Colors of Biker 〜珍しい客7〜
駐輪スペースにカムギアトレーンの音と2スト単気筒のけたたましいサウンドが響いた。
ドアが開くと同時に「いらっしゃい」と声を掛ける。
珍しく女性連れのトワ。一緒に入ってきた女性の脇からガラスドア越しに見えるのはVFR800Pとブラック&ライムグリーンのツートンカラーのDトラッカー。
「珍しいわね。アンタが女の子連れて来るなんて」
「まぁ。女の子って枠じゃないんですけど……、痛っ!」硬質プラスチック製の脛当てのついたオフブーツの蹴りがトワの
「初めまして。永遠
「表のDトラッカーってもしかして安全運転講習会に出てたっていう?」
「いや、あれDトラッカーなんてかわいいもんじゃないッスよ」
結局、トワが警察の威厳を掛けて散々練習を重ねて臨んだ二輪車安全運転講習会は、最後の追いかけっこでトワが転倒、一重ちゃんの逃げ切りで幕を閉じたという。
彼女のパッと見だけDトラッカー仕様のオートバイはカワサキのレース用モトクロッサーKX250(2ストローク)に無理矢理保安部品を付けナンバーを取得したもの。そしてそれをベースに小径ホイールでモタード化、Dトラッカーの外装を付けた〝羊の皮を被った
「ていうかトワ転けたの? 現役白バイ隊員が転けたの?」こみ上げてくる笑いは隠さずに聞いた。
「一重ちゃんがコーナーリング中にわざとペースダウンして、フロントタイヤにリアタイヤスライドさせて当ててきたんですよ。危険運転どころの騒ぎじゃないッスよ」
「あははー。堪忍やで! かわいい教え子を千尋の谷に突き落とす親心やないか」
「教え子って? つか、マジでそんな漫画みたいなことやれるんだ……」
「俺、一重ちゃんと彼女のお父さんにジムカーナテクを教えてもらってたんスよ」
トワから一重ちゃんとの出会いやジムカーナ練習の話を聞き、
「そういえば、お姉さんも大変だったみたいですね。聞きましたよ、盗難事件の件」
「結局、車体は見つかったけど、ガソリンタンク無かったんだよね……」
「まぁ
トワの話では、船便で個人輸入された荷物の中に違法薬物密輸の疑いがある物が見つかり、組織犯罪関与の可能性を懸念し、まずはそのまま配達をしてある程度泳がせておいてからの逮捕劇が展開される予定だったとか。いよいよ麻薬取締局から管轄の刑事へと協力要請が入り、警察が考える範囲の早朝、容疑者(千宏ちゃんの彼)の自宅に令状をもって数人の刑事が押し掛けたが、バイク乗りが考える早朝はもっと早かったようで、容疑者は証拠品のバイクと女性を連れ立ってツーリングに出掛けていてもぬけの殻。
その後、ツーリング先から自宅に帰ってくるのを待ってから踏み込む予定が、帰り道立ち寄った〝
丁度トワが話終わる頃、途中で話の内容に興味無さそうな顔でトイレに行っていた一重ちゃんが戻ってきた。カウンターに座ろうと椅子を引いた時、床になにかが落ちる音がした。
「一重ちゃん、何か落ちたよ?」
「なんも落としてへんけどなぁ」彼女がポケットの中を確認して椅子に腰を掛けた瞬間、足元で「メキッ」と音がした。
「あかーん! なんか踏んでもうたぁ」慌てて立ち上がった彼女が椅子の脚を持ち上げて、小さな機械のようなものを拾った。
「なんやコレ?」
「GPSトラッカー? いや、なんかスピーカーみたいな? もしかしたらお客さんが落としたワイヤレスイヤホンとかかもっ」だとしたら誰か探している人がいる筈だ。あとで問い合わせがくるかも知れない。……でもめっちゃ壊れてる。
「いや、お姉さん。これ盗聴器じゃ?」トワが神妙な顔になり少し考え始めた。
「お姉さん、今回の盗難って本当に偶然なんスよね? 税関も麻取りも係わってるし、もしかしたら何処かに内通者がいたんじゃないかって。地方警察だから本庁に舐められてんじゃないかって思って」口には出さないが、警察か麻薬取締局の誰かがうちに盗聴器を仕掛けたのではと疑っている様子だ。
「映画じゃないんだから。考えすぎじゃない?」
話がややこしくなりそうだし、千宏ちゃんの彼氏が逮捕される可能性もあったので、謎の外国人女性エムのことは伏せておいた。
―K35―
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