Colors of Biker 〜No Reason〜

――「乗らなきゃいけない理由は無いんですよね。ほんとひとつも、それが問題。

 例えば。仕事が忙しくて、お金が無くて、結婚して、マンションに置き場所がなくて、子どもが産まれて、役職について事故を起こすと会社に迷惑をかけるから……、ね。乗れない理由なんて幾らでもあるのに」



「何でバイクに乗ってるんですか?」

 偶にそんなありきたりな質問を受ける事がある。

 そんな投げかけをしてくるのは大抵が若い子たちで、私としては夢を壊したくないからその都度返答に迷うし、ベストな答えを出せたと思えた事はいまだにない。別に嘘偽りを言わなきゃって訳じゃないけど、ある程度脚色して伝えてもバチは当たらないじゃない。


 父親が乗っていたから? 残念ながら彼氏では無い。

 通学に不便だったから? スクーターでも良かったんじゃ無いの? って、そんなこと言うと漢字の名前とかのマイノリティな所から声が聴こえてきそうだけどさ。そういう人達が乗ってんのはもうスクーターカテゴリを超越しちゃってるから。

 じゃあ、風を感じたいから? 一年を通して風が気持ちいいのって初夏くらいのものよね……。


 大晦日の本日、最終営業を17時までにして開けてはみたもののお昼時を過ぎた今お客様は一人。

「……で。結局何なんですか、キョウさんがバイクに乗ってる理由って?」本日、私にそんな面倒臭……純粋な質問を投げかけて来たのは常連の花崗みかげさんだ。

「やっぱ学生の頃って車維持するのは厳しくって。父が乗ってたってのもあってバイクになるんですが。そんでまぁ、結局ずっと乗り続けてて。なんだか惰性ですかね……」付き合いも長い彼女には飾らなくていい。

「うわぁ、それライダーズカフェの店長が言っちゃダメなやつでしょー」

「や、勿論乗ってて楽しいってのが一番の理由ですよ、きっと。でも改めて考えるとそんなに明確な理由って無いもんかもって話で」


 そんな話をしているとえげつない排気音のファイヤーブレードに乗ってトワがやってきた。

「いらっしゃい、今日は非番?」

「せっかくの休みなのに嫁さん寝坊したとかで有明までタンデムですよ。年末年始の交通安全週間に都内走るとかホント勘弁して欲しいッス……」

年末に今日ビックサイトって、奥さんマンガ同人誌描いたりすんの?」

「ちょっ、何か詳しいッスね。いや、そういうんじゃ無いんですけど……」

「こんにちは。流石にトワさん捕まったら洒落になりませんもんね」

「あ、あれ? もしかして表のZ900RSって花崗さんのですか?」

 花崗さんは長年乗ってきた愛車を修理するかどうか散々悩み、乗り換えという選択をした。バイクに乗り続けるにはこだわりも必要だけど、何よりもいざと言う時に決断を出来るかどうかが重要だ。男だけじゃない。女の仕事だって八割は決断、あとはオマケなのだ。


「トワさんは何でバイクに乗ってるんですか?」

「んー、車ってやっぱりなんだかんだで実用的ですよね。それに比べてバイクって大人が買える一番でっかいオモチャじゃないですか? 1,000ccもの排気量で人間一人しか運べないんですよ。なんかそういうのって楽しいじゃないですか」


 高校生の頃からちっとも変わっていないこいつトワはいつまで経っても私の中でガキんちょだと思う。だからこそこいつのことは好きだし尊敬できる。言うと付け上がるから一生言わないけど。


「花崗さんは何でバイク乗ってるんですか?」いつもは聞かれる立場だけど、偶には私から聞いてみる。

「私、自分の好奇心に逆らえないタイプなの。理由なき服従? Mっ気があるのかも」

 そう言ってミステリアスに微笑む彼女は確実にS。

「痛っ!」

 そんな彼女を頬を赤らめて見惚れているトワにデコピンをした。


―K36―

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