Colors of Biker 〜珍しい客0〜

「うへぇー、やる気でねー」


 水色の制服でカウンターに突っ伏して情けない声を上げているのは不良白バイ隊員トワ。

「それアンタがその恰好で一番言っちゃだめなヤツでしょ」

「いや、仕事だけど仕事じゃないっていうか。休日出勤みたいな仕事があって……」

 平日の暇な時だし、たまにはいいかとトワの四方山よもやま話に付き合ってやった。


 どうやらトワは管轄署内の二輪車安全運転講習の講師役の仕事が回ってきて憂鬱な様子。寧ろなんで今まで回って来なかったのかと尋ねると、何だかんだと理由を付けて持ち回り当番から逃げていたという。しかし今回は逃げられない事情があるようだ。

 実はコイツ、警視庁主催のジムカーナ大会で全国優勝を狙える腕前なのだけど、毎回途中で巧みに手を抜いてわざと負けている。曰く「一位になったら面倒臭い仕事が回ってくるから……」との事だが。そのジムカーナ大会のトップランカー達の一部はトワの怠慢に気付いていて「手抜きを所轄にバラされたくなければ今回だけでもやれ」と講師役を引き受けざるを得なくなったという。結局面倒臭いことからは逃げられないようだ。

 しかし何故、他の所轄の隊員数人までもがそこまでしてトワに講師役をやらせようとするのか? その裏側には警察の意地だとかメンツがかかっているらしい。

 と言うのも、安全運転講習会ではその締めくくりに参加者全員でジムカーナタイムの計測をするのだけど、その中の上位数名から希望者のみ現役白バイ隊員と追いかけっこが出来るお遊びイベントエキシビションマッチがあるらしい。

 本末転倒だが、その対戦で白バイ隊員から逃げきったとか、そういう呟きをしたいが為に参加し、無理をして転んでしまう人も年々増えてきていて、それはそれで問題視されているそうだ。

 そして通常は白バイ隊員が負ける(この場合、相手が逃げ切る)事はまず在り得無い。国際大会などの選手が出てくれば勿論負ける事もあるが、流石にそれだと名前が知られているのでわかるし、それにそういう選手はまず参加しない。

 だが、最近関東近郊の講習会で一人の無名ライダーに白バイ隊員が全く追いつけずに逃げ切られてしまう事態が頻発しているという。


「いや、個人情報保護法の観点からどういう輩かってのは教えてもらえないんですけど、兎に角四の五の言わずにそいつに勝って白バイ隊の威厳を保て! ……って」

 流石に警察内で情報漏らすとかアウトか。そっち系に疎いトワの為に軽くネット検索してみたが、これといった情報は見当たらなかった。次にSNSを検索してみると、画像は無かったが『Dトラッカーが白バイに勝ってて草w』という呟きが見つかった。

「Dトラ? まさかねぇ」

「……」

「トワ?」

 返事がないと思ったら、いつの間にから幸せそうな笑みを浮かべたまま寝息を立てていた。

 そういえばここの所ジムカーナ練習だけでなく、猿ヶ島でトライアルまでも組み込んで特訓していると言ってたな。

 絵面えづら的に宜しくはないけど、私から見るとまだまだ幼さの残る寝顔を眺め、そっとしておいた。


 ……それにしても幸せそうな顔で寝てるな。夢の中で高校の頃に盛大に振られた美人のあの子でも出てきているのだろうか?

 高校生ガキの頃のトワを思い出し、私も自然と微笑んでいた。


―K35―

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