号の無い横断歩道の歩行者優先ってやつですよねー。先週習いましたよ」
「そうそう。んですぐ後ろに後続車いないかだけ確認しつつ念のため左に寄せて止まったんだけど……」
「フォーン、フォフォフォフォン」
お客さんがいなかったので光ちゃんと雑談していると、駐輪スペースにカブキグラフィックスのCBR250RRが止まった。間違いなく里果ちゃんの筈だけど、何となく違和感がある。いつもヘルメットから出てる長い黒髪が見当たらないのだ。しかしメット片手に元気良く入店してきた彼女を見るとその理由は一目瞭然だった。
「こんにちはー!」
「おー! リカっち似合ってんじゃーん!」
「いらっしゃ……って、えぇっ! どしたのその頭! やっとダイサンがダメ男だって気付いたとか?」
「違いますよっ! イメチェンですよ、イ・メ・チェ・ン! 失恋して髪切るって、昭和ですかっ!」
人差し指を立てて、チッチッチと振りながら答える里果ちゃんのヘアースタイルは色鮮やかなブルーのショートカット。事前に聞いていたのか光ちゃんは知っていた様子。
「それにしてもその、ピンクとブルーのヘアカラーが二人並ぶとどっかで見たような?」
「あー、お姉さんちょい古いけど、それリゼ……」
「あれだ! お星様の双子の!」
「キョウさん、本当に平成生まれですか?」
今日は里果ちゃんが自分のYoutubeチャンネルのテコ入れ企画に女子ツーリングを思いついたとかで、光ちゃんと二人で行くツーリング先の打ち合わせにやってきたという。客足も無いし光ちゃんには上がってもらい、二人分のコーヒーとスイーツを注文して頂いた。勿論サービスではない。光ちゃんの分はキッチリ給料から天引き。
「やっぱ無難に西湘バイパスから箱根越えの沼津港でお昼ご飯……あ、バイパラ挟んだ方がバイクチャンネルっぽいか!」
「リカっち、それだと私行けないよ」
「え? なんで?」
「だって西湘バイパス乗れないもん」
「え? なんでなんで?」
「それにそんな距離ビーノの充電持たないし……」
「いや、おっきいので行けばいいでしょー!」
「私原付免許しか持ってないよ。言ってなかったっけ?」
「えー! 聞いてないよー。ライダーズカフェ店員なのにスクーターしか乗ってないの?」
「んー、でももちっと待っててよ。今教習所通ってる最中だからさ」
「じゃー次回はヒカルの教習所回で!」
「いや何処見て話してるのよ? そっちにカメラとかないから! てか何処にもないから。んで次回ってなに?」
「私のチャンネルで」
キャイキャイと行われているそんなやりとりをBGMにカウンターの中でバイク雑誌を捲りながら二人を眺めていると母親のような心境になった。……結婚も出産も未経験ではあるが。
「あ、大事なこと思い出した! そういえば光ちゃんバイク何買うか決まったの?」
「えへへー、実はこっそり決めちゃってます。免許取れる頃には納車間に合うように」
「え−? 何にするのヒカル?」
「それは納車まで内緒で!」
「いや何処指さして決めポーズ取ってるのよ? カメラとかないんでしょ!」
―K36―
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