Colors of Biker 〜必然的メタ☆リカ〜
フォーン。フォフォフォフォ、フォン。
来客は型落ち(筆者忘れがちですがColors of Bikerは少し未来の世界線)の派手で個性的な歌舞伎クマドリグラフィックのCBR250RR。ヘルメットからは一束に結わえられた長い髪の毛が覗いている。初来店と見られるライダーはどうやら女性の様子。
ホンダCBRシリーズには正しき機械としての日本の誇りや尊厳を感じる。これは私の友人、沢田ゆず季のかつての愛車だった事に起因する感情だろう。
彼女は孝子の幼馴染みで元走り屋。孝子のドカティに国産車で勝てる事を証明したいと息巻いていた。実際、彼女の挑戦はいいところまでいっていたのだけれど、最後は接触転倒事故による大破という幕切れで彼女と彼女のCBRの物語は突然終わりを告げた。
その後、金銭的な面と出物的な部分の両面で次の車輌購入が決まるまでの間、腰掛け的にガルアームのNSR250SEに乗っていたのだけれど、彼女の走りとNSRの相性が良かったのと、湯河原・椿ラインというステージ的な優位性も発揮され、孝子のドカティにあっけなく勝ってしまった。
人は目的を遂げてしまうと歩みを止めてしまうことがある。燃え尽き症候群、蛙化現象、等々。彼女が徐々にバイクに乗る機会が減っていったのは、これが原因なのか、それともこの頃出逢った
彼女が降りたことは事実。責めはしないし、また乗るならば歓迎するだけのこと。
「お久しぶりですー!」
いや、誰だっけ?
「今日はまだ信哉さん来てないんですかー?」
あれ? そもそもシンヤって誰だっけ?
「キョウさん。信哉さんてダイサンさんのことじゃ……」
「あーっ! キャピお、あ、いや。あの、合コンとかSNSお盛んな。なんかチャラ男のニンジャ400でタンデムで来てた! 同じ去年の事だけど実際はダイサンがドラッグレースでエンジンブローする前にいらしてたけど順番的にわかりにくいタイミングで初登場した……」
「ちょ、ちょ、キョウさん?
「ちょっと! キャピ女て? お姉さん踏み
一年ぶりまでもいってないけどかなり久しぶりな、今はカメラ片手にドア外にいる彼女は……
「お久しぶりな方も初めましてな方もこんにちはっ! シンメトリー系バイク女子YouTuber
彼女が初来店したのはすでに半年以上前のことだが、その間に一体何があったのか?
「今日は神奈川県某所にある、ナナなんと店員さんみんなガールズバイカーという、バイク女子も安心して立ち寄れるライダーズカフェ〝Colors of Biker〟にお邪魔しましたー! 初めましてー!」
「お久しぶりー」
「ほぼ一年ぶり? いらっしゃいませー」
「カーットーッ! ちょっとちょっと何考えてるんですか? 今の流れだとそこは〝初めまして〟か〝いらっしゃいませ〟でしょー! ハイッもう一回!」
と入店だけでも二十分くらいの時間をかけて再登場した彼女。SNSでフォロワーから
「うわぁ……」
「ちょっとちょっと、なんですかその反応ー! 今はバイク女子系って群雄割拠なんですから! 私の登録者数だってかなり凄いんですっ!」
「てか、食べて行けないでしょこれじゃ。うちは光ちゃんいるからバイトも雇えないし……」大学を卒業した光ちゃんは今年からフルタイムで正式に働くことになった。店も軌道に乗り売上も上がっているのと、洋子のデザイン仕事の比率が増加してきたことに起因するが、そうは言っても本人とは随分慎重に話し合った結果。
なのでこうして今日みたいな平日にも光ちゃんが居るって訳。
そう。本日は平日なの。
「私の収入から働き口まで心配していただいて大変恐縮ですが、こう見えてもちゃんとフルタイム週五でバイトしてますから。YouTuberとしての活動も今日みたいにバイトがお休みの日を利用してやってる感じなのでご心配なく!」
あー、この子平日休み組かぁ。バイク乗りとしては道空いてるしいいんだけど。
「因みに今日は信哉来ないよ。アイツ基本土日しか来ないから」
「えー! 私永遠に会えないじゃないですかぁ、聞いてないですよー」
まぁ言ってないからね。
「ねーねー、リカっちはなんのバイトしてんの?」
「いや、ピンク髪店員さん距離感バグってない? ガススタですよ、ガススタ。私
「ピンク髪じゃなくって
「県道〇号の回転ずしの……」
何だかんだとキャピ女こと里果ちゃんと光ちゃんは歳が近いのもあって打ち解けてる感じだ。二人で友達の様に盛り上がって話してる。彼女が働いているガススタもお店から近く、ってあれ? 毎朝通ってるぞソコ?
「キョウさん! ちょっとこれ着てコレ!」笑いを堪えきれてない表情で光ちゃんがスタッフルームから私のライダースを持ってきた。〝Gentle Breeze〟の看板の入った革ベストも付けたまま。お店をクラブハウスの様にしたくないから、スタッフの店内での看板着用は原則禁止にしてるんだけど、まぁお客さんも里果ちゃんしかいないしいいか。
渡されたライダースを羽織ると、光ちゃんは「ほらほらーっ」と里果ちゃんの背中をバシバシ叩きながらお腹を抱えて笑いこけ、里果ちゃんは天井を仰いだまま肩を落として脱力。
「なによ一体?」
「リカっちが最近ダイサンさんの次に気になってた忍者乗りってキョウさんだったみたい。アハハハ、アハアハ、ヒー」
光ちゃん、その爆笑には私が男に見えるって問題も内包されてるんだけど。まぁ今日の所は不問にしておこう。
「だって、毎朝信号で止まる度に私の方見てたから、意識しちゃうじゃないですかぁっ」
「あー、その。なんかゴメン。あそこのガススタって壁に時計付いてるでしょ? その、私のくらい古いとバイクのメーターに時計って付いてないから。あの県道沿いってあそこくらいしか時間確認ポイントなくって」
「えー? じゃあ古めのバイク乗っててカッコイイ人がみんなこっち見てるのって」
「うん、どういうのがカッコイイ基準かわからないけど。タイトなライダースとか着てる人は、私もそうだけどまず腕時計できないし」
しょんぼりとしている里果ちゃんと笑い死にしそうな光ちゃん。
今度ダイサンを里果ちゃんがバイトしてるガススタにガソリン
―K36―
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